米国最高裁の判断はいかに?口頭弁論から見える今後の特許無効審判IPRのあり方

現在、Oil States事件というケースにおいて、最高裁で、IPRの合憲性(constitutionality)、つまりIPRという仕組みがアメリカの憲法の規定にかなっているかが問われている。Oil States事件における判決によっては今後アメリカの特許業界全体に大きな影響を及ぼしかねない。そこで今回は、ウェビナーの講師としてTom Makin氏を招き、そのOil States事件でアメリカ最高裁に提出されたブリーフと2017年11月末に行われた口頭弁論をわかりやすく解説し、最後にこの重要なケースの判決を予測してもらった。

Inter Partes Review手続きは米国特許庁が提供する無効審判制度の1つで、略してIPRと呼ばれる。また、日本語では、当事者系レビューとも呼ばれている。

1.当事者同士の主張:

  1. Oil States側は、IPRは違憲という立場。Oil Statesは、アメリカ憲法第三条 (Article III)に示されている判事と陪審員(jury)ではなく、行政機関 (administrative agency) によって個人の財産権を抹消することができるIPRは、三権分立 (the separation of powers) と憲法修正第七条 (the Seventh Amendment)の陪審員による裁判という点で、憲法に違反していると主張した。
  2. 一方、Greene’s Energy側は、IPRは合憲という立場。Greene’s Energyは、特許は政府から与えられるもので、個人的な資産ではない、そのため憲法第三条と憲法修正第7条の例外である“Public rights”(公民としての権利)が適用されるので、憲法に違反しないと主張した。

2.最高裁の構成:

現在のアメリカ合衆国最高裁判所は9人の判事 (Justices)で構成されていて、5人対4人で若干、保守派であり、反行政国家 (anti-administrative state)。特に多数派の1人、Thomas判事は、特許は私的な資産ではないと考えているよう。

3.過去の判例:

一番近い過去の最高裁の判例を見ると、Oil States側の主張を支持し、IPRが違憲だという考え方を支持しているように見える。

4.判決の予想:

このような点から、大方の予想に反し、Makin氏は、少なくともAIA以前の特許に対して、IPR手続きは違憲であるという判決が下されると予想した。

AIA:Leahy-Smith America Invents Act (略してAIA、日本語では米国特許法改正とも呼ばれる)。2011年から段階的に導入され、今回問題になっているIPRもAIAで新たに導入された。

コメント:これは、Open Legal Communityが2017年12月に主催したウェビナーの簡単な紹介です。より詳しい説明と録画版のウェビナーには以下のリンクからアクセスできます。

まとめ作成者:野口剛史

 

元記事著者:Thomas Makin. Shearman & Sterling LLP

http://openlegalcommunity.com/oil_states_ipr_constitutionality

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