最高裁SAS判決:地裁における早期一時停止の事例

2018年4月24日に下ったSAS判決の影響がすでに地裁の訴訟案件で出てきています。SAS判決により、地裁は IPR におけるInstitutionの決定がなされる前に、地裁における特許訴訟の一時停止(Stay)を認めることが多くなることが予想されます。

SAS判決は、 PTAB における IPR 手続きの際に一部のクレームを再審議する(Partial Institution)の可能性をなくしました。つまり、 IPR 手続きが申請された場合、起こりうる結果は、全てのクレーム対する再審議か、IPRを行わないという2択になります。このSAS判決は、特許権者に不利な判決です。というのも、SAS判決前までは、訴訟で権利行使している特許がIPR手続きの対象になったとしても、一部のクレームを再審議するPartial Institutionとなれば、PTABで審議されないクレームを理由に、特許権者は地裁における訴訟の継続を主張することができ、訴訟の一時停止を回避することが可能でした。

訴訟の一時停止の考え方が変わる

訴訟の一時停止に関して、地裁の判事は、 IPR 手続きによる訴訟に関わる問題の簡素化(“simplification of issues for trial” )を考慮しますが、Partial Institutionとなれば、 IPR 手続きの完結を待つことで、その簡素化の目的を達成する可能性が少なくなるので、 IPR 手続きと平行して、地裁における訴訟を継続できることがありました。しかし、SAS判決後、Partial Institutionの可能性がなくなったので、地裁での一時停止に関する傾向が変わりつつあります。

SAS判決後の最近のケース(Wi-Lan, Inc. et al., v LG Electronics, Inc., et al.)で、この IPR 手続きによる訴訟に関わる問題の簡素化(“simplification of issues for trial” )に対するSAS判決の影響が話されています。 このケースで、the Southern District of Californiaの判事は、 PTAB における IPR 手続きは、明確に訴訟に関わる問題の簡素化であると述べ、訴訟に関わる全ての特許が IPR 手続きの対象になっていること、また、SAS判決により、 PTAB が IPR 手続きのInstitutionを許可すれば、全てのクレームが PTAB で再審議されることを受け、訴訟の一時停止(Stay)は適切だとしました。

また、判事はIPRの結果を待つことで、1)クレームが無効になった場合、裁判所で考慮するクレームの数が減る(簡素化要素1)と、2)クレームが有効となった場合、LG(訴訟の被告であり、また IPR を申し立てた当事者)には、 Estoppel がかかり、地裁において同じ無効主張ができなくなる(簡素化要素2)と述べました。つまり、the Southern District of Californiaの判事は、SAS判決は IPR 手続きによる訴訟に関わる問題の簡素化を支持するもので、一時停止を優遇するものだと結論づけました。

ここで注目する点は、the Southern District of Californiaの判事が、この訴訟の一時停止の判断を PTAB が IPR のInstitution判断を下す前に行ったことです。SAS判決以前は、Partial Institutionの可能性もあったので、 PTAB がInstitution判断をする前に地裁判事が訴訟の一時停止の判断をすることはあまりありませんでした。しかし、SAS判決以降、上記のような簡素化要素の理由から、少なくとも、 IPR のInstitution判断の前までは、比較的簡単に訴訟の一時停止が認められそうです。また、 IPR のInstitutionが決定すれば、その一時停止がIPRの最終結果が出るまで維持されるでしょう。

まとめ

SAS判決により、地裁の一時停止は認められやすくなっただけではなく、 IPR 手続きの早い時点、Institutionの判断が行われる前から一時停止が認められやすくなりました。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者:Scott A. McKeown – Ropes & Gray LLP (元記事を見る

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