2018年5月9日、アメリカ特許庁は、AIA関連レビューに関して、クレーム解釈の基準を変更する計画を発表。今後のAIA関連レビューのクレーム解釈を地裁やITC手続きと同じ基準で行うことを予定しています。
提案された改定案によると、PTABでは、“broadest reasonable interpretation”基準におけるクレーム解釈をやめ、 判例Phillips v. AWH Corp., 415 F.3d 1303 (Fed. Cir. 2005) (en banc)に基づく、Phillips 基準を採用することが明記されています。
現行では、37 C.F.R. 42.100(b), 42.200(b), and 42.300(b)に基づき、PTABではクレームの解釈(AIA関連レビューの際のクレーム補正も含む)は、 クレームに対して “its broadest reasonable construction in light of the specification of the patent in which it appears” (the “BRI” 基準)が使われています。このBRI基準は特許庁での審査などで長年使われてきた基準ですが、地裁やITCにおける特許訴訟の際に使われるクレーム解釈基準とは異なる基準です。地裁やITCでは、上記の 判例Phillips v. AWH Corp.とその関連判例に基づく基準、Phillips 基準を用いていて、クレームは their ordinary and customary meaning as understood by one of ordinary skill in the art in view of the specification and the prosecution history pertaining to the patentに基づいて解釈されます。
PTABと地裁(とITC)におけるクレーム解釈の基準の違いが意味することは、特許が争われる場によって、クレームに関する判決が異なる可能性があるということです。この違いは、多くの場合、特許権者に悪影響を及ぼします。というのも、地裁等で特許権者が侵害を立証する際は、クレームの範囲が狭く解釈されるPhillips 基準が用いられるのですが、PTABにおけるAIA手続きによる無効手続き(IPR手続きなど)の場合、BRI基準によってクレームの範囲が広く解釈されてしまい、より先行例との重複が証明しやすくなります。
このような不公平な状況を改善すると共に、基準を変更することで、アメリカの特許システムにおける一貫性や信頼性が増すことが予想されます。地裁で対象になる特許の多くはIPR等、PTABにおけるAIA関連レビューの対象になっている場合がほとんど(90%弱)なので、このようにクレーム解釈の基準を統一することで、効率がよくなることも予想されます。
このような変更は、PTABにおけるAIA関連レビューに対する戦略を変えるような大きな変更になる可能性はありますが、特許の有効性に関する最終的な判断への影響は少ないと考えられます。提案された新しい基準は以前に比べて狭い解釈を用いますが、実務上BRI基準とPhillips基準の差が影響するような案件はそれほどなく、PTABにおいて、新しい基準の採用により、より多くの特許がIPR等のAIA関連手続きを生き残ることは予想されてはいません。それよりも、PTABにおけるクレーム解釈がどのように並行して進んでいる地裁に影響を与えるのかに興味を持っている特許弁護士の方が多いと思われます。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Caitlin M. Wilmot. Rothwell, Figg, Ernst & Manbeck, PC