特許明細書のクレームで、温度、圧力、粘度、密度などの値をある一定の範囲でクレームすることが多いと思います。特に、物理的なモノに対する発明や、化学系の発明に対するクレームでは使用頻度が多いのではないでしょうか?しかし、このように一定範囲の値をクレームした場合、先行文献で示されている値が問題になることがあります。先行文献で示されている値と重なる場合は、クレームを補正する必要があります(明細書でのサポートが必要)ですが、重複指定内が値が値が近い場合はどのように扱われるのでしょうか?この問題に対して、CAFCが判決を下したIn re Brandtを通して、特許庁での扱われ方とその対策方法を考えていきたいと思います。
経緯:
In re Brandtでは、屋根の建設に使われるhigh density polyurethane coverboardに関する発明がクレームされていました。re Brandt, No. 2016-2601, slip op. at 2 (Fed. Cir. March 27, 2018)。問題になったクレームでは、そのcoverboardの密度が以下のように示されていました。
“said coverboard having a density greater than 2.5 pounds per cubic foot and less than 6 pounds per cubic foot”.
このクレームに対して、審査官は、coverboardの密度が”between 6 lbs/ft3 and 25 lbs/ft3.”であるという先行文献を見つけ、そのクレームを拒絶。クレーム値の範囲と先行文献の値の範囲を見ると、重複はありませんが、6 pounds per cubic footというところで、末端の値が一致しています。結局この値の範囲の問題で審査官と出願人は平行線を辿り、PTABに上訴。PTABは審査官のクレーム拒絶を支持し、CAFCに上訴されることになります。
CAFCでは、PTABの判決を支持、出願人が主張した明らかな自明性(prima facie case of obviousness)を成立させるにはクレームの値と先行文献の値が重ならなければいけないという主張を却下。CAFCは、クレームされた値の範囲と先行文献で開示された値の範囲の間に意義のある差(meaningful distinction)がない場合、たとえ範囲が重複していなくても明らかな自明性(prima facie case of obviousness)は成立するとしました。
また、CAFCは出願人の二次的考察(secondary considerations)を否定。出願人は先行文献がクレームされた発明に反する(teaches away)内容を開示していることを示す証拠を提示しなかったと説明。また、出願員は、発明から見出される予期せぬ結果(unexpected results)に関しても十分な証拠を提出しておらず、なぜ同じような結果が先行文献における範囲でも出せないのかを説明していなかったと指摘しました。
教訓:
審査中どのような先行例が出てくるかわかりませんが、In re Brandtのケースのように、クレームで示した値の範囲に近い数値を示す先行文献に対して反論するには、二次的考察(secondary considerations)、例えば、予期せぬ結果(unexpected results)がクレームで示した値の範囲では達成できるが、先行文献の示す値では達成できないなどの、証拠を追加で準備する必要があります。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Joseph M. Beauchamp. Jones Day
Federal Circuit Provides Guidance on Obviousness of a Claimed Range of Values