企業機密搾取関連のDefend Trade Secrets Act (“DTSA”) が始めて搾取に関わる行動がすべてアメリカ国外で起こった案件に適用されました。アメリカでの活動に何らかの接点(Nexus)は必要ですが、Nexusを示せれば、アメリカ国外の企業機密搾取行為にもDTSAを活用できることがわかりました。
Motorola Sols., Inc. v. Hytera Commc’ns Corp., Ltd., No. 1:17-cv-1973 (N.D. Ill. Mar. 6, 2020)
概要
MotorolaはHytera Communicationsという中国の会社がMotorolaの企業機密を持ち逃げした3人の元従業員を雇ったという訴えを起こしました。持ち逃げされたものには、数千に及ぶMotorolaの機密技術書類やソースコード、その他の機密情報が含まれていたとのこと。
今年2月、陪審員は、DTSAにおける賠償としてHyteraに$760M以上の賠償金の支払いを命じます。陪審員によると、Hyteraは、得られた機密情報を使いMotorolaの製品とほぼ同じデジタルラジオを開発し、アメリカを含む世界中で販売していたとのこと。
このようなアメリカの企業機密の利用は、企業機密搾取の扶助にあたるとして、すべての不正利用に関わる行動は中国で行われているにもかかわらず、アメリカの連邦法であるDTSAの適用を認めました。Hyteraはこの判決を不服に感じ、上訴しています。
解説
中国への知財に関する取締が年々強化されてきています。
知財というのはグローバルなものですが、他の国で起こった事柄については、原則現地の国の法律に従って、現地の司法機関で適切な手続きを取ることが求められます。
しかし、今回中国で起こった事件に、DTSAという本来はアメリカ国内が適用管轄(Jurisdiction)であるはずの法律が、適用されています。このような治外法権の処置(extraterritorial application)は、知財ではあるにはあります。しかし、それは例外なので特別なケースの場合にしか適用されないのが一般的ですが、今回の判決で語られたアメリカでの活動に何らかの接点(Nexus)がどれだけのものであればいいのかなど、まだ不明な点が多いのが事実です。
そのためか、負けたHyteraは上訴しているので、今後高裁レベルでDTSAのアメリカ国外における適用条件が明確化されることを期待されます。
もう1つ気になった点が、Hytera に課せられた$760M以上の賠償金の支払いの回収です。上訴されているので、高裁での判決が出るまでは保留ですが、外国企業の場合、アメリカにある程度の拠点や、販売網、資産がないと、賠償金の回収が困難になります。
Hyteraのアメリカサイトを見ると、それなりの事業をアメリカで展開しているようなので、賠償金の回収はそんなに難しくないと思いますが、アメリカで訴える相手を選ぶ際、賠償金などの金銭の回収がアメリカ国内で出来るかというのは結構重要な点になります。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者: Jillian Ambrose and Christine B. Hawes. Crowell & Moring LLP(元記事を見る)