IPRは違憲ではないと米国最高裁が判断

4月24日、米国最高裁は、このOpen Legal Communityでもウェビナーを行なったOil States Energy Services v. Greene’s Energy Groupに対して判決を下しました。7対2で、米国最高裁はIPR(当事者間レビュー)は違憲ではない(not unconstitutional)と判断しました。

この案件では、そもそもIPRの合憲性(constitutionality)、つまりIPRという仕組みがアメリカの憲法の規定にかなっているか問題になっていて、IPRが違憲だと判断されれば、特許庁で行っている無効審判制度であるIPRが大きく変更する恐れがありました。http://openlegalcommunity.com/oil_states_ipr_constitutionality

しかし、24日、最高裁は、IPRは問題視されていたアメリカ憲法第三条 (Article III)にも憲法修正第七条 (the Seventh Amendment)の陪審員による裁判という点でも、憲法に違反していなかったと結論づけました。

判決文で、Thomas判事は、IPRという仕組みは”Public rights”(公民としての権利)の考え方に当てはまるとして、公民としての権利であるがゆえ、議会はアメリカ憲法第三条の元に置かれている司法裁判所以外でも、裁判を下せるようにすることができるとしました。さらにそのような考え方の元、IPR手続きが導入されたAIAにおいて、議会がALJ(Administrative Law Judges)によって、特許性の判決を行うIPRを導入したことは、憲法上、何も問題がないとしました。

特許は法律によってのみ与えられた権利なので、行政による審議の必要条件を満たす必要があるとしました。PTABによるIPR手続きは、まさに議会がAIAで行政による特許の再審議を行う場として作り出したものなので、特許がIPR手続きによってPTABで再審議されることは、合憲とされました。

上記のように、アメリカ憲法第三条 (Article III)の元で定められた司法裁判所でも特許に対して審議が行えると明確にした後、(つまり、IPRはアメリカ憲法第三条 (Article III)についての違反はなかったとした後)、議題は憲法修正第七条 (the Seventh Amendment)の陪審員による裁判という点に移っていきます。

この憲法修正第七条に関しても、最高裁は、違反はなかったと判断。議会が適切にアメリカ憲法第三条の元に置かれている司法裁判所以外でも、裁判を下せるようにした場合、憲法修正第七条の陪審員による裁判という点は独立した禁止事項にならないため、アメリカ憲法第三条 (Article III)についての違反はなかったことは、自動的に憲法修正第七条に関しても違反がなかったということを示しているとしました。つまり、憲法上、行政下(USPTOのPTABによるIPR手続き)での審議自体に問題がなければ、憲法修正第七条は問題にならないとしました。

コメント:

この最高裁の判決を受け、実務者は今後どのようなことが起こるのか、この判決から自分を守るにはどうしたらいいのか、または、この判決のどのように有効活用したらいいのか、いろいろと不透明なことがあると思います。ですので、今回はこの判決を受け、Open Legal Communityでは、緊急ウェビナーを日本時間の5月12日(土)の朝に計画しています。詳細はおって連絡します。

 

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者:Jason E. Stach, Maureen D. Queler. Finnegan, Henderson, Farabow, Garrett & Dunner, LLP

https://www.finnegan.com/en/insights/a-practical-guide-to-the-supreme-courts-oil-states-decision.html

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