IPRによる訴訟中断を阻止する方法

2018年4月5日、Rovi Guides, Inc. v. Comcast Corp., No. 16-cv-9278 (JPO) (S.D.N.Y. Apr. 5, 2018)において、IPR手続きにより中断していた訴訟が、IPR手続きが進行中のなか一部再開しました。通常、IPRにより訴訟が中断する場合、裁判所における全ての手付づきが止まるのですが、なぜ今回はIPR手続きの完了を待たずに一部再開したのでしょうか?

経緯:

RoviがComcastを相手に5つの特許の権利行使をします。その中の2つの特許 (‘696特許と’034特許)は関連性が高いものでした。PTABは訴訟で対象になった5つの特許の内、4つに対してIPR手続きを開始。IPR手続きを受け、Comcastは訴訟の中断を申し立て、裁判所はIPRの結果が出るまで一切の手続きを停止しました。これに対して、特許権者であるRoviは訴訟中断を阻止しようと、IPRにかかっている‘696特許を訴訟から取り下げ、唯一IPR手続きの対象になっていない’034特許における訴訟を継続し、残りの特許については後で審議を行うbifurcationという形を裁判所に提案。

裁判所はRoviの主張を認め、’034特許における訴訟を継続することを決定。この決定に伴い、判事は‘696特許の取り下げが訴訟中断の判断に大きな状況を変えたとしました。裁判所は、’034特許はIPR手続きに含まれていないので、’034特許に関する訴訟の一時停止は訴訟を簡略化するものではないとしました。また、

IPRの対象になっていない’034特許の審議を遅らせることはRoviにとって不当な損害(undue prejudice)をもたらすとしました。

最後に、裁判所は訴訟を分割するbifurcationというやり方を採用することにより重複する事柄を再度議論するリスクとコストの問題を考慮。しかし判事は、’034特許が他の特許とは異なる技術に関するもので、異なる発明者によるものであることから、重複のリスクやコストよりも遅延によるRoviにとっての不当な損害の方が大きいとしました。

この結果、裁判所は‘696特許を訴訟から取り下げすることを許し、’034特許の審議をスタートし、bifurcationする形で訴訟が一部再開されました。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者:Lewis V. Popovski and Hui Li. Patterson Belknap Webb & Tyler LLP

https://www.pbwt.com/ny-patent-decisions-blog/judge-oetken-lifts-stay-on-1-of-5-ipred-patents/#page=1

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