マイクロソフトが一部ユーザーのAI利用に関する補償を発表:社内のGAIポリシーの大切さ

商用でAIを使う際、知的財産権の侵害が問題になることがあります。マイクロソフトは、Copilotの使用によって商標・著作権侵害の訴訟が起きた場合、一定の条件下で弁護や損害賠償を担当すると明言しました。これは企業にとって良いニュースですが、会社内でAIを使うには、独自のポリシーが必要です。

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ジェネレーティブAI(GAI)の急成長が世界を席巻しています。GAIの用途は多岐に渡る一方、使い方によっては法的な問題もあります。そのため、もし従業員がGAIを使用しているのであれば、その従業員が会社にとって潜在的な法的問題を引き起こす可能性があります。

AI使用の全面禁止は諸刃の刃

そのため、従業員によるAIの使用を全面的に禁止している企業もあります。それは、数年前に一部の企業が従業員によるオープンソースソフトウェアの使用を「管理」していた方法を彷彿とさせるものがあります。一見、価値ある技術の使用を禁止することは、「より安全な」アプローチですが、その一方で企業がその技術から多くの利益を得ることを妨げています。GAI関連の法的問題の多くについては、従業員のGAI使用に関するよくデザインされたポリシーを策定することで、法的リスクを管理する方法があります。 

知財侵害リスクに関する規約はプロバイダーごとに大きく異なる

ジェネレーティブAIの1つの問題は、受け取った出力が、AIモデルの訓練に使用された可能性のある第三者の知的財産を侵害するリスクです。この問題については、すでにいくつかのGAIツール・プロバイダーに対して訴訟が起こされています。

関連記事:増えつつあるAI関連訴訟:米国におけるジェネレーティブAI訴訟の最新動向 – Open Legal Community 

これらの訴訟は、AIモデルが著作権で保護されたコンテンツを使用して学習され、特定の出力がそのコンテンツのコピーまたは無許可の派生物であるとして侵害を主張するものです。もし出力が著作権を侵害する場合、著作権法上、ツールのプロバイダーおよび/またはユーザーが責任を負う可能性があります。GAIツールの利用規約(terms of use、TOU)の中には、責任をユーザーに転嫁しようとするものもあり、さらに、プロバイダーを補償するようユーザーに要求するものもあります。

関連記事:ChatGPTの利用規約から見る知財リスクと生成データの著作権保護の可能性 – Open Legal Community 

ユーザーへの補償を発表する生成AIプロバイダーも現れる

しかし、そんな中、ユーザーを補償するようなプロバイダーも出てきています。

最も最近の発表のひとつは、マイクロソフト社によるものです。発表では次のように述べられています:

  • 一部の顧客は、ジェネレーティブAIによって生成された出力を使用した場合の知的財産権侵害クレームのリスクを懸念しています。これは、自身の作品がAIモデルやサービスによってどのように使用されているのかについて、作家やアーティストが最近公に懸念を示していることを考えれば理解できます。
  • そこで、このような顧客の懸念に対処するため、マイクロソフトは “Copilot Copyright Commitment” を発表します。マイクロソフトのCopilotサービスや、それらが生成する出力を著作権侵害を心配することなく使用できるかどうか、お客様から問い合わせが寄せられているため、私たちはわかりやすい回答を提供します。
  • 具体的には、マイクロソフトのCopilot またはCopilot が生成する出力を使用したことで、第三者が著作権侵害で商用顧客を訴えた場合、マイクロソフトは顧客を弁護し、顧客がマイクロソフトの製品に組み込まれたガードレールとコンテンツフィルターを使用している限り、訴訟の結果生じた不利な判決や和解金を支払います。 

このような補償は社内のGAIポリシーに代わるものではない

このような補償は企業が商用目的でGAIを使うインセンティブの1つになりますが、GAIポリシーを策定する際に考慮しなければならない多くの問題の一つに過ぎません。

多くの場合、企業は利用規約(TOU)の一部に基づき、特定のGAIツールの承認/不承認を含むポリシーを採用しています。補償を含めることは、そのような承認において考慮すべき重要な問題の一つです。中には、侵害があった場合、ユーザーがツール提供者を補償するような今回のマイクロソフトの発表とは真逆のケースもあります。

また、承認に影響する可能性のある規約の他の問題には、以下のようなものがあります:

  • ユーザーはインプットの排他的所有権を保持するのか、それともツール提供者は使用ライセンスを得るのか?
  • ユーザーはアウトプットに関して排他的所有権を得るか?
  • TOUの中には、GAIアウトプットを商業目的で使用することを禁止しているものもある

これらは、従業員のAI使用に関する会社方針を策定する際に、企業が考慮する必要があるいくつかの問題に過ぎません。そのため、なぜGAIポリシーが必要なのか、何を含めるべきなのかについては、他のリソースや専門家のアドバイスなどを参考にし、会社のニーズに合ったものを個別に考える必要があります。

参考記事: Microsoft to Indemnity Users of Copilot AI Software – Leveraging Indemnity to Help Manage Generative AI Legal Risk | Law of The Ledger

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