少し前までは、ベンチャーキャピタル(VC)は投資先の特許数にしか興味がなかった。しかし、投資家が洗練されていき、数の問題ではなく、質の問題に注目するようになってきた。投資対象となるには、特許の持つ排他的な力がどれくらいあるのか、適切に投資家に示していく必要がある。
特許は投資の担保として位置づけられているので、投資を成功させるには、投資家は正しく特許の価値を理解しなければいけない。もし特許が弱ければ(つまり、排他的能力に乏しい)競合他社に同じような商品やサービスを展開されてしまう。特許が強ければ、他社の参入を防げ、市場で生き残れる可能性が高い。
特許は全て平等ではない。特許は比較的簡単に得ることができるが、他社が競合する製品やサービスを提供できないようにする特許を得るのはとてもむずかしい。多くのスタートアップ企業は、このことを後から知る。多くの資金を特許に投入したものの、他社がその特許から学び、特許を回避する方法を思いつき、競合他社の市場への参入を許してしまったという例はいくらでもある。
多くのスタートアップ企業は、特許で、彼らの「発明」を守っていたが、彼らの「ビジネス」を守るためには使っていなかった。特許出願時に、発明者やCTOが興味を持っている技術的な詳細に注目しすぎて、競合他社が思いつきそうな特許回避手段まで考えられていないケースが多い。
反対に、正しくやれば、いくらかの技術的な詳細を特許明細書から意図的に取り除くことで、自社で行っている特定の技術的な方法に限定されずに根本的な発明のコンセプトを守ることができる。このようにすることで、採用される技術にかかわらず、市場で有利になり、収入を守ることができる。
このいい例が、Appleが権利化した顔認証を使った携帯電話のアンロックに関わる発明だ。ユーザーがアンロックしたい時だけ顔認証が作動するようにするため、Appleはユーザーがアンロックしたいことを暗示させる動きがあった場合にのみ顔の画像を取るというコンセプトを特許にした。もしAppleが特定の動作認知に関するアルゴリズムや、特定の動作センサーのタイプなどを指定していたら、他社は代替手段を使って同じようなサービスを提供できるだろう。
このように、技術的な詳細から一度距離を置くことで、特許の価値を見出すことができる場合もある。ある技術的な詳細を守るよりも、発明のコンセプトを守る方が、より価値のある質の高い特許になる。
このコンセプトを守るアプローチは合理的な考え方だが、実践するのは難しい。ある分析者が数百社のスタートアップ企業の3000件以上の特許を分析したところ、価値のある特許は3件しか見つけられなかったという。このような状況では、特定の技術に依存してしまい、コンセプトを特許で守ることができない。多くの企業では、技術系のスタッフしか出願作業には携わらない。そして、技術に精通した特許弁護士を雇い、明細書が作成される。
また、マネージメントは、特許戦略の重要性を知らず、権利化にかかる費用の予算問題などにより多くの時間を費やしてしまう傾向にある。特許は技術的なものだという固定観念があり、エンジニアに詳細を任せてしまうことも少なくはない。しかし、特許はビジネスツールであり、本来の価値を見出すにはビジネスサイドからの指示も必要。
優れた投資家も満足させる質の高い特許を生み出すには、ビジネス主導のアプローチで、技術部門とビジネス部門が一緒になって、市場を独占するためのツールとして特許を考えていく必要がある。特許戦略家も交え、明細書を書く前に、どのように発明を守ればビジネスに貢献するのかを十分検討する。このような取り組みが価値のある会社の鍵となる特許資産を生む。
ベンチャーキャピタルは、管理下の会社にこのようなコンセプトを守る特許という考え方を浸透させるのに積極的な役割を担う。マネージメントにこのような特許の質の問題を定義するだけでも、その後の知財の質に大きな影響を与える。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Gerson S. Panitch. Finnegan, Henderson, Farabow, Garrett & Dunner LLP