最高裁判決のTC Heartland事件以降、特許権者が選べる裁判地(Venue)に大きな制限がかかりました。そのため、現在では、ダントツの人気を誇っていたthe Eastern District of Texasにおける特許訴訟数は減りましたが、今回の判例でthe Eastern District of Texasの人気がまた上がりそうです。
裁判地の重要性
特許訴訟は連邦地裁でおこなわれますが、特許訴訟をおこなえる裁判所はアメリカ全土にたくさんあります。中には、the Eastern District of Texasのように、特許権者に有利と言われている連邦地裁もあるので、特許権者としては、なるべく自分に有利な裁判地(Venue)で訴訟を起こしたいという思惑があります。
TC Heartlandで選択肢は激減
最高裁判決TC Heartland事件以降、裁判地(Venue)に関するルールが厳しくなり、以前よりも特許権者が自分に有利な裁判地(Venue)を選びづらくなりました。そのため、特にNPEに人気だったthe Eastern District of Texasにおける特許訴訟の数が激減し、the District of Delawareやthe Central and Northern Districts of California における訴訟が増えました。
また、TC Heartland以降も裁判地(Venue)に関するルールが厳しくなり、In re Cray, Inc., No. 2017-129 (Fed. Cir. Sept. 21, 2017) において、CAFCは、28 U.S.C. § 1400(b)に書かれている裁判地に関わる要素の一つ「習慣的な定着したビジネスの場」(“regular and established place of business”) は、地域内にある被告人の物理的な場所(“a physical place within the district” that is the “place of the defendant” )である必要があると判決しました。
SEVEN Networks v. Googleで流れが変わる?
このように裁判地のルールが厳しくなっていく中、今回のSEVEN Networks v. Googleはその流れとは相反する結果他になりました。
このSEVEN Networksでは、Googleが借りているthe Eastern District of Texasの管轄内に置かれているサーバーが28 U.S.C. § 1400(b)に書かれている「習慣的な定着したビジネスの場」(“regular and established place of business”) であるかが争われました。
審議の結果、the Eastern District of Texasは、Googleは情報配信のビジネスであり、問題となっているサーバーはローカルデーターウエアーハウスとして特徴付けられるため、サーバーは靴屋の倉庫と同じような扱いを受けるべきとし、Googleが借りているサーバは物理的な場所で(“a physical place ”)、かつ、「習慣的な定着したビジネスの場」(“regular and established place of business”)であるとしました。
このような判決に至った背景には、サーバーはISPから借りているものでありながら、ISPとの契約内容からGoogleがサーバーの実質的なコントロールを持っていたことが大きく影響をおよぼしたと思われます。
GoogleはCAFCに上訴しましたが、CAFCは審議を拒否したので、この判決は覆りません。しかし、CAFCは地裁の判決を是正したというわけでもないので、近い将来、同じような問題がCAFCで審議される可能性があります。
個人的な感想
TC Heartlandから裁判地(Venue)は制限されていく一方でしたが、今回のSEVEN Networksでその振り子が少し戻ったような感じです。これをきっかけに裁判地(Venue)の制限が緩んでいくかは今後の判例次第だと思います。しかし、レンタルサーバーを使っている企業はたくさんいるので、このSEVEN Networksが乱用されてthe Eastern District of Texasで特許訴訟が増えていくことはあまりよくないと思います。それを許してしまうとTC Heartland判決以前のNPEによる特許訴訟が社会問題化した時代に逆戻りです。
まとめ
今回のSEVEN Networksはいままでの流れに逆らう興味深い事件です。この事件をきっかけに裁判地(Venue)に関するルールがどのように変わっていくのか今後も詳しく見ていきたいと思います。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者: Ravi Ranganath. Fenwick & West LLP (元記事を見る)