注目されていた知財関連の最高裁判決が下りました。2018年6月22日、WesternGeco LLC v. ION Geophysical Corp., No. 16-1011, __ S. Ct. __, Slip Op. at 2-3,において、最高裁は、35 U.S.C. § 271(f)(2)における侵害を証明した特許権者は、35 U.S.C. § 284における海外での逸失利益(lost profits)も取り戻せるとしました。このWesternGeco判決は、過去に海外における損害賠償について言及した Microsoft Corp. v. AT&T Corp., 550 U.S. 437, 444-445 (2007)判決を拡大する内容になりました。
背景:
WesternGecoはより高度なseismic dataを偉えるシステムに関して特許を持っていました。 2007年、ION Geophysical Corporationは競合するシステムの部品を生産し始め、海外の顧客に販売し始めました。そして、その部品は海外でシステムの中に盛り込まれ、そのシステムはアメリカで組み立てられていたらWesternGecoの特許を侵害するものでした。
その後、WesternGecoはIONをSouthern District of Texasにおいて、35 U.S.C. §§ 271(f)(1)と(2)における侵害を訴えました。Subsection (f)(1)は induced infringement に関わるもので、アメリカから特許として守られている発明に関する部品を供給し、海外でその部品の組み立て侵害を誘導するような行為に対して特許侵害を認めるものです。Subsection (f)(2)は、 contributory infringement に関わるもので、発明の使用のために作られ部品で、侵害しない使用目的に適している一般的な部品や商品ではなく、その部品を提供した者が、海外で組み立てられ、権利を侵害することを知りつつ、部品を提供した場合、その提供者に対して特許侵害が認められるというものです。
地裁で、陪審員はIONの§ 271(f)(2)における侵害によりWesternGecoは10つの契約を失ったとし、 $12.5 million のロイアルティと $93.4 million の逸失利益(lost profits)を認めました。その後、 CAFC に上訴され、地裁の判決を覆した後、最高裁が再審議を行いました。
最高裁の判決:
連邦法は原則アメリカにのみ適用されるとしつつも、最高裁は以下の2つの条件を設けて治外法権(extraterritoriality )についての分析を行いました。 (1) 法律の文言が治外法権の適用を認めるようなものか?(asking whether the presumption against extraterritoriality has been rebutted by the statute text providing a “clear indication of extraterritorial application”)、また、(2) そうでなくとも、法律が注目している点がアメリカ国内で起こった場合、法律が国内のことがらに適用されるものなのか?(if not, then asking “whether the case involves a domestic application of the statute” by determining the statute’s focus and whether the conduct relevant to that focus occurred in the United States. )
今回の判決では、最高裁の裁量により2番目の条件に重点がおかれました。
最高裁は問題になっている法律が注目している点がアメリカ国内で起こったと断定。分析を始めるにあたり、一般的な損害賠償に関わる法律(§ 284)に注目し、侵害がその法律の注目している点であり、そこで問わていることは、侵害により特許権者がどれくらいの被害を被ったかであるとしました。その後、 § 271(f)(2)に移り、この法律の注目している点は、アメリカからの供給というアメリカ国内の活動であるとしました。この事件では、IONのアメリカ国内からの部品供給がWesternGecoの特許を侵害していたため、逸失利益(lost profits)の損害賠償は一般的な損害賠償に関わる法律§ 284の国内適用(domestic application of the statute)に当たるとしました。
予想される影響
最高裁は意図的に今回のWesternGeco判決を§ 271(f)(特に§ 271(f)(2)というめったに適用されない法律)における侵害に限定したように思われます。最高裁は、今回の判決から法律§ 284におけるすべての賠償に常に海外における損害が含まれるというような解釈がされないように最新の注意を払ったと思われます。
しかし、この判決が特許侵害における賠償にどのような影響を与えるかはまだ不透明です。特に、通常求められる§ 271(a)の下による侵害による賠償金に影響があるのかは注目したいところです。
また、WesternGeco が§ 271(f)(2)における訴訟にどれだけ影響を及ぼすのか、また、合理的なロイアルティ(reasonable royalty)のみで、逸失利益(lost profits)が求められなかった場合、どう判断されるのかもわかりません。
また、今回の判決は § 284の適用も含まれているので、解釈の仕方によれば、271(f)の下による侵害(海外における組み立てで侵害を起こす部品の販売)に対するロイアルティに関しても今回の判例が適用されるという主張も可能だと思われます。
今後この判例がどのように適用され、アメリカでの活動が海外における損害を及ぼした場合、どのような賠償が認められるかに注目していく必要があります。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Ryan K. Yagura, John Kappos, Nicholas Whilt and Tony Beasley. O’Melveny & Myers LLP (元記事を見る)