製薬関連の特許には、多くの場合治療方法がクレームされていて、有効成分や添加剤の量や濃度がある一定の幅で限定されていることがあります。このようなクレームの形は多くの特許で使われていますが、先行文献において重複する幅で開示がある場合、どのような文献だったら新規性や自明性の有無を問えるのかが明確ではありませんでした。しかし、PTABによる最近の判例Koios Pharmaceuticals LLC v. Medac Gesellschaft Für Klinische Spezialpräparate, Case IPR2016-01370 (Paper 54, February 7, 2018)は、このように幅が重複している先行文献を審査する方法の一例を示しています。
PTABにおける分析:
問題の特許は、以下の方法をクレームしていました。
a method for treating inflammatory autoimmune diseases comprising subcutaneously administering methotrexate at a concentration of more than 30 mg/ml.
先行文献のGrint patentは同じ病気を治療するもので, methotrexateが “from about 0.1 to about 40 mg/ml of carrier”であるべきで、subcutaneous injectionをするのが好ましいと開示していました。エキスパートもsubcutaneous administration(皮下投与)という部分とmethotrexateの濃度に関してクレームの幅と重複していると説明。
しかし、PTABは、先行文献のGrint patentはクレームされた発明を無効にするには不十分だとしました。
幅が重複しているのになぜでしょうか?
PTABは、その理由として、申立人は重複するmethotrexateの濃度が皮下投与で適用可能だと当業者が理解することを示さなければいけないが、そのことを申立人は怠ったとしました。申立人のエキスパートは重複するmethotrexateの濃度が皮下投与で適用可能だと当業者が理解すると主張しましたが、PTABは、特許権者のエキスパートのGrint patentには様々な非経口投与が開示されているが、方法によって濃度が異なるにもかかわらず、Grint patentでは特定の方法に対する濃度を規定していないという発言を信用し、採用しました。つまり、例えGrint patentが重複する幅を開示していても、特許でクレームされている方法に対する濃度が規定されていないので、先行文献のGrint patentだけではクレームされた発明を無効にするには不十分だとしました。
教訓:
このKoios Pharmaceuticalsの判例は、製薬メーカーにとって、幅が重複している先行文献に対する具体的な対処方法を教えています。この問題に対する判例は少ないので、この判例を詳しく調べ、どのような証拠を提示すればいいのかなどを知っておくといいでしょう。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Robert D. Rhoad. Dechert LLP
https://info.dechert.com/10/10360/april-2018/prior-art-disclosure-of-overlapping-ranges-found-insufficient-to-invalidate-patented-method-of-treatment-claims-.asp?sid=bcac146b-2f05-4c05-a734-f1a54d79d2b2