特許には管轄があり、原則アメリカの特許はアメリカでのみ効力があって、日本では効力がありません。しかし、最高裁によるWesternGeco判決の今後の影響によってはアメリカの特許で海外のソフトウェア侵害による賠償金を得られるようになるかもしれません。
元記事の著者が指摘していることが現実に起こる可能性は低いですが、海外の侵害を対象にできるか否かで賠償金額も大きく異なるので、ソフトウェアを開発・販売している企業の知財部はここで紹介している考え方も知っておくといいと思います。
最高裁によるWesternGeco判決は、35 U.S.C. 271(f)(2)における特許侵害賠償において初めて海外における侵害による損失利益を認めた判決です。
Section 271(f)(2) provides that a company “shall be liable as an infringer” if it supplies certain components of a patented invention “in or from the United States” with the intent that they “will be combined outside of the United States in a manner that would infringe the patent if such combination occurred within the United States.”
現在のところ35 U.S.C. 271(a)により、侵害が国内であった場合、海外における侵害による損失利益等は賠償金に加算されません。つまり、WesternGeco判決は、侵害部品がアメリカから輸出されている場合に、海外の侵害による損失利益を得られる可能性を示唆しています。
ここからWesternGeco判決の応用になります。ソフトウェアはWesternGecoの「侵害部品」になるのでしょうか?ソフトウェアは単体では動かないので、ソフトウェアを動かすハードウェアーが必ず必要になります。そう考えると、ソフトウェアは「部品」であると考えることもできます。
例えば、特許権者があるソフトウェアをカバーするアメリカ特許を持っているとします。また、競合他社が、アメリカでその特許を侵害するコンピューターチップを開発し、海外で量産、販売したとします。この例に、WesternGeco判決が上記のような形でソフトウェアにも適用されたら、アメリカの特許1つで競合他社による世界中の侵害による利益損失を賠償金として請求できることになります。
しかし、このような状況はWesternGeco判決のdissentで強く批判されたことがらなので、今後似たような訴訟が起きても、実際に上記のような形でWesternGeco判決が適用される可能性は低いと思われます。また、10年以上前のMicrosoft Corp. v. AT & T Corp判決で、ソフトウェアによる§ 271(f)の適用範囲を制限しています。
the Court held that liability under section 271(f) did not extend to computers made in another country, when loaded with Windows software copied abroad from a master disk or electronic transmission dispatched from the United States.
しかし、WesternGeco判決のあとの世界で、ソフトウェアが10年以上前のMicrosoft Corp. v. AT & T Corp判決に基づいて扱われるかは不透明です。
元記事の著者Helen Y. Trac特許弁護士は、スマホ、タブレット、ebookなどの電子製品に特化した特許訴訟弁護士です。ハーバードロースクール卒で、中国語とドイツ語をしゃべるそうです。法律、技術、言語と3つも特徴あるスキルを持っているすごい人だと思います。
ソフトウェアの重要性が高まり、さまざまなソフトウェアの提供方法が存在する中、今後の判例によっては、アメリカ特許が海外のソフトウェア侵害にも適用される日が来るかもしれません。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者: Helen Y. Trac. Hogan Lovells (元記事を見る)