[係争中]IPRを使うことで潜在的な侵害者は憲法第三条下の裁判所にアクセスできるのか?

Court of Appeals for the Federal Circuit(略してCAFC、アメリカ連邦巡回区控訴裁判所)では現在、Momenta Pharmaceuticals, Inc. v. Bristol-Myers Squibb Co. (No. 17-1694)において、誰がIPR手続きにおいてCAFCに上訴する当事者適格(standing)を持っているのかが争われている。

Standing(日本語では当事者適格) – 当事者として裁判に関われるかという問題。Standingがないと裁判の審理に加わることができず訴えが却下される。

Inter partes review (略してIPR) – アメリカ特許庁(USPTO)の審判部(Patent Trial and Appeal Board: PTAB)における第三者が申し立てできる特許無効手続の1つ。

この事件の背景:MomentaがPTABにBristol-Myers SquibbのORIENCIA®という薬に関わる特許に対してIPRを申請。しかし、MomentaはPTABを説得することに失敗し、特許は生き残った。そのPTABの判決を不服として、Momentaは、35 U.S.C. §319の下、CAFCに上訴。

35 U.S.C. 319:PTABでの判決の上訴に関わる法律。本文には、“A party dissatisfied with the final written decision of the Patent Trial and Appeal Board under section 318(a) may appeal the decision pursuant to sections 141 through 144. Any party to the inter partes review shall have the right to be a party to the appeal.”と上訴できる当事者は広く定義されている

しかし、現時点におけるMomentaの立場では当事者適格(standing)が欠けていて、憲法第三条下の裁判所であるCAFCに上訴する資格がないか?という点が争われている。

憲法第三条下の裁判所(つまり特許の場合、連邦地方裁判所)において、特許の無効を主張する場合、当事者適格(standing)が必要。しかし、この当事者適格(standing)が得られるのは、通常、当事者が対象特許で訴えれた場合(つまり特許訴訟で被告人になった場合)か、特許権者から特許訴訟の警告を受けた場合(つまりdeclaratory judgment actionを起こす場合。略してDJ Action。日本語では、確認判決訴訟)のみ。

現時点で、Momentaは、Bristol-Myersから対象特許で訴えられてはいない。また、Bristol-Myersから警告も受けてはいない。このようなMomentaの立場では、通常、憲法第三条下の裁判所における当事者適格(standing)を満たさない。

しかし、今回の案件で、MomentaはIPRからCAFCに上訴することでMomentaは憲法第三条下の裁判所における当事者適格(standing)を得ることができると主張。

CAFCにおいて、Momentaは、現在の自社製薬候補の開発費用、非侵害代替手段を使う際のビジネスプランの変更にかかる費用、IPRにおけるEstoppelのリスクなどを理由に、裁判所に救済を求める際に必要な実際の損害があったと主張。

IPR Estoppel ― 特許法35 U.S.C. § 315(e)(2)に明記されていて、IPRの最終判決が下った場合、IPRの申立人はIPR手続きにおいてすでに提示した(また提示すべきであった)特許無効に関する主張を再度(ITCも含む)民事訴訟で主張できないというルール。

 

この事件以前、PTABからの上訴を却下された事案が2つあり、その2件と今回の事件の類似性が焦点の1つになっている。Consumer Watchdog v. Wis. Alumni Research Found., 753 F.3d 1258 (Fed. Cir. 2014) (公益団体Consumer Watchdogによって起こされたIPR) と Phigenix, Inc. v. Immunogen, 845 F.3d 1168 (Fed. Cir. 2017) (パテント・トロール、non-practicing entity(通称、NPE)によって起こされたIPR) 。

しかし、Momentaは、特許庁以外の行政機関に関わる上訴と今回の案件の類似性を指摘し、以前にPTABからの上訴を却下された2つの事案とこの事件を区別するべきだと主張した。

また、行政機関の決定の上訴が認められた前例では、経済的な被害が実際に起こっていなくても、合理的に考えて起こり得る場合、または、起こりやすい状況下にある場合において、損害を認めていると主張。

一方、特許権者でMomentaの上訴は不適切だと主張するBristol-MyersはMomentaは前例のConsumer Watchdog や Phigenixと同じようにPTABの判決によって具体的で特定された損害( concrete and particularized injury)を被ってはいないと主張。Momentaは、競合する製品もなく、認可も臨床試験も終わっていない状態にあり、CAFCに助言的意見 (advisory opinion)を求めているだけにすぎないとBristol-Myersは主張。

advisory opinion(助言的意見)― 法的な問題を解決するのではなく、ただ単に法律の解釈などにとどまる判決。裁判所は法的な問題を解決する場なので、判決が法的な問題を解決するのではなく、法律の解釈にとどまる場合、通常、裁判は行われない。

Bristol-Myersは、 MomentaがBiologics Price Competition and Innovation Act (BPCI法)で定められているバイオ後続品の申し込みを行う段階まで来れば、憲法第三条下の裁判所における当事者適格(standing)を満たすと主張した。しかし、Momentaの開発はこの申込みが行える段階まで至っていない。

バイオ後続品(biosimilar)― 先行しているバイオ医薬品の類似品で、臨床的に先行品と比べて安全性と効果において意味のある差がなく、先行品と互換性があるもの。Food and Drug Administration(略してFDA、 食品医薬品局)の認可が必要。

2017年12月に口頭弁論があり、両当事者とも35 U.S.C. 319だけではMomentaの当事者適格(standing)は満たされないという認識はあるが、適用される基準に対しての差があった。判決はどのようになるかわからないが、別件のOil States Energy Services, LLC v. Green’s Energy Group, LLC で、最高裁がIPRは憲法違反と判断した場合、この当事者適格に関わる判決は、事実上意味のないものになってしまう(moot)。

関連記事:米国最高裁の判断はいかに?口頭弁論から見える今後の特許無効審判IPRのあり方

まとめ作成者:野口剛史

 

元記事著者:Sarah A. Kagan. Banner & Witcoff Ltd https://www.lexology.com/library/document.ashx?g=dc7c2a6d-fd58-4257-922d-873a8ba9bb0d

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