知的財産の所有者は誰か?気をつけたい3つのシチュエーション

知的財産がビジネスの中心を担っている企業の場合、投資家や買収を考えている企業は、投資先・買収先がビジネスに関わる全ての知財を自社で保有しているかどうか把握している必要があります。というのも、ライセンスを受けている場合よりも、自社で必要な知財を保有している方が、ほとんどの場合において、都合がいいからです。

しかし、会社のライフサイクルにおいて、会社の知的財産に対する所有権がはっきりしない場合があります。今回は、特に知的財産権の所有権に関して気をつけたい3つのシチュエーションを紹介します。

シチュエーション1:会社創設

多くの場合、会社を創設する前に、創業者のメンバーが知的財産で保護できる技術をすでに開発している場合があります。そのような知財がある場合、会社がその知財を所有するには、創業者から会社にその知財の所有権を譲渡する必要があります。この譲渡手続きは、会社創設の際に一緒に行われ、創業者の株への支払い等で対価を支払うというかたちが一般的です。各創業者が、会社創設以前に開発したもの全ての権利を会社に譲渡することは大切で、関連書類に各創業者が署名をしていることを確認することは重要です。

また、もし創業者の誰かが以前の雇用主と問題があるか、会社創設の時点で確認する必要があります。

シチュエーション2:従業員とコントラクターの新人研修

アメリカでは、従業員の開発したものに対する著作権は、work for hire doctrine という 考え方から、雇用の目的の範囲内であれば、会社に著作権の所有権があると主張できま すが、発明のような、特許で保護されるべき知的財産には、work for hire doctrine が適 用されません。また、work for hire doctrine は、アメリカ国外ではアメリカと異なる扱 いを受ける可能性があるので、注意が必要です。

さらに、コントラクターを雇う際、知的財産の譲渡に関して特に契約等で取り決めがない場合、コントラクターが契約に基いて開発したものについての権利を所有します。この考え方は、コントラクターが個人でも、企業でも違いはありません。

つまり、従業員の新人研修の際に、会社は従業員が適切な知財譲渡契約に署名していることを確認すること、また、コンサルタントやコントラクターとの仕事初めに、彼らとの契約に知的財産の譲渡に関する条文が含まれていることを確認することが大切です。また、必要であれば、その契約が関わる国において有効であることをチェックします。

シチュエーション3:商業的な関係

仕入先などの第三者が会社のために開発をおこなったり、逆に会社が顧客などの第三者のために開発をおこなうことがあります。例えそのような開発に支払いが生じていたとしても、その開発で発生した知財の権利には何も影響はありません。上記のコントラクターとの契約の一般原理がここでも当てはまります。契約で取り決めがない限り、開発を行なった当事者が、開発に伴う知的財産の所有権を持ちます。つまり、会社が開発者を雇っても、開発者が開発に伴う知的財産を会社に譲渡しなければ、開発に伴う知的財産は実際に開発を行なった開発者のものになります。また同じく、会社が第三者のために開発を行なったとしても、譲渡の義務が契約書にかかれていなければ、会社が発明に伴う知的財産を所有します。

特に顧客のために行なった開発では立場が難しくなりますが、そのような場合は、共同 保有(joint ownership)したり、専用実施権 (exclusive licenses)を認めるのもありだと 思います。しかし、基本的には、会社として、会社のコアビジネスに関わる開発は制限 なく自由に使えるのが望ましいです。

このような知財の所有権に関して曖昧ではないことは、投資家や買収を考えている会社 からの diligence リクエストに答える上で大切なポイントになってきます。このような 知財の所有権に関する問題が起こる前に、契約や企業研修等で事前に対策を講じるのこ とが一番いいと思います。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者:Victoria Lee. DLA Piper https://www.remarksblog.com/2018/03/who-owns-your-ip/#page=1

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