Droplets, Inc. v. E*TRADE Bank, No. 16-2504 (Fed. Cir. Apr. 19, 2018)において、優先権主張の際にミスがあったため、特許権者であるDropletsは有効出願日を早い時期に遡ることができず、結局自社のPCT出願によってクレームが無効化されてしまいました。
背景:
この優先権の問題を理解するには、関係する特許ファミリーの関係を理解する必要があります。詳細は元記事の図を見てもらうのが一番わかりやすいですが、PCT出願から3つの特許がアメリカで成立しましたが、その内1つは、PCT出願の仮出願に優先権を主張しており( ’745 patent)、2つ目の’838 patentは、 ’745 patentと仮出願に優先権を主張、最後の’115 patentは’838 patent と 仮出願に優先権を主張して、参照による引用(incorporation by reference)で’838 patentを参照しているものの、’745 applicationには優先権を主張していませんでした。ここで重要なポイントは、’838 patent applicationが仮出願と同じ時期に審査されていなかった(co-pendingではなかった)ということです。
このような優先権の違いから、E*TRADE Bankは’115 patentが関連するPCT出願と他の先行文献により自明だとして、IPRを申請。その対応で、特許権者のDropletsは’115 patent がPCT出願よりも以前の出願日を持つ仮出願の優先権を主張しているので、関連PCT出願は先行文献ではないと主張。しかし、PTABは、優先権が明確に示されていないとして、’115 patentが仮出願の優先権を適切に主張しているとは言えないと結論づけました。この判断により、PCT出願は先行文献となり最終的に’115 patentのクレームは無効となり、この案件はCAFCに上訴されました。
CAFCはPTABの判決を支持。特定の出願を特定して優先権を主張しなければいけないことは、法律(35 U.S.C. § 120)で明確だとしました。また、過去の判例で。CAFCは優先権を主張する最初の案件のみではなく、優先権の連鎖が辿れるように案件全てを参照しなければいけないとしています。 E.g., Medtronic CoreValve, LLC v. Edwards Lifesciences Corp., 741 F.3d 1359, 1363 (Fed. Cir. 2014).
このケースで、CAFCは、優先権を主張するには参照による引用(incorporation by reference)では足りず、優先権を主張する実際の出願について明確に優先権を主張する必要があることを明確にしました。’115 patentは、’745 patentの優先権を明確に主張していなかったので、PCT出願を先行文献から外すことができませんでした。
教訓:
出願の際に優先権主張を慎重に行いましょう。特に明細書を作成する責任者は、優先権の主張が正しく、全ての優先権が主張されているか確認する必要があります。また、逆に、特許を無効にしたいチャレンジャーは、優先権に欠陥があるかを見ましょう。もし欠陥があれば、特許権者自らの出願が先行文献になる可能性があり、そのような文献は特許を無効にするのに一番最適な文献になります。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Daniel Kazhdan Ph.D. and Vishal V. Khatri. Jones Day
http://www.ptablitigationblog.com/draft-your-patents-carefully/#page=1