管轄内のGoogleサーバーの存在は裁判地を決定するには不十分

今回のCAFCの判決は、事業者にはうれしいニュースです。Eastern District of Texasは特許業界ではとても有名な特許権者に有利な裁判地です。そのためNPEなどが積極的にEastern District of Texasで訴訟を起こし、事業者(特に大企業)にとって大きな悩みの種の1つとなっています。

これまでの裁判地に関するトレンド

今までにも、最高裁判決TC Heartland事件以降、裁判地(Venue)に関するルールが厳しくなり、以前よりも特許権者が自分に有利な裁判地(Venue)を選びづらくなりました。そのため、特にNPEに人気だったthe Eastern District of Texasにおける特許訴訟の数が激減し、the District of Delawareやthe Central and Northern Districts of California における訴訟が増えるなどの傾向はありましたが、Eastern District of Texasで訴訟をするための創造的な主張は絶えません。

その1つが、管轄内にあるサーバーです。裁判地の管轄にあるサーバーの存在は、「習慣的な定着したビジネスの場」なのかが問われてきました。

地裁判決は以前取り上げていました

今回取り上げる In re Google, 2019-126 はCAFCによる判決ですが、実は、地裁における判決は約1年前にOLCでも取り上げています。そのときに、地裁における判決は、現在のトレンドには反するものなので、高裁(CAFC)でどのように取り扱われるかが楽しみと言いましたが、実際にCAFCでは地裁の判決が覆りました。

概要

概要は以前の記事を参考にしてほしいのですが、この案件では、Googleが借りているthe Eastern District of Texasの管轄内に置かれているサーバーが28 U.S.C. § 1400(b)に書かれている「習慣的な定着したビジネスの場」(“regular and established place of business”) であるかが争われました。

審議の結果、the Eastern District of Texasは、Googleは情報配信のビジネスであり、問題となっているサーバーはローカルデーターウエアーハウスとして特徴付けられるため、サーバーは靴屋の倉庫と同じような扱いを受けるべきとし、Googleが借りているサーバーは物理的な場所で(“a physical place ”)、かつ、「習慣的な定着したビジネスの場」(“regular and established place of business”)であるとしました。

CAFCの見解

CAFCは地裁における判決を覆し、裁判地を決定するにあたり、需要な点を示しました。今回の判決で特に重要な点は、「習慣的な定着したビジネスの場」(“regular and established place of business”)には従業員、または、代理人が必要だということです。

今回のケースでは、Googleの従業員は、the Eastern District of Texasの管轄にいないことが明白だったので、ISPがGoogleの代理人となっていたかどうかか焦点になりました。

この点に関しては、ISPとGoogleの間の契約書の分析により、以下の3つの点からISPはGoogleの代理人ではないという決断を下します。

  • 契約ではISPはGoogleサーバーにネットワークアクセスを提供するとなっていましたが、Googleは暫定的な管理権を持っていないとして、この規約の元では、ISPは代理人ではないとしました。
  • また、契約では、ISPがサーバーをインストールすることが示されていましたが、それは一回限りの作業なので、この規約の元では、ISPは代理人ではないとしました。
  • 最後に、契約では、GoogleはISPに対してサーバーの維持などのサービスをリクエストできるとしていました。このようなサービス規約は代理人の条件を満たす可能性もありますが、問題となっている法律に基づいて、実際にサーバーのメインテナンスが行われていたかなどの事実を特許権者が示していなかったとして、この規約における、判断は行いませんでした。

また、裁判所は以下のように、間接的なサービスの提供により安易に「代理人」とすることに注意を促しています。

“the venue statute should be read to exclude agents’ activities, such as maintenance, that are merely connected to, but do not themselves constitute, the defendant’s conduct of business in the sense of production, storage, transport, and exchange of goods or services.”

In re Google, 2019-126

教訓

今回のCAFCの判決は、ビジネスの活動を計画するにあたってとても有効的です。今回のような一般的なISPのラックにサーバーを置くような契約がきっかけで、裁判地が決まってしまうようなことはないでしょう。

また、今回の判決で、特許訴訟の裁判地に関する法律を適用するには、管轄内に実際に従業員または代理人が物理的にいることが求められることが明確になりました。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者:Catherine McCord and Charlene M. Morrow. Fenwick & West LLP(元記事を見る

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