特許と独禁法の問題

2018年3月16日に独占禁止担当のAssistant Attorney General Makan Delrahim氏がスピーチを行い特許と独禁法の関係について話しました。このスピ0値では、知的財産の分野において、独禁法がどのように適用されるべきか、彼の考え方が語られました。このスピーチで、彼は、消費者にとって特許権は恵みであり、特許権を行使する権利者に対して独禁法が妨害しないようにするべきという考え方を示しました。

Assistant Attorney General Makan Delrahim氏は、スピーチの中で、彼の考え方を語る上で4つの基礎を話しました。まず1つ目は、Patent hold-upに関する問題は、独禁法の問題ではないということです。Patent hold-upとは、FRANDに関係していて、特許権者が特許をライセンスするにあたって、合理的で差別のない料金以上の支払いを要求することです。Makan Delrahim氏いわく、独禁法をFRANDを取り締まるツールとして使うのは適切ではないとしました。もし、FRANDで問題が生じるのであれば、独禁法ではなく、契約法の元、救済を求めるべきだとしました。Makan Delrahim氏は、patent hold-up自体が競争を妨害し、政府の介入を必要とするようなことになるまでには至らないという見解を示しました。Makan Delrahim氏は、Patent hold-upの問題のような、高いライセンス費用の請求というのは、ただ単にビジネスの現状を示しているだけにすぎないという考え方のようです。

次に、2つ目の基礎として、standard setting organizations (“SSOs”) は用意に特許で守られている技術を標準技術として採用しないよう注意するべきだとしました。このような行為は、発明へのやる気を低下させ、安易にpatent hould-outを促すだけだと批判しました。司法省(DOJ)はSSOの特許ポリシーがどのようなものかを調べ、そのようなポリシーが技術を開発する発明サイドと実装するメーカーサイドの両方のグループから成り立つ組織によって作成されているか、また、そのようなポリシーが両方のグループの了解を得たものになっているのかを調査する用意があることを示しました。

3番目の基礎として、特許権者は他者を排除する権利があるので、SSOと裁判所がそのような特許の重要な権利を制限するような行動を取る場合、とても重い責任を負うことになる。特に、事実上の強制的なライセンス形態(de facto compulsory licensing scheme)を強いる場合は、慎重な行動を取ることを進めました。

最後に4つ目の基礎として、Makan Delrahim氏は、独禁法の観点から意見すると、一方的で無条件の特許ライセンス授与の拒否は合法だという考え方を示しました。ライセンスの拒否という理由で、独禁法Sherman Actの3倍賠償を求めるのは適切ではないとしました。

Assistant Attorney General Makan Delrahim氏の考え方は、2017年1月Federal Trade Commission Acting Chairman のMaureen K. Ohlhausen氏がFTC v. Qualcommで示した考え方に似ています。

コメント:

司法省(DOJ)は、大統領をトップとした行政機関の1つなので、行政のポリシーに基づいた行動や判断を行なっていく機関です。そのため、担当者の考え方が、その部署の行動に大きな影響を与えます。独占禁止担当のAssistant Attorney General Makan Delrahim氏は、知財を尊重する立場を取っているので、FRAND等の知財問題が発生しても独禁法違反の疑いで司法省(DOJ)が介入する確立は低そうです。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者:Jake Walter-Warner and Melissa R. Ginsberg. Patterson Belknap Webb & Tyler LLP

https://www.pbwt.com/antitrust-update-blog/aag-delrahim-on-the-intersection-of-antitrust-and-intellectual-property-law-strong-patent-rights-spur-not-suppress-competition/#page=1

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