専用実施権(exclusive license)は、特許権者が特定の会社のみ(つまり専用)に特許をライセンスするものです。このような専用実施権を与える場合、リスク分散の目的や自社の事業分野での使用を可能にするために、ライセンシーによる使用分野制限(Field of Use)を限定する場合があります。このように使用分野を制限することで、お互いの「住み分け」を行うことが目的ですが、ライセンスをおこなう際の使用分野制限の文言が適切でないと後で問題になる可能性があります。
今回は、MACOM Technology Solutions Holdings, Inc., Nitronex, LLC v. Infineon Technologies, et al., Case No. 17-1448 (Fed. Cir., Jan. 29, 2018) (Prost, CJ)という、ケースからどうCAFCが専用実施権を解釈したかを簡単に解説したいと思います。
経緯:
Nitronex社がgallium-nitrideベースの半導体を開発し、その技術に対する特許を数件持っていました。後にNitronex社は、 gallium-nitride技術に対する特許をInternational Rectifier社に売却。それと同時に専用実施権(exclusive license)を結び、元特許権者であるNitronex社に特定の権利がライセンスバックされました。その後、両社ともに買収され、名前が変わり、専用実施権(exclusive license)のライセンシーのNitronex社はMACOM社となり、特許権者のInternational Rectifier社はInfineon社となりました。
この専用実施権では、Exclusive Field of Use(専用使用分野制限)が設けられていて、gallium-nitride-on-silicon technologyに関してMACOM社がライセンスされた特許を独占して使用することが認められていました。
しかし、技術が進歩するに連れて問題が生じて来ました。特許権者のInfineonは、ライセンシーのMACOM社がライセンスされた特許を独占して使用することの許されている分野(gallium-nitride技術)以外のgallium-nitride-on-silicon-carbide technologyという技術を使用していることに気づき、そのような行為はライセンスの重大な違反(material breach)だとMACOM社に指摘しました。
しかし、ライセンシーのMACOM社は反論。自社の行為はライセンス契約を解約するものではないとして、ライセンス契約を続行するよう地裁に仮差し止め(preliminary injunction)を申請。その申し立てを地裁は受け入れ、契約に関わる訴訟が行われている間、ライセンスを継続するよう仮差し止めを発行。その仮差し止めの命令において、地裁は特許権者のInfineon社の契約解約は無効で、Infineon社に契約に従うよう命令しました。これを不服としてInfineon社は上訴。
CAFCは仮差し止めの決定を支持、一部の差し止めについては棄却し、CAFCの判決を元に今後の手続きを行うよう地裁に命令しました。CAFCは、Ninth Circuitの法律を用いて(契約が問題なので、Federal Circuitではなく元の訴訟が起こった地裁を管轄しているNinth Circuitの法律が適用されています)、ライセンシーのMACOM社は仮差し止めに必要な条件を満たし、MACOM社がライセンスを受けている分野(gallium-nitride技術)以外のgallium-nitride-on-silicon-carbide technologyという技術を使用することは契約の重大な違反(material breach)に至らないと判断しました。
CAFCは、Exclusive Field of Use(専用使用分野制限)で使われている “only” という用語は、ライセンシーであるMACOM社がExclusive Field of Useで示されている分野を超えないことを約束するものでも、また、制限するものでもないとしました。
コメント:
ここでは、Exclusive Field of Use(専用使用分野制限)で使われている“only” という文言が、ライセンスの範囲を定義しているのであって、必ずしもライセンシーであるMACOM社の活動を制限するものではないことが鍵なのだと思います。技術の進歩によって他の技術に移行することはあるので、そのような行為があったからと言って、既存のライセンスの契約違反にならないというのは納得行きます。しかし、Exclusive Field of Use(専用使用分野制限)の文言によっては、ライセンシーの活動自体が制限される可能性があるので、このようなExclusive Field of Use(専用使用分野制限)を含む特殊なライセンスを結ぶ場合、不用意に自社の活動が制限されないように文言に最新の注意を払う必要があります。
また元記事では、仮差し止め(preliminary injunction)の要件とその分析が行われているので、興味がある人は参考にしてみてください。仮差し止めは事実的な要素が大きく影響するので、どのような証拠がどの仮差し止めの要件に当てはまるのかを知っておくのもいいかと思います。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Rolando Gonzalez and Jiaxiao Zhang. McDermott Will & Emery
https://www.lexology.com/library/detail.aspx?g=b62b3af9-4b91-43fd-a757-f8b2ff35fc73