1つの特許に対して複数のIPRを行う際のestoppelリスク

IPR は訴訟に比べて安価にすばやく特許の再審査ができ、特許を無効にするために有効なツールの一つですが、同じ特許に対して複数の IPR 手続きを行う場合、 estoppel の問題を考慮する必要があります。

複数のIPRでestoppelが適用されてしまったケース:

具体的にケースの事例を見てみましょう。今回取り上げるケースは、IPR2017-01427です。

背景:

2017年5月11日、Facebook とWhatsAppが’1427IPR petitionを提出し、U.S. Patent 8,995,433のクレーム1から8の再審査を求めました。その後、 PTAB は、2017年12月4日に’1427IPRのInstitutionを行い、後にLG Electronicsが加わりました。

その前に、Appleが同じ特許に対して IPR を申請していました(IPR2017-00225)。この’225IPRは、2017年5月25日にInstitutionされていて、クレーム1-6,8が対象になっていました。その後、’1427IPR petitionを提出して間もない、2017年6月16日に、Facebook とWhatsAppが別の IPR を申請し、上記のAppleによる’225IPRに加わることを申し出て、その申し出が認められました。

この段階で、Facebook とWhatsAppは、同じ ’433 patentに対して2つの IPR に関わることになります。より詳しく言うと、’1427IPR (challenging claims 1-8) と ’225IPR (challenging most of the same claims: 1-6 and 8)です。

しかし、’225IPRに対しての最終判決(Final written decision)が下った段階で、’1427IPRに問題が生じます。

35 U.S.C. § 315(e)(1)には以下のようなルールが明記されています:

(e) Estoppel.—
(1)Proceedings before the office.—
The petitioner in an inter partes review of a claim in a patent under this chapter that results in a final written decision under section 318(a), or the real party in interest or privy of the petitioner, may not request or maintain a proceeding before the Office with respect to that claim on any ground that the petitioner raised or reasonably could have raised during that inter partes review.

要約すると、最終判決が下った IPR の当事者等には、その他の手続きにおいて同じ主張、または、最終判決が下った IPR で合理的に主張可能であった主張は考慮されないというルールです。つまり estoppel です。

以上の経緯から、Facebook とWhatsAppは、最終判決が下った’225 IPRの当事者になっていました。つまり、上記35 U.S.C. § 315(e)(1)が適用されることになります。

次に、2つ目の IPR 、’1427IPR における主張が、最終判決が下った’225IPRで合理的に主張可能だった主張かが考慮されました。問題の’1427IPRは’225IPRの前に提出されていたので、 PTAB は、 Facebook とWhatsAppが’225IPRへの参加を示した時点で、すでに’1427 IPRにおける主張を知っていたと判断。そのため、 Facebook とWhatsAppは、’1427IPRにおけるクレーム1-6,8に対する無効主張ができなくなりました。(’1427 IPRの対象外だったクレーム7については estoppel はありませんでした。)

結果、’1427IPRについては、LGに対しては estoppel の影響はありませんでしたが、Facebook とWhatsAppは、クレーム7についてのみ参加が許されるという結果になりました。

教訓

このように1つの特許に対して複数の IPR を行った場合、 estoppel のリスクが伴います。なので、1つの IPR で済むように十分主張を準備することが大切で、また、複数 IPR を提出しなければいけない事態になった場合、この estoppel の影響を考慮してから2つ目の IPR を申請することをおすすめします。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者:Jason M. Garr and David B. Cochran (Dave). Jones Day (元記事を見る

ニュースレター、公式Lineアカウント、会員制コミュニティ

最新のアメリカ知財情報が詰まったニュースレターはこちら。

最新の判例からアメリカ知財のトレンドまで現役アメリカ特許弁護士が現地からお届け(無料)

公式Lineアカウントでも知財の情報配信を行っています。

Open Legal Community(OLC)公式アカウントはこちらから

日米を中心とした知財プロフェッショナルのためのオンラインコミュニティーを運営しています。アメリカの知財最新情報やトレンドはもちろん、現地で日々実務に携わる弁護士やパテントエージェントの生の声が聞け、気軽にコミュニケーションが取れる会員制コミュニティです。

会員制知財コミュニティの詳細はこちらから。

お問い合わせはメール(koji.noguchi@openlegalcommunity.com)でもうかがいます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

OLCとは?

OLCは、「アメリカ知財をもっと身近なものにしよう」という思いで作られた日本人のためのアメリカ知財情報提供サイトです。より詳しく>>

追加記事

訴訟
野口 剛史

25億ドルの問題:バイオテクノロジー特許に適切な実施可能要件とは?

バイオテクノロジーの実施可能要件(enablement)のさじ加減は業界を分断する問題で、現時点では実施可能要件のハードルは高めです。そのため、特許の有効性を保つためにも属性クレーム(genus claims)は、明細書の中で具体的なデータによって可能な限りサポートされている必要があり、可能であれば必要な実験の量を制限するべきでしょう。

Read More »
ビジネスアイデア
野口 剛史

事務所のPR動画作成サービス

中小企業でもブランディングや営業に動画を積極的に活用してくるようになりましたが、特許事務所で動画に力を入れているところはまだ少ないようです。これからはオンラインで目立ち、影響力を得ることが大切なので、知財業界でも「動画」のニーズが出てくると考え、最初に何を売るか?について考えてみました。

Read More »
money
訴訟
野口 剛史

知財権利行使における 模倣品・侵害品による損害の特定と定量化

模倣品、海賊版、その他の形態の知的財産権侵害による市場シェアと利益の損失を阻止するためには効果的な知的財産権(IP)の行使プログラムの設計、実施、最適化が必要です。その上で、市場シェアを保護するための知的財産権の重要性を強調することは大切で、特に模倣品・侵害品による損害の特定と定量化は大切なプロセスの1つです。

Read More »