訴訟が起こる前にできる訴訟対策ベストプラクティス(知財編):訴訟リスクを最小限にするために今できること

OLC協力弁護士のAamir Kazi弁護士による記事です。OLCの読者である日本向けにアレンジした記事を書いてくれました。元記事はここからアクセス。

ビジネスは少数の例外を除き、高額で先行きが不透明な知財訴訟はできるだけ回避したいものです。訴訟自体を100%回避するのは不可能ですが、予期できる知財問題に対する準備が出来ていれば、リスクを最小限にとどめ、かつ、訴訟で勝つチャンスを高めることができます。今回は社内でできる訴訟が起こる前の訴訟対策手段を2つ紹介します。

1.企業機密搾取のクレームを最小限にとどめる取り組み

企業機密搾取の疑いがかけられてしまうと、対応が高額で多くのリソースを消費してしまうので、このようなクレームは回避するのがベストです。

具体的な話に進む前に、企業機密について簡単に説明します。企業機密とは、短くまとめると、機密であることから価値が得られ、会社が機密情報として扱っているものです。(”anything a business keeps confidential that provides value by nature of it remaining confidential.”)有名な企業機密にはコカコーラのレシピやWD-40の製法があります。その他にも、料金戦略や顧客リストなどのビジネスに関わる情報も企業機密になりえます。搾取には通常、不適切な方法で企業機密が得られた、または、使われたという条件が必要になります。そのような問題が頻繁におこるのが、競合他社の従業員を雇う時です。このような場合、新しい従業員を雇う際にしっかりとした対策を取ることで、後に起こるかも知れない企業機密搾取のクレーム対策が行えます。

その人は元雇用主の企業機密を(意識していない状態で)保有している可能性があるので、競合他社から従業員を雇うということは大きなリスクになります。新しい従業員の業界での経験や知恵を有効活用するのはまったく問題ありませんが、そのような知恵に元雇用主の企業機密が含まれていないということを明確に確かめる必要があります。このようなリスクを制限するために有益な戦略として、雇用が始まる前に新しい従業員との面会を設けて、期待を明確にすることをおすすめします。

雇用をする会社は、新しい従業員に対して、個人的な経験を活かすことと機密情報を使うことの違いを知ってもらい、機密情報の使用を回避する重要性を強調することをおすすめします。また、雇用主は、新しい従業員と共に、機密情報のソースとして可能性のある場所を確認することが大切です。代表的なソースとしては、Drop boxやGoogle Driveなどのクラウドストーレージ、個人のウェブベースEmailアカウント、ソーシャルメディアアカウント、個人のパソコンやスマートデバイス(テキストや写真も含む)、あと、場合によっては、ホームオフィスも含まれます。新しい従業員は、上に上げたツールを過去に使い、元雇用主のデータをダウンロードしていた可能性があり、そのデータに元雇用主の企業機密が含まれている可能性があります。通常、新しい従業員によるこのようなデータの保有は無害である場合が多いですが、雇う側としては、雇用が開始される前に、新しい従業員がそのようなデータを消去したということを確認し、できれば、書面で確認を取ることが好ましいです。

また、雇用する会社は、以下のような条項を含んだ予防的な契約書を新しい従業員に要求することも出来ます:(1)元雇用主の機密情報を使わない・開示しない、(2)元雇用主に関する公開されていない情報を保有していない、(3)元雇用主の企業機密から派生したアイデアを提示しない。元雇用主から学んだ企業機密を機密にしておく重要性を新しい従業員に明確に伝えると共に、このような契約書は雇う会社の対策を書面化することで、企業機密搾取のクレームがあったときに会社としてどのような取り組みを行っていたかを明確にすることができます。

2.故意侵害の疑いを回避する

このように様々な予防対策をとっていても、時として知財訴訟は避けられない問題です。特許の場合、故意侵害(willful infringement)が認められた場合、3倍までの賠償が認められることがあります。著作権の故意侵害の場合、法定で定められた賠償の5倍になる可能性があり、商標の故意侵害の場合、利益を失うリスクが高くなり、Georgia Trade Secrets Actにおいては、故意の企業機密搾取では実際の賠償の2倍までの賠償金支払いが命じられる可能性があります。

特許訴訟の場合、故意侵害のリスクは2016年以降とても高くなりました。それ以前の故意侵害は客観的なrecklessness(“objective recklessness”)つまり、自分の行動が客観的に見て有効な特許を侵害するような行動である可能性が高いにもかかわらず行動したということに重きが置かれていました。この基準においては、少しでも証拠を提示すれば、故意侵害を避けることはできました。しかし、Halo v. Pulseにおいて、最高裁はこのような不必要に厳しいテストを廃止し、侵害が起こった際の被告側の主観的な故意の意思によって故意侵害を判断することができるようになり、それと同時に、証拠に対する基準も低くなりました。Halo判決以降、統計的に見てみると故意侵害は証明しやすくなり、また、故意侵害の問題が公判で取り扱われるだけで侵害が認められる率が上がってきています。また、裁判所は特許の故意侵害の判例を参考に他の知財における故意侵害の問題を解釈する傾向にあるので、Halo判決は特許以外の分野でも影響がありそうです。

幸いにも、ビジネスはIPポリシーによってある程度故意侵害のリスクを軽減できます。一番重要なのは、すべての知財に関わる問題を法務に集約することで、適切な(秘匿特権で守られた)分析と取り扱いをすることです。また、ポリシーにおいて、複製の疑いと戦うための独自開発の証拠の維持なども行うように示すことができます。また、ポリシーでは法務の必要性を強調し、マネージメントが第三者との関わりの際に誠実に対応し、侵害の疑いや問い合わせに的確に対応することも強調するべきでしょう。最後に、訴訟のリスクが高い場合、会社は訴訟で頼りに出来るような代理人の公の意見所を得るべきでしょう。このような代理人の意見はすべての場において必要ではありませんし、あったからといって大丈夫ということではありませんが、陪審員の心証に影響をおよぼす可能性があります。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者:Aamir Kazi, Noah Graubart, and Thad Kodish(元記事を見る

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