知財業務の中でも多くの時間を使うのが拒絶通知(Office Action)対応だと思います。特に、出願国が増えればその数に比例してOA対応が必要になります。でも、多くのケースで同じ文献が引用されていたり拒絶理由も似たようなものがあります。そこで事務的な作業を減らし、より多くの時間を反論主張に使えるようなツールを作ってみたらどうでしょうか?
コンセプト
アイデアはとてもシンプルです。過去にすでに引用された文献、その文献に関わる拒絶通知の文面、そして、対応する反論理由(とクレーム補正)をまとめたデータベースを作り、今後、他の特許庁から来るOAの対応の際にリファレンスとして使うという仕組みです。
例えば、日本で出願し、その後、アメリカや中国、ヨーロッパで出願したとします。そのような場合、多分、日本の出願に対してOAが来て、それを最初に対応すると思います。その後、数ヶ月から数年後に他の特許庁からの拒絶通知が来る。しかし、最初の対応をしてからすでに数ヶ月(下手したら数年後)のことなので、当然、日本の中間対応でどのようなことを言ったか忘れてします。そして、紙のファイルラッパーや電子化された日本の対応履歴を確認して、同様の反論ができるものについては、同じように中間対応をすると思います。そして、過去の拒絶通知では引用されていない文献や主張に対して、反論できるような主張(とクレーム補正)を考えていくというのが最も合理的に思えます。
これをOAが来るたびに手作業でやってもいいのですが、各国の特許庁から来るOAには時間差があるし、同じ文献が引用されていたり拒絶理由も似たようなものが多いので、案件ごとに過去のOA対応履歴が再利用しやすい形でデータベースにあると便利ですね。
適用
一番ローテクな適法方法は、出願案件ごとにExcelの表を作って、そこにOA対応した順番に、1)引用された文献、2)その文献に関わる拒絶通知の文面、3)対応する反論理由、4)(あれば)クレーム補正をコピペした物を作っておくというものです。そこに、時間差はありますが、実際に審査官が納得して拒絶理由を取り下げたか否かなどの情報を更に加えられるといいですね。このような形で各国の特許庁から拒絶理由通知書が来たときに、このExcelの表を参照すれば、簡単に過去のOA対応のどの部分を再利用できるかが一目でわかります。
問題は、誰かが情報の管理をしないといけないし、実際に実務で対応するときに担当者に使ってもらわないといけないので、それがめんどくさいというか、そこの事務的な作業がかかってしまうことです。しかし、Excelを使うだけでできるので一番気軽にできます。
より理想的な適法方法は、普段使っている特許ポートフォリオを管理しているDocket softwareに追加機能として加えることです。これは使っているツールやベンダーなどの制限でうまく行くかはケースバイケースだと思いますが、普段使っているデーターベースに追加要素を加えるだけなので、もしかしたら、すでにデーターベースに入っている情報の見せ方を変えるだけでいい場合もあるので、その場合、事務的な作業が省略可されます。
あとは、これを売り出すなら、ツールを独自に開発するのもアリだと思います。喜ばれそうな機能は自動化で、例えば、PDFで送られてくるOAの内容を自動で文字興しして、AIなどで引用された文献やその文献に関わる拒絶通知の文面を自動検出してくれると付加価値が出ますね。後は、広く使われているDocket softwareとの互換性というか(APIなどを使った)相互のデータの受け渡し機能があれば、更にプラス。
まとめ
知財向けの業務効率化ツールも増えてきましたが、まだ事務的な作業に多くのコストや時間をかけている事務所や企業が多いのではないでしょうか?今回紹介したアイデアは効率化のアイデアの1つにしか過ぎませんが、コロナショックで不景気が心配される中、利益を少しでも多く残すために、さらなる業務効率化が求められてくると思われます。
そのため、普段から何気なくやっている作業でもどのような点が単なる機械的な「繰り返し」作業なのかを見極め、それをどう効率化・自動化できるかを考えるという地道な改善努力がこれからの時代の差別化のカギになると思います。