ハイライト
IPRに関する面白い記事を見つけました。IPRは訴訟よりもコスパがよく、裁判所よりも効率的に他者特許を無効化できる手段として、特許訴訟で訴えられた際のカウンターとして頻繁に活用されています。しかし、元記事著者のJoff Wild氏は、そのような通説を鵜呑みにするのではなく、本当にIPRのおかげで企業は訴訟コストを抑えることができているのか検証をしたIP Edge社の Gautham Bodepudi氏の分析を紹介し、最終的なコストセービングがいくらになったかを示しました。
IPRの効果をどう数値化するか?
IPRを進める人は、IPRが成功した時の訴訟への影響を強調します。IPRが十億ドル規模(billions)の訴訟費用を抑えることに成功したという調査はあるのですが、その根拠がIPR手続きが始まる際の80%にも及ぶ訴訟の一時停止に依存しているので、その点を問題視する人もいます。
もし訴訟が一時停止し、IPRの結果、和解になったり、すべてのクレームが無効になれば、IPR手続きが全体のコスト(つまり、原告と被告両方の訴訟費用とIPR費用)を抑えつつ問題を解決したことになります。
しかし、PTABがIPR手続きの申し立てを却下した場合やクレームが生き残った場合、IPR手続きは問題を解決することができず、止まっていた訴訟が再開してしまいます。このような場合は、IPRは、全体のコストを上げてしまいます。
元記事では、詳しい分析の結果、IPRは訴訟コストを6%しか下げていないという結論に至りました。このまとめでは、この分析の仮定や理論、考え方については解説しないので、詳しくは元記事を確認してください。
参考になりそうな数字
しかし、この分析で使われた仮定や数字、算出方法に参考になりそうなものがあったので何個か紹介します。
Average NPE patent litigation costs: $950,000 (without IPR cost)
Average NPE patent litigation period: one and two years
2017年の特許訴訟件数:4,072件
Total litigation costs for 2017: $3.86 billion (average cost x 特許訴訟件数)
2015年の特許訴訟件数:6,364件(4,048 unique patents)
2017年IPR件数:1,725件(この70%が特許訴訟関連)
訴訟関連のIPRで、訴訟の被告(つまり、IPR手続きの申立人)がIPRが提出される前に使う訴訟費用の平均:$200,000
IPR申し立ての提出にかかるコストの中央値:$100,000
最終決定までのコスト:各$250,000(両者で$500,000)
USPTO統計データ:966件のIPRの内、30%が和解に至る
分析
このデータを元に、IPRの和解が訴訟の和解につながるとしたら、IPRの和解は、289件の特許訴訟の和解につながる
この和解までに費やした費用は、$300,000 ($200,000 in litigation costs prior to IPR filing + $100,000 for petition filing)
これを2017年の特許訴訟に当てはめると、平均$650,000の訴訟コストセービングが各訴訟であるので、全体では、$187.8 millionのコストセービングにつながる。
996件中5%の案件において、IPRの対象になったクレームがすべて無効になった。この結果、48件の訴訟が和解したと考えられ、そこまでの費用は$300,000 ($200,000 in litigation costs prior to IPR filing + $100,000 for petition filing)。平均$650,000の訴訟コストセービングになります。
同じ特許が他の訴訟でも権利行使されている率を推測した後、上記の無効化を考慮すると、追加で24件の訴訟も和解に至るとかんがえられる。この場合はIPRコストがかかっていないと考えるため、そこまでの費用は$200,000 となり、平均$750,000の訴訟コストセービングになり、全体で+$49.2 millionのコストセービングにつながる。
966件の内、23%は最終判決ですべてのクレームに特許性がないと判断される。これにより222件の訴訟が和解になると考えられる。80%の訴訟は一時停止するので、177件の訴訟が停止すると考えられ、そこまでの費用は$700,000 ($200,000 in litigation costs before IPR petition filing + $500,000 borne by plaintiffs and defendants to reach final IPR decision)と考えられ、$250,000のコストセービングにつながる
しかし、20%の一時停止しない訴訟は18ヶ月(IPR申し立てから最終判決までの期間)継続すると考えると、IPR手続きは、訴訟費用を$500,000増加させる(cost by each party to reach final IPR decision)。この結果、全体で訴訟費用は+$22.2 million増加する。
全てのクレームが無効となるため、同じ特許が他の訴訟でも権利行使されている率を使い、追加で111件の訴訟が和解すると考えられる。 この111件中、80%の案件では訴訟が一時停止したとかんがえられるので、和解までの費用の平均は$200,000 (litigation costs before IPR petition filing)となり、$750,000のコストセービング。訴訟が一時停止しなかった20%の案件の和解までの費用に対するコストセービングはなし。この結果、全体で$66 millionの訴訟費用のコストセービングにつながる。
996件の内、29%はIPR開始の許可がおりないため、280件の特許訴訟に関しては、$100,000 (cost to file IPR petition)の追加コストとなり、全体で$28 millionの費用増加になる。
996件の内、1%はIPR手続きの却下という結果になるので、9件の特許訴訟に関しては、$100,000(cost to file IPR petition)の追加コストとなり、全体で$900,000の費用増加になる。
996件の内、12%はクレームが生き残るので、115件の特許訴訟のおいて、IPRは訴訟コストを$500,000 (cost by each party to reach final IPR decision)増加させることになり、全体で$57.5 millionの費用増加になる。
このようなシナリオをすべて考慮すると、2017年のIPRにおけるコストセービングは$238.8 million。訴訟コストが$3.86 billionと推測されるので、IPRによるコストセービングは全体の6%程度。
最後に
IPRの訴訟費用に対する効果を考える時、IPRが訴訟コストを増加させてしまうシナリオも考えIPRを行うべきか否かを判断するべきです。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Joff Wild. IAM
http://www.iam-media.com/blog/detail.aspx?g=64b97de7-b677-42d6-9fff-156f653c4650