Patent Trial & Appeal Board (PTAB) からCAFCに上訴された場合、PTABにおける判決の無効(vacatur)とPTABへの差し戻し(remand)という結果になる場合があります。このように差し戻しされた場合、PTABはただ単にCAFCの判決に沿って手続きを改めるだけにとどまらず、最終的には上訴した側に有利は判決が下ることが多いです。
このような傾向はCAFCでPTABの判決が棄却(reversal)されなくても、差し戻しで最終的に勝てる確立が上がることを意味します。IPRで特許クレームが無効になる確立の高い特許権者にとって、判決の無効(vacatur)とPTABへの差し戻し(remand)は訴訟は長引きますが、最終的にクレームが生き残る(または復活)する可能性が高くなると言っていいでしょう。
このよう差し戻しに対するPTABの傾向は、最近の判例Dell Inc. v. Acceleron, LLCで顕著にあらわれています。
経緯:
PTABにおいてIPR手続きで、DellはAcceleronの特許の無効性を主張。口頭弁論の際にDellはそれまでには開示していない新たな主張でクレームの無効性を主張し、PTABはクレームを無効にしたが、Acceleronがそのよう主張は適切ではないと反論。後にCAFCに上訴。再審議の後、CAFCは口頭弁論の際に全く新しい主張を行うことは不適切だとして、PTABにおける判決を無効にし、PTABへ差し戻しました。
差し戻しにおいて、Dellは新たな主張が受け入れられ、上訴される前と同じように、クレームが無効になることを見込んでいました。しかし、PTABはDellの新しい主張は受け入れず、当事者のどちらからも情報を要求しないまま、前回の判決を覆しました。
Dellは差し戻しで新たな主張が受け入れられなかったことを不服に思い、CAFCに上訴。
しかし、CAFCは、Dellの主張を受け入れず、差し戻しでDellの新しい主張を受け入れる必要はないとしました。CAFCは、判例を見てもPTABは差し戻しの際に新しい証拠を考慮する必要はなく、PTABはすでにある証拠から(CAFCの判決の元)判決を下せるとしました。
このようなCAFCによる判決により、差し戻しの際にPTABは当事者からの新たな主張を求めず、上訴前の判決を覆すことが多くなることが予測されます。
コメント:
PTABでクレームが無効になり、CAFCに上訴したとします。そして今回の判例のように、差し戻しでPTABは一切の新しい証拠や主張を考慮しないとすると、差し戻しになった場合、上訴以前の判決を覆すという結果は論理的です。差し戻しにおいて、証拠や主張が上訴以前のものと何も変わらず、唯一変わったのがCAFCによるPATBの間違えの指摘であれば、PTABが前回の判決を覆す判断を行うことは最も論理的な結論だと思います。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Scott A. McKeown. Ropes & Gray LLP