本記事では、米国特許法における外国での活動に基づく合理的なロイヤリティ(reasonable royalty)の算定について、近年の判例動向を踏まえて解説することを目的とします。特に、今年3月末に判決が下されたBrumfield v. IBG LLC事件を中心に、国内での特許侵害行為と外国での活動との因果関係(causal relationship)について検討します。
グローバル化が進む中での米国特許訴訟と外国活動に基づく合理的なロイヤリティの課題
グローバル経済の発展に伴い、アメリカにおける特許訴訟においても特許権者が外国での活動に基づく損害賠償を求めるケースが増加しています。米国特許法では、特許権者は侵害行為によって被った損害の賠償を請求することができます。その際、損害賠償額の算定方法の一つとして、合理的なロイヤリティ(reasonable royalty)が用いられます。
合理的なロイヤリティ(reasonable royalty)は、特許権者が特許侵害によって被った損害を算定する方法の一つです。仮想的な交渉(hypothetical negotiation)を通じて、特許権者と侵害者が特許発明の使用について合意したであろうロイヤリティ率を算定します。この方法は、特許権者が実際に製品を製造・販売していない場合や、侵害者の利益を算定することが困難な場合に用いられます。
しかし、外国での活動に基づく合理的なロイヤリティの算定については、長らく外国での活動を損害賠償の対象とすることができるのか、また、国内での特許侵害行為と外国での活動との間にどのような因果関係が必要なのかが問題になっていました。
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過去の関連判例に見る外国での活動に基づく合理的なロイヤリティに対する疑問
ここでは、今回注目する最新のBrumfield v. IBG LLC 事件を考察する上で重要な、外国での活動に基づく合理的なロイヤリティの算定に関する過去の重要な判例を簡単に見ていきましょう。
WesternGeco LLC v. ION Geophysical Corp. 事件
2018年、連邦最高裁は、WesternGeco LLC v. ION Geophysical Corp.事件において、35 U.S.C. § 271(f)(2)に基づく特許侵害行為について、特許権者が外国での利益の喪失(foreign lost profits)の賠償を求めることができると判示しました。本件では、ION社が特許発明の構成部分を米国から輸出し、外国で組み立てることによって特許侵害行為が生じたことが認定されました。連邦最高裁は、特許法の目的は特許権者に完全な補償を与えることにあるとした上で、外国での利益の喪失と米国からの構成部分の輸出との間に密接な関連性があることを理由に、特許権者の請求を認めました。
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Power Integrations, Inc. v. Fairchild Semiconductor International, Inc. 事件
WesternGeco判決以前の2013年、CAFCは、Power Integrations, Inc. v. Fairchild Semiconductor International, Inc. 事件において、35 U.S.C. § 271(a)に基づく特許侵害行為について、外国での活動に基づく損害賠償を否定していました。CAFCは、米国特許法の域外適用を制限する推定(presumption against extraterritoriality)を理由に、特許権者の請求を退けました。
このように、WesternGeco判決とPower Integrations判決では外国における活動が賠償に加わるのかそうでないかが分かれており、WesternGeco判決とPower Integrations判決の整合性が問題となっていました。つまり、Power Integrations判決の後に出されたWesternGeco判決が35 U.S.C. § 271(f)(2)に基づく特許侵害行為だけでなく、Power Integrations判決のような35 U.S.C. § 271(a)に基づく特許侵害行為についても適用されるのかは、今回判決がくだされたBrumfield v. IBG LLC 事件までは明確ではありませんでした。
Brumfield v. IBG LLC 事件
事件の概要
本件は、Trading Technologies International, Inc.(TT社)がIBG LLCおよびその子会社であるInteractive Brokers LLC(以下、まとめてIBG社)を特許侵害で訴えた事件です。TT社は、商品先物取引のための改良されたグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)に関する複数の特許を保有しています。IBG社は、TT社の特許発行前からTWS BookTraderという取引ソフトウェアを開発・販売していました。TT社は、IBG社がTWS BookTraderの販売によって特許を侵害したと主張し、外国でのIBG社の活動に基づく合理的なロイヤリティの支払いを求めました。
CAFC判決:Brumfield, Trustee for Ascent Trust v. IBG LLC
35 U.S.C. § 271(a)に基づく特許侵害行為についても外国での活動に基づく損害賠償は可能
地裁は、35 U.S.C. § 271(a)に基づく特許侵害行為について、外国での活動に基づく損害賠償を認めませんでした。地裁は、連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)による2013年のPower Integrations, Inc. v. Fairchild Semiconductor International, Inc.事件の判決を引用し、米国特許法の域外適用を制限する推定を理由に、TT社の主張を退けました。
TT社はこれを不服として控訴しました。CAFCは、本件の争点は、35 U.S.C. § 271(a)に基づく特許侵害行為について、外国での活動に基づく合理的なロイヤリティを請求することができるかであると整理しました。
CAFCは、2018年の連邦最高裁判所によるWesternGeco LLC v. ION Geophysical Corp.事件の判決が、35 U.S.C. § 271(f)(2)に基づく特許侵害行為について外国での利益の喪失の賠償を認めたことに着目し,WesternGeco判決の枠組みは35 U.S.C. § 271(a)に基づく特許侵害行為にも適用されると判示しました。
その上で、CAFCは、特許権者が国内での特許侵害行為と外国での活動との因果関係を示すことができれば、35 U.S.C. § 271(a)に基づく特許侵害行為についても、外国での活動に基づく合理的なロイヤリティを請求することができるとしました。
ただし、CAFCは、本件においてTT社の損害賠償請求を認めませんでした。CAFCは、TT社の損害賠償の専門家証人が、国内での特定の侵害行為を特定せず、国内での侵害行為と外国での活動との因果関係を適切に立証していないと指摘しました。
因果関係についての具体的な説明はなし
本判決は、35 U.S.C. § 271(a)に基づく特許侵害行為についても、外国での活動に基づく合理的なロイヤリティを請求することができる可能性を示しました。ただし、本判決は、具体的にどのような因果関係が必要とされるのかについては明確にしていません。
CAFCは、特許権者が国内での特定の侵害行為を特定し、その侵害行為と外国での活動との因果関係を立証する必要があると述べるにとどまっています。どの程度の因果関係が求められるのか、例えば、単なる「but for」因果関係で足りるのか、より密接な関連性が必要なのかについては、明らかではありません。
また、本判決は、合理的なロイヤリティの算定方法についても言及していません。外国での活動に基づく合理的なロイヤリティを算定する際に、どのような要素を考慮すべきなのか、国内での侵害行為とどのように関連づけるべきなのかについては、今後の裁判例の蓄積を待つ必要があります。
外国での活動に基づく合理的なロイヤリティ算定の実務的な留意点
今回のBrumfield v. IBG LLC 事件におけるCAFCの判決を振り返って、特許権者、そして企業が気をつけたい外国での活動に基づく合理的なロイヤリティ算定の実務的な留意点について考察していきます。
特許権者が留意すべきポイント
特許権者が外国での活動に基づく合理的なロイヤリティを請求する際には、以下の点に留意すべきです。
(1) 国内での特許侵害行為の特定
特許権者は、国内での特定の特許侵害行為を特定する必要があります。Brumfield v. IBG LLC事件において、CAFCは、TT社の損害賠償の専門家証人が国内での特定の侵害行為を特定していないことを理由に、TT社の請求を退けました。特許権者は、誰が、いつ、どこで、どのような方法で特許を侵害したのかを明確にすべきです。
(2) 外国での活動との因果関係の立証
特許権者は、国内での特許侵害行為と外国での活動との因果関係を立証する必要があります。どのような因果関係が必要とされるのかは明確ではありませんが、単なる「but for」因果関係では不十分である可能性があります。特許権者は、国内での特許侵害行為が外国での活動を可能にした、あるいは、国内での特許侵害行為がなければ外国での活動が生じなかったことを具体的に主張・立証すべきです。
(3) 外国での活動の範囲の特定
特許権者は、外国での活動の範囲を特定する必要があります。外国での活動のうち、国内での特許侵害行為と因果関係があるものに限定して、合理的なロイヤリティを請求すべきです。
(4) 合理的なロイヤリティの算定方法の検討
特許権者は、外国での活動に基づく合理的なロイヤリティの算定方法を検討する必要があります。国内での特許侵害行為と外国での活動との関連性をどのように評価するのか、仮想的な交渉においてどのような要素を考慮するのかについて、説得力のある主張を行うべきです。
企業が留意すべきポイント
企業が外国(アメリカ国外)での活動を行う際には、以下の点に留意すべきです。
(1) 特許侵害リスクの評価
企業は、自社の製品・サービスが他社の特許を侵害するリスクを適切に評価する必要があります。外国での活動についても、米国特許法の観点からリスクを評価すべきです。
(2) 外国での活動と国内での活動の関連性の評価
企業は、外国での活動と国内での活動の関連性を評価する必要があります。外国での活動が国内での特許侵害行為と密接に関連している場合、合理的なロイヤリティの支払いを求められるリスクが高まります。
(3) ライセンス交渉での留意点
企業がライセンス交渉を行う際には、外国での活動に基づく合理的なロイヤリティの支払いについても検討する必要があります。ライセンス料の算定において、外国での活動をどのように考慮するのか、ライセンサーと協議すべきです。
(4) 損害賠償リスクへの対応
企業は、外国での活動に基づく損害賠償リスクに適切に対応する必要があります。訴訟リスクを評価し、必要に応じて和解交渉を行うことも検討すべきです。
外国での活動に基づく合理的なロイヤリティの算定は、複雑な法的・実務的問題を含んでいます。特許権者・企業ともに、最新の判例動向を踏まえつつ、戦略的な対応を検討することが重要です。
今後の展望と課題
判例法理の発展可能性
Brumfield v. IBG LLC事件は、外国での活動に基づく合理的なロイヤリティの請求が、35 U.S.C. § 271(a)に基づく特許侵害行為についても認められる可能性を示しました。この判決は、特許権者の保護を強化し、グローバルな特許戦略の重要性を高めるものといえます。
今後、同様の事件が提起された場合、裁判所は、国内での特許侵害行為と外国での活動との因果関係の立証について、より詳細な基準を示すことが期待されます。例えば、因果関係の程度や立証方法について、一定の指針が示される可能性があります。
また、合理的なロイヤリティの算定方法についても、判例法理の発展が期待されます。外国での活動を考慮する際の具体的な方法論や、仮想的な交渉において考慮すべき要素について、裁判所が一定の基準を示すことにより、予見可能性が高まることが期待されます。
残された法的課題
外国での活動に基づく合理的なロイヤリティの請求については、いくつかの法的課題が残されています。
第一に、因果関係の立証の程度や方法については、不明確な点が残っています。特許権者が具体的にどのような事実を立証すれば、因果関係が認められるのか、明確な基準はありません。また、立証の困難性をどのように考慮するのかについても、検討が必要です。
第二に、外国での活動の範囲をどのように特定するのかについては、難しい問題があります。特に、国内での特許侵害行為と関連性が薄い外国での活動についてまで、合理的なロイヤリティの請求を認めるべきかについては、慎重な検討が必要です。
第三に、外国での活動を考慮した合理的なロイヤリティの算定方法については、確立された方法論がありません。仮想的な交渉において、外国での活動をどのように考慮するのか、具体的な算定方法をどのように構築するのかについては、さらなる議論が必要です。
第四に、本判決の射程については、不明確な点があります。例えば、本判決は35 U.S.C. § 271(a)に基づく特許侵害行為に関するものですが、他の特許侵害行為類型についても同様の法理が適用されるのかについては、明らかではありません。
外国での活動に基づく合理的なロイヤリティの請求については、今後の裁判例の蓄積により、判例法理のさらなる発展が期待されます。同時に、残された法的課題については、学説・実務の議論を通じて、一定の解決が図られることが望まれます。特許権者・企業は、最新の動向を注視しつつ、適切な対応を検討することが重要です。
まとめ
この記事では、Brumfield v. IBG LLC 事件を詳しく考察し、米国特許法における外国活動を基にした合理的なロイヤリティの算定に関する法的課題と判例の方向性を探求しました。今回の判決は、国内での侵害行為と外国での活動との間に因果関係がある場合に、外国での損失に基づく賠償が認められる可能性を示唆していますが、具体的な因果関係の立証要件やロイヤリティ算定の詳細は未だ明確ではないため、今後の判例や学説の発展による法理の確立が待たれます。特許権者と企業は、このような新たな判例の動向を注視し、適切な戦略を立てることが重要です。