IPRは一発勝負

Alcatel-Lucent USA Inc. v. Oyster Optics, LLC, Case No. IPR2018-00257 (PTAB, June 4, 2018) (Kenny, APJ)において、 PTAB は、35 USC § 314(a)による裁量権を考慮し、 IPR 手続きを却下しました。その理由として、 (1) 申立人は同じような理由の IPR 申し立てを以前行っていた、(2) 2回目の申し立ての提出までの遅れの説明ができていなかった、 (3) 2回目の申し立てに含まれていた先行例の存在を1回目に申し立ての際に知っていたという3点を示しました。

背景

Oysterは、情報通信に使うトランシーバーカードに関する特許を持っていて、Alcatelを含む複数の会社を特許侵害で訴えました。 2017年7月、Alcatelは地裁で無効主張を行い、その年の10月には、1回目の IPR 手続きの申し立てを行いました。その後、同じ年の12月に2つ目の IPR 手続き申し立てを行います。2つ目の申し立てには、Alcatelが地裁に提出した無効主張の際に使われた先行例文献の内、6文献が提出され、残りの文献も訴訟に巻き込まれた他社が地裁で提出した先行例文献でした。

2つ目のIPRの分析

PTABは、§ 314(a)に基づき、裁量権を考慮し、2つ目の IPR 申し立てを却下します。その上で、 PTAB は以下の点を考慮しました:

  • 申立人は、以前に同じクレームに対して申し立てを行っていたか?
  • 申立人は、1つ目の申し立ての際に、2つ目の申し立てで提出された文献を知っていたか、または、知っているべきであったか?
  • 申立人は、2つ目の申し立てを提出する前に、1つ目の申し立てに対する特許権者からの返答をすでに受け取っていたか
  • 申立人が先行例文献を見つけてから2つ目の申し立てを行うまでの時間
  • 申立人の1つ目と2つ目の申し立ての間にかかった時間の説明
  • PTABのリソース
  • 開始から1年以内に最終判決を行う義務

このケースにおいて、 PTAB は、以上の項目を考慮した結果、多くの項目において、2回目の IPR を開始することに反する結果になったとしました。つまり、Alcatelはすでに同じクレームに対して申し立てを行っており(項目1)、提示された9つの文献の内7つは1回目の IPR の時点でAlcatelはその存在を知っていました(項目2)。また、Alcatelは文献の1つ、Moultonの教えについて1回目の IPR 申し立て後に気づいたと主張しましたが、 PTAB はAlcatelはMoultonを知ったときにその文献を特定せず、特定を遅らせたため、遅れに対する説明がなされていない(項目4と5)としました。これにより、Alcatelは2つ目の IPR 申し立てを却下されてしまいました。

コメント

2回目のIPRが制限されてしまうという記事は以前にも取り上げました最高裁による判決で IPR に関するルールが変わる中、同じ特許に対して複数の IPR を行うことは難しくなってきているようです。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者:Zachary Miller McDermott Will & Emery (元記事を見る

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