米国連邦巡回控訴裁(CAFC)は、今年の8月に、人工知能(AI)ソフトウェアを特許出願の発明者として記載できるかどうかが話題となったThaler v. Vidal, No. 21-2347 (Fed. Cir.) の判決を発表しました。CAFCはAIは発明者にならないと判断しましたが、その理由を考察してみようと思います。
CAFCで争われるまでの経緯
米国特許商標庁(USPTO)は、AIシステムを唯一の発明者として記載した2件の特許出願を許可しませんでした。USPTOは、両出願とも有効な発明者を欠いているため、不完全な出願であると結論づけました。USPTOは、米国特許法は発明者を「自然人に限定」しているという立場を取っています。しかし、その見解に反論したAIシステムを代表して特許を申請した Stephen Thaler博士は、連邦巡回控訴裁に至るまで、一連の控訴を行いました。
CAFCにおける見解
控訴審において、CAFCは特許法は発明者は自然人でなければならないと定めているため、AIを特許出願の発明者として記載することはできないとした連邦地裁の判断を支持しました。CAFCは、特許法は発明者は 「個人」でなければならないと明確に規定している、というUSPTOの結論に同意しました。特許法自体が 「個人」という言葉を定義していないため、CAFCは、Mohamad v. Palestinian Auth., 566 U.S. 449 (2012) の米国最高裁判例に依拠し、「名詞として使われる場合、『個人』とは通常、人間、人を意味する」と説明しました。また、CAFCは、オックスフォード英語辞典、Dictionary.com、辞書法からの定義と、CAFC自身の判例であるUniv. of Utah v. Max-Planck-Gesellschaft zur Forderung der Wissenschaften E.V., 734 F.3d 1315 (Fed. Cir. 2013)に依拠し、「発明者は自然人でなければならず、法人や主権者にはなれない」としました
却下された主張
CAFCは、判決に至るにあたり、以下のThaler博士の主張も否定しました:
- まず、CAFCは、特許法の文脈で解釈される場合、「発明者」には人間以外の存在が含まれて理解できるとする Thaler博士の主張を退けました。 Thaler博士は、その主張を支持するために、特許法のいくつかの条項を指摘したが、CAFCは、それぞれに説得力がないと判断しました。
- 第二に、Thaler博士は、「イノベーションと公開」を奨励するために、AIによって生み出された発明は特許可能であるべきだと主張しましたが、CAFCは、この政策的議論を「推測的で、特許法の本文および記録における根拠を欠いている」と判断しました。
- 第三に、CAFCは、AIシステムを発明者として認めることは、特許の憲法上の目的である 「科学と有用な芸術の発展を促進する」ことを支持するというThaler博士の主張を退けました。CAFCは、「彼が引用した憲法規定は、議会に対する立法権の付与であり、議会は特許法を成立させることによって、その権能に従って行動することを選択した」ため、この主張は適用できないと判断しています。
- 最後に、Thaler博士は、南アフリカが彼のAIシステムを発明者として特許を付与したことを指摘しましたが、CAFCは、南アフリカ特許庁はその際、米国特許法を解釈しなかったと反論しました。
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今のところ、特許発明者は人間の領域であることに変わりありません。しかし、今後数十年にわたりAIが発展し続ければ、AIの発明者性の問題がまた話題に上がることは間違いないでしょう。