特許訴訟は高額で時間もかかります。特許訴訟が公判まで行くことはほとんどありませ んが、侵害が認められ、賠償金の支払いを命じられる場合、賠償金の額が数百万ドルに 昇ることも珍しくはありません。また、競合他社が特許権者の場合、差し止め (injunction)のリスクもあります。また、裁判所によっては略式判決(summary judgment)が認められにくい場合もあるので、裁判の長期化や費用の増加が懸念される 場合も多いのが現状です。
そのことを原告はよく知っていて、高い訴訟コストを利用し、被告と訴訟費用よりも低 い金額で和解を申し出ることも珍しくはありません。この手段は、特許の権利行使を専 門的に行う組織(non-practicing entities や patent trolls とも呼ばれます)がよく使う方法 で、訴訟を起こし、ライセンス費用や和解金などを主な収益としてビジネスを成り立た せています。このような組織にターゲットにされてしまうと、(1)将来似た訴訟のタ ーゲットになるリスクを抱えながら和解するか、それとも、(2)割の合わない弁護士 費用を払い続けて、訴訟に勝つか、というどちらに転んでもリスクやコストを抱えるこ とになってしまいます。
このような特許訴訟はできれば避けたい訴訟です。特許訴訟に巻き込まれる全てのリス クは取り除けないですが、購買契約などを結ぶ時に、自社にとって好ましい免責 (indemnification)を入れることで、特許訴訟が自社に与えるインパクトを軽減するこ とができます。
1.免責(indemnification)の基本:
購買契約の際、免責(indemnification)に関わる条文を設けることは大切です。免責に 関する条文は、最低でも以下5つのポイントを含むことが望ましいです。 (1) 免責の範 囲(scope of indemnity); (2) 通知条件(notice requirement); (3) 管理に関する規定 (control provisions); (4) 和解権限(settlement authority); そして、 (5) 制約 (limitations)です。
購買契約の際、このような免責に関わることがらは、後回しになってしまったり、十分 考慮されなかったり、当事者同士が考えていた範囲よりも狭いもになってしまったりす ることが珍しくありません。
基本的な考え方として、仕入先から部品を買った購入者は、その部品を含む製品の輸 入、使用、販売による特許侵害に対して責任を負わなければいけません。たとえ、他社 から問題になっている部品を買っていても、自社の特許侵害の責任を回避することはで きません。
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Open Legal Community 3/21/2018
更に、仕入先は、購入先が他の部品と仕入先の部品を組み合わせた場合に起こる問題を 免責(indemnification)の範囲外としているところがほとんどです。しかし、本来は、 例えば、間接侵害などで購入先が特許侵害の責任を負うのであれば、問題の部品が他の 部品と組み合わされる・されないにかかわらず、その部品に関わる訴訟に対して、仕入 先が購入者を免責するべきです。
このような問題の対処をするにあたり、免責の言葉はアメリカの特許法に沿った形で書 かれ、侵害の原因が購入した部品にある場合、仕入先が購入先の免責をおこなうように する必要があります。
2.自社の成長を予測する:
2番めに、購入先は、自社のビジネスをよく知り、どのようにビジネスが成長していく のか予測する必要があります。交渉の際に、仕入先は免責の範囲を提供した部品が含ま れている製品の販売など特定の行動に限定した内容を提示してくるかもしれません。し かし、購入先の主製品がソフトウェアで仕入先の部品の販売に依存せず、提供したソフ トまたは、別途サービスで収入を得るようなかたちの場合、そのような事実を反映する ような内容の免責(indemnification)である必要があります。
3.金額に制限には応じない:
3つ目に、購入先は契約の中で、免責の対象に制限をつけるような内容に同意しないほ うがいいでしょう。仕入先は、よく契約の金額を元に、免責金額の上限を設ける場合が あります。しかし、特許侵害訴訟の費用は高額におよぶので、購入先としてはそのよう な免責金額の上限には同意しない方がいいでしょう。もし他の責任に関する条文で制限 がある場合、知財関連の免責をその制限から除外することが大切です。
4.記録管理が大事:
4つ目に、正確な記録管理を行うことです。特許訴訟における賠償金は法律上、過去6 年間の侵害までさかのぼることができます。 例えば、10年前に結ばれた5年間の契 約であっても、過去6年の期間と重なるので、賠償金の計算に影響を与えます。 つま り、取引先との関係を追えるよう、過去の契約等も十分な期間保存し、管理していく必 要があります。
5.“caused by”は使わない:
5つ目は、免責に使われる“caused by”という文言に対する注意です。 “Caused by” は原因を必要とします。しかし、その原因は訴訟の公判になるまで明らかにされない場 合があります。ほとんどの訴訟は公判に行く前に和解し、主な訴訟費用は公判まで続く
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discovery によるものなので、免責の主な目的は、事前に訴訟コストのリスクを軽減す ることであるべきです。そうするためには、 免責を有効にする言葉は、“Caused by” ではなく、仕入先の製品から起こった、または、仕入先の製品に関連した(“arising out of” or “related to” a supplier’s product)などの文言にすることが望ましいです。
さて、すでに契約の交渉が終わって契約したあまり自社にとって好ましくない免責が含 まれている契約書はどうしたらいいのでしょうか?著者の Aamir 氏は、仕入先に免責に 関して話し合ってみることを進めています。仕入先は、正式な免責要求や免責責任がな くても、今後のビジネス関係を考慮し、購入先の特許侵害訴訟をサポートすることがあ ります。ここで注意したい点は、仕入先がサポートしてくれるのはいいのですが、ほと んどの場合、仕入先と購入先の間のコミュニケーションに対して秘匿特権が適用されな いので、そのようなコミュニケーションは discovery で相手に内容が知られてしまい ます。仕入先とのコミュニケーションは、訴訟相手に内容を知られることを前提に、事 実に基づいた内容に限定したものにするべきでしょう。
ここで紹介した5つの点は、知的財産に関する免責をより効果的にするための例にすぎ ません。例えば、この5つのポイントを参考に、購入先は、事前に自社に都合のいい免 責の文言を用意しておき、今後の購買交渉の際に、交渉のスタートポイントとして、そ の文言を提示するということも有効な手段の1つです。少なくとも、各会社で、どのよ うに免責に対応していくのかフレームワークを作り、組織的に一貫性のある対応をして いくことが大切だと思います。
コメント:
英語の元記事は、以前 Open Legal Community でもウェビナーの講師として活躍していた だいた Fish and Richardson 法律事務所の Aamir Kazi 弁護士が、「今週のアメリカ知財の まとめ」の読者のためだけに書いてくれたものです。免責は購買契約の重要なポイント ですが、なかなか取り上げられない点なので、貴重な情報源になるのではないかと期待 しています。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Aamir Kazi. Fish and Richardson https://www.dropbox.com/s/u4dft4kpwof538f/OpenLegal%20Article.pdf?dl=0 (メールリスト限定)