最高裁:.comは商標登録可能か?Booking.comの口頭弁論から見る最高裁の心証

最高裁は、5月4日、United States Patent and Trademark Office v. Booking.com B.V.,において電話会議を介して口頭弁論を行いました。これはCOVID-19の発生に対応して3月に閉鎖されて以来、最高裁の最初の口頭弁論です。

United States Patent and Trademark Office v. Booking.com B.V., Docket No. 19-46 (Argued May 4, 2020).

口頭弁論の流れ

今回は史上初の電話越しによる口頭弁論だったので、最高裁判事長官であるChief Justice Robertsが「司会者」のような役割を果たし、各判事が年功序列で質問をする形で進みました。特に印象的だったのは、通常の口頭弁論ではめったに質問をしないThomas判事が質問に参加していたことでした。

10年ぶりThomas判事による質問

Thomas判事は、USPTOが依拠している判例、130年の歴史を持つ最高裁のGoodyear Rubber Manufacturing Co. に関する質問をしました。(なんとThomas判事が質問したのは10年ぶりです。発言を一切しないことで有名だったので、衝撃が走りました。) このGoodyearケースで、最高裁は、一般的な用語(例えば「Wine Company」など)に「Company」や「Inc.」を追加するだけでは保護可能な商標にはならないと判決しました。USPTOは、Goodyearの判決が、単に一般的な用語で構成された商標は保護対象とはならないとする、明確なルール(per se rule)を生み出したと主張していました。しかし、Thomas判事は、今回のケースでは、「.com」や「1-800」のように、1つの組織が独自に所有することができる「個別化された」要素が追加されており、Goodyearの判決のルールが適用されるべきかどうかに疑問を投げかけているような質問をしていました。

130年前のGoodyear判例は時代遅れ?

実際、他の判事も、130年前のGoodyear判例がインターネット時代にも通用するかどうかを疑問視する声が多く、1940年代に制定されたランハム法( Lanham Act)の「主要な重要性」テスト(“primary significance” test)によってGoodyear判例が無効化されたのではないかという考えも口頭弁論から読み取れました。たとえば、Roberts最高裁判事長官は、Goodyear判例よりもランハム法の文言の重要性を強調し、「130年前の事例よりも、議会が法律の中で選んだ文言に従う方が理にかなっている」と推論しました。

同様に、Alito判事は、Goodyear判例は異なる時代の判例であり、インターネットが普及して以来、適用が限定されている可能性があると指摘しました。Kagan 判事は、カテゴリカルなルールの代わりに、一般用語にgTLDの語尾を加えたものは「一般的に」保護対象外であるとするUSPTOの現行の審査ガイドラインを補完するルールを設けるべきではないかと提案しました。実際、Kagan判事とGorsuch判事は共にUSPTOに対して、一般用語の組み合わせを登録することを禁じるルールを回避するためのテストをどのように作成するかについて、裁判所がガイダンスを提供するよう求めました。

また、両判事は、USPTOにおける一般性の判断は「主要な重要性」テスト(“primary significance” test)に委ねられるべきだというBooking.comの提案についても実際的な疑問をしました。ラナム法は、一般性(genericness)は、商標の主要な重要性が関連する公衆によって判断されるべきであることを示していますが、このテストは、ジェネリックになった商標(「アスピリン」や「エスカレーター」など)の登録を取り消す場合にのみ規定されています。Sotomayor判事は、審査の際に「主要な重要性」テスト(“primary significance” test)がどのように適用されるのかを疑問視しました。

.comが商標になる危険

USPTOの主な懸念事項は、ドメイン名の語尾(.comなど)の反競争的な独占であり、競合他社が使用する権利を有している可能性のある類似マークを排除することですが、この懸念は多くの判事が共有している様子でした。

この懸念に対処するために、Booking.comは、「weather.com」と「accuweather.com」は消費者の混乱を引き起こさないという例を挙げながら、類似した2つの一般的な組み合わせが消費者の混乱を引き起こす可能性があることを証明するのは難しいという、ジェネリックベースの組み合わせの弱点に基づく議論を展開しました。要するに、Booking.comは、その商標(および類似の商標)は、同一の(またはほぼ同一の)マークに対してのみ権利行使することができる弱い商標になる可能性があることを認めました。これは逆に、個別のドメインは個別に所有されているというindividualized domain name ownership systemにおいて、そもそもそのようなマークがUSPTOに登録される必要があるのかどうかという問題も提起しています。

不正競争法と海外での取り締まり

実際、Ginsburg判事は、Booking.comが消費者を混乱させようとする行為を防ぐために不正競争法に頼ることができるか質問しました。これに対し、Booking.comは、ドメイン名の海賊版の多くが海外で発生していることを指摘しました。federal anti-cyberpiracy lawのインレム管轄(In-Rem jurisdiction)の要素を利用するためには、Booking.comが連邦商標登録をしている必要があることを指摘しました。そうでなければ、海外のサイバー海賊行為者は米国の裁判所の手の届かないところにいることになるという問題を提示し、この裁判管轄権の優位性は、権利侵害の問題に直面しているジェネリックベースのドメイン名所有者にとって大きな武器になるだろうと主張しました。

まとめ

最終的には、質問の印象、特にGoodyear判例を区別しようとする数々の試みから、判事はBooking.comを支持するか、少なくともジェネリック.com商標に対するUSPTOのブライトライン・ルール案を却下する可能性が高いこと思われます。しかし、最高裁が最終的にブライトラインルールを提示したGoodyear判例とランナム法の「主要な重要性」テスト(“primary significance” test)の間でどのようなバランスを取るかは、まだ見極められていないのが現状です。

解説

今回のBooking.comの口頭弁論は今後の商標について重要な判決になるのは間違いないですが、それと同時に、COVID-19の発生に対応して3月に閉鎖されて以来、最高裁の最初の口頭弁論だったことで注目を集めました。

特に、史上初の電話を使った口頭弁論と音声のライブストリーミングが画期的だったので、一般メディアでもニュースとして取り上げられたほどでした。アメリカ最高裁は、格式があるところで、テクノロジーに対しても保守的な裁判所ですが、このようなリモート環境を整えてCOVID-19の対策をとったことは評価されるところだと思います。

内容的にも、今回の案件は注目するべきものです。OLCでも最高裁での審議が決まった時に一度レポートしているので、内容を把握している人も多いと思います。

最高裁で.comの商標が認められれば、今後多くの.com企業(と便乗するであろう企業)による商標出願ブームが到来すると思われます。会社名.comで知られている会社はもちろん、そうでない会社であっても、他の会社に商標を取られる可能性があるので、最高裁の判決内容次第ではすぐに企業名.comや既存の会社のURLに関するアメリカ商標出願の体制を整えておいた方がいいと思います。

またこのタイミングで、今回の最高裁の口頭弁論から予測される対策を提携している弁護士さんと話し合うのもいいかもしれません。

商標は一度取られてしまうとやっかいなので、先手先手で動いた方が長期的な知財リスクを減らすことにつながります。

この先手で動いた方がいいというのは、ドメイン名取得の話にも似ています。古いですが、アメリカでは、「mcdonalds.com」のドメイン名が無断で第三者により取得され、マクドナルドがこれを買い取った例などがあります。

ドメインや商標など一度他社に取られると、その会社と交渉しないといけなかったりするので、知財の価値が上がれば上がるほど、交渉が難航する傾向にあります。当然、自前で商標出願するよりもより高額な金額を支払う必要が出てくるので、それだったら、今ある企業名.comや既存の会社のURLに関する商標は出しておくという考え方も十分考えられます。

しかし、最高裁の判決が出た後に、準備をすると米国商標弁護士のキャパシティを超えた量の案件が来ることが予想されるので、実際の出願が遅れる可能性があります。なので、そのようなリスクを回避するためにも準備は今のうちにした方がいいと思います。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者:B. Brett Heavner, Samuel V. Eichner and Margaret A. Esquenet. Finnegan, Henderson, Farabow, Garrett & Dunner, LLP (元記事を見る

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