[製薬限定]特許侵害訴訟における薬の認可に関わる書類の証拠価値

Court of Appeals for the Federal Circuit(略してCAFC、アメリカ連邦巡回区控訴裁判所)は、2017年、Amgen Inc. v. Apotex Inc. (Fed. Cir. 2017) において、バイオ後続品の認可に関わる書類は、特許訴訟の際に証拠として使えるが、侵害を決定づけるものではないとした。

 

バイオ後続品(biosimilar)— 先行しているバイオ医薬品の類似品で、臨床的に先行品と比べて安全性と効果において意味のある差がなく、先行品と互換性があるもの。Food and Drug Administration (略してFDA、 食品医薬品局)の認可が必要。

 

このAmgen事件では、バイオ後続品を作ったApotexが特許権者Amgenの製造特許を侵害しているかが問題になった。地裁では、Apotexの手法では対象となっているタンパク質の濃度が特許でクレームされている濃度以下だと判断し非侵害となったが、CAFCでは、地裁が薬の認可に関わる書類を適切に考慮したかが問題になった。特に、Biologics Price Competition and Innovation Act (BPCI法)で定められているバイオ後続品の開示情報(通称Patent Dance)が焦点になった。

 

Patent Dance − BPCI法における短縮されたバイオ後続品の認可に関わる手続きで、先行品メーカーとバイオ後続品メーカーの間で特許に関する情報を交換する一連の枠組み。42 USC Section 262

 

訴訟前、Patent Danceの際にApotexが開示したバイオ後続品のタンパク質濃度はクレームされている範囲を含むものだった。しかし訴訟時に、ApotexはPatent Dance時とは異なる濃度を主張し、Apotexの専門家は、Patent Danceの際にApotexが開示したバイオ後続品のタンパク質濃度は事実上間違っていたことを指摘した。

 

CAFCは、Patent Dance時に開示された情報の一部は提出者の容認として認められるべきであり、無視するべきでないとしたが、被告Apotexを縛るものではなく、侵害を決定づけるものではないとした。

 

また、CAFCは、Patent Dance時に開示した情報は証拠として考慮されるべきだが、このAmgen事件では、Apotexの専門家の証言に信頼性があったので、 その相反する証言の方が証拠としての価値があるとした。

 

まとめ作成者:野口剛史

 

元記事著者:Aron Fischer and Michael Fresco. Patterson Belknap Webb & Tyler LLP

https://www.biologicsblog.com/federal-circuit-affirms-apotex-bench-trial-win-in-neulasta-biosimilar-suit/

ニュースレター、会員制コミュニティ

最新のアメリカ知財情報が詰まったニュースレターはこちら。

最新の判例からアメリカ知財のトレンドまで現役アメリカ特許弁護士が現地からお届け(無料)

日米を中心とした知財プロフェッショナルのためのオンラインコミュニティーを運営しています。アメリカの知財最新情報やトレンドはもちろん、現地で日々実務に携わる弁護士やパテントエージェントの生の声が聞け、気軽にコミュニケーションが取れる会員制コミュニティです。

会員制知財コミュニティの詳細はこちらから。

お問い合わせはメール(koji.noguchi@openlegalcommunity.com)でもうかがいます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

OLCとは?

OLCは、「アメリカ知財をもっと身近なものにしよう」という思いで作られた日本人のためのアメリカ知財情報提供サイトです。より詳しく>>

追加記事

laptop-working
契約
野口 剛史

ハイパーリンクで埋め込まれた規約の強制力

埋め込まれたハイパーリンクからアクセスできるオンライン契約書の追加条項は、それ自体が強制力を持つ可能性が高いです。そのため、契約書をレビューする際は、リンク先に書かれている追加条項も考慮する必要があります。また契約書を作成する際は、追加条項の強制力をより高めるような文言を含めるべきです。

Read More »
hand-shake-business
その他
野口 剛史

法務部門の変革:リーガル・プロセス・アウトソーシングの導入とその利点

コロナで働く環境が変わり国際・経済状況も目まぐるしく変わる中、作業重視の法務関係作業の外注であるリーガル・プロセス・アウトソーシングに注目が集まっています。慢性的な人材確保の難しさや限られた社内の法務リソースをより効率的に活用するためのアウトソースは今後も増えていくことが予想されています。

Read More »
特許出願
野口 剛史

自動化OA応答ツールでOA対応の効率を劇的に上げる

特許に関わる業務、特にOA対応に関しては、自動化ツールの活用は有効だと考えています。OA対応の「質」に影響しないところで時間がかかっていたところを自動化ツールを使うことで作業の簡略化を行い、そこでできた時間やリソースをOA対応時の主張を更に磨く作業やクレーム補正にあてることでより「質」が高く素早いOA対応ができることが期待されています。

Read More »