審査期間中に特定の遅延が起こると特許の有効期限が延長されるpatent term adjustment (PTA) という仕組みがアメリカにはあります。このPTAの日数の計算方法は、35 USC § 154(b)(1)(A)(i)(II)に明記されているのですが、今回このPTAの日数の計算に関して起きた訴訟を簡単に解説します。
Actelion Pharm., Ltd. v. Matal, Case No. 17-1238 (Fed. Cir., Feb. 6, 2018) (Lourie, J)は、PTAの4日間の延長を求めた訴訟です。この訴訟で、CAFCはアメリカ特許庁でPCTからnational stageに移行する際に、PCTの30-month dateが連邦の休日にあたる場合、出願人は§ 371(f) に書かれている“express request”を満たさなければ、national stageが次の営業日から開始されないとしました。
経緯:
Actelion社は2009年7月16日にPCT出願を行いました。2012年、1月12日、national phase entryの期限である30ヶ月の4日前に、Actelion社はPCT出願に優先権を主張しUS national stage patent applicationをアメリカ特許庁に出願。特許庁は、法令で定められている期限までに拒絶理由通知書を送らなかったので、PTAに考慮される[遅延」とみなされ、PTAが加算されました。
権利化後、特許庁は「遅延」を41 日 (2013年3月16日から4月26日まで)と計算。しかし、Actelion社は、計算はUS national stage patent applicationが出願された2012年1月12日を基準に計算されるべきであり、45日が正しいと主張し、特許庁にPTAの再計算を求めました。再計算の結果、特許庁は「遅延」を40日 (2013年3月17日から4月26日まで)と元の数字よりも1日少ない日数を提示。
この計算を不服に思い、Actelion社は特許庁を相手に訴訟を起こしました。地裁は、特許庁のPTAの計算が正しいと支持し、summary judgmentを許可。Actelion appealed.Actelion社が上訴。
CAFCも地裁の判決を支持。CAFCは特許庁の「遅延」の計算を支持。30ヶ月の期限前にnational stageを開始するのであれば、Actelion社は§ 371(f) に書かれている“express request”を満たさなければいけないとしました。Actelion社はそれを怠ったため、national stageは30ヶ月の期限がすぎた2012年1月16日から開始された。また、30ヶ月期限が連邦の休日だったので、その次の営業日2012年1月16日までnational stageは開始されなかった。このような解釈のもと、PTAの計算をすると特許庁が示す40日となるとしました。
コメント:
PTAは特許の有効期限を延長するので、例えば特許の有効期限を一日でも長く維持したい製薬系の特許にPTAが加算される場合、特許として発行される前に(例えばissue feeを払う間の期間に)、PTAが正しく計算されているか社内でチェックすることをおすすめします。また、この案件では4日という比較的短い日数でしたが、PTAは100日を超えることもあるので、アメリカ特許庁による遅延が原因で権利化までの期間が長引いた案件に対しては、PTAの計算の確認をおすすめします。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Shon Lo – McDermott Will & Emery
https://www.lexology.com/library/detail.aspx?g=059f8ac2-58c9-4426-9a4a-29a8c6ed9465