コロナショックは営業秘密訴訟の増加を招くのか?

コロナウイルスの大流行で在宅勤務が増加し、それに伴い企業秘密の横領の脅威が著しく増大しているという話は以前しました。過去の経済危機を振り返ってみると、そこにコロナショックで不景気になった場合、営業秘密訴訟が今後大きく増えることが予想されます。

在宅勤務で企業秘密の横領のリスクが増加

コロナウイルスの大流行は、多くの仕事の仕方に大きな変化をもたらし、現在では非常に多くの人が自宅で仕事をしています。社会的な距離を置く必要があり、在宅勤務が推奨されていますが、その中で企業秘密の横領の脅威が著しく増大しています。

なぜ、在宅勤務が企業秘密の横領のリスクが増加させるかということについては、以前取り上げた関連記事を読んでほしいのですが、以下のような問題から社内勤務よりも漏洩しやすい状態になっています。

  • 機密情報の特定や表示がまだ整っていない状態でリモートアクセスができる
  • リモートアクセスの際の接続の安全性(WiFi、VPNやパスワード、その他のセキュリティツールの導入や使い方)
  • 従業員に対する企業機密のポリシーや教育の浸透度
  • リモートアクセスを監視したり、異常を特定するツールなどのインフラ
  • リモートワークに対応した情報の扱い方と契約における秘密管理のコンプライアンスの問題

コロナショックによる記録的な解雇から訴訟に発展か?

この企業機密の漏洩リスクに加え、アメリカなどではすでに記録的な解雇者が出ている現在の経済状況によって、状況がさらに悪化することが考えられています。営業秘密訴訟の大部分は、元従業員やビジネスパートナーが、元の雇用主やビジネスパートナーと競合するために、許可なく機密情報を持ち出したという申し立てを含んでいます。つまり、コロナショックによる雇用解雇などで、多くの企業機密を知っている元従業員が外に出ることになれば、機密情報が外部に漏れてしまい悪用されてしまうことが大いに考えられます。

2008年のリーマンショックを振り返る

現在の市況は、約10年前に経験した経済危機の状況に似ています。2007年から2009年にかけての金融危機とそれに伴う景気後退は、ダウ平均株価の約50%の下落を引き起こし、景気後退の過程で新たに3,700万人の失業申請が発生しました。

この経済的・社会的な激動は、「大不況」後の景気回復期に、新たな営業秘密事件の提訴が急増しました。

2007年から2009年の景気後退期には、従業員の流動性が高まったことがこの傾向に寄与したと考えられます。この時期に企業を退職した従業員は、競合他社に就職したり、自分の会社を立ち上げたりしました。

コロナショックでも同じことが起こる?

コロナウイルスが大流行している中、ダウや初動失業率の動向は、リーマンショックより圧縮された期間に発生しています。

現在の市場の激変と、米国の知識労働者の多くが少なくとも当面の間は遠隔地で仕事をしているという複合的な要因を考慮すると、営業秘密訴訟の規模は、前回の経済危機の後に起きたように、今後数年間で増加し続け、おそらく再び急増すると予想されます。

対策は今取るべき

リモートワークと大規模な解雇という2つの同時多発的な出来事は、営業秘密の横領を誘発する条件の完璧な嵐を作り出しており、アメリカ企業が営業秘密の盗用に気を配り、積極的に防止策を講じなければならない最も重要な瞬間であると言っても過言ではありません。

営業秘密訴訟は多くのリソースを必要とし、一回企業機密が流出してしまうと取り返しが付かないことになりかねません。このような可能性を考えると、「今」企業は営業秘密の横領に対する防御策を確実に講じておく必要があります。

解説

リモートワークにおける企業秘密の流出のリスクについては何回か取り上げました(12)が、それに加え、経済的な面を加えた記事だったので今回採用しました。

日本では雇用な守られていますが、アメリカは特に人材は流動的なので、アメリカに子会社を持っている日系企業で、今回のコロナショックのため解雇をせざる終えない場合、今から十分な対策を取ることをお進めします。

営業秘密訴訟で企業側が訴えるのは、ほぼ元従業員かコントラクターなどのビジネスパートナーです。企業側が大規模な解雇を行った場合、そのような元従業員やコントラクターが本来は持ち出してはいけない機密情報を競合会社や自分で起こした会社で流用する可能性は大いに考えられます。

さらに、今回の新型コロナウイルスの影響でリモートワークが多くなっています。企業側がリモートワークの際の企業機密の扱いを徹底できていればいいのですが、今回のコロナで早急にリモートワークの環境を整えないといけなかった会社はそこまで手が回っていないのが実情ではないでしょうか?

このような状況では、企業機密にリモートで簡単にアクセスでき、解雇を機に元従業員かコントラクターがリモートワークで入手した企業機密を不正利用する可能性があります。

こうなってしまうと、営業秘密訴訟を起こすしか道は残されていないので、今、リモートワークにおける企業機密対策を取っておかないと、数年後、訴訟で多くのリソースを使わないといけないという状況に陥ってしまいます。

そのような状況を回避するには、やはり、今から対策をとり、リモートワークにおける企業機密の取り扱いや解雇の際の企業機密に対する元従業員への警告などを具体的に考えて行動に移すことが求められています。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者: Michael T. Renaud and Nicholas W. Armington. Mintz  (元記事を見る

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