
Timberland社は、1973年に発売した「ティンバーランド・ブーツ」で知られるアメリカのアウトドアブランドです。このブーツは、その独特のデザインと高い機能性で世界中で愛されてきました。しかし、このブーツのデザインが果たして商標登録できるのかについて、長年の訴訟が行われてきました。
Timberland社は、ブーツのデザインを保護するため、米国特許商標庁(USPTO)に商標出願を行いました。しかし、USPTOは、このデザインが「機能的」であり、「識別力」が不足していると判断し、出願を拒絶しました。Timberland社は、この決定を不服として、商標審判部(TTAB)に不服申立てを行い、さらに連邦地方裁判所に提訴しました。
商標の重要性とトレードドレスの課題
商標とは、商品やサービスを提供する個人や企業が、他の競合と区別するために使用する識別マークです。このマークは、ロゴ、名前、スローガン、特定の文字列、デザイン、またはこれらの組み合わせで構成されることがあります。商標は消費者に対して、その商品やサービスが特定の出所(つまり特定の生産者や商業的源)から来ていることを示し、品質の一貫性を保証します。
製品のデザインを保護する商標はトレードドレスとも呼ばれ、このような商品デザインに関する商標登録は、製品の外観が消費者に強く訴求するファッション業界やアウトドア業界などで重要な意味を持ちます。しかし、機能的な要素を含むデザインや、識別力が不足しているデザインは、商標登録が認められない場合があります。
本記事では、Timberland社のブーツデザインの商標登録をめぐる一連の訴訟について、米国第4巡回区控訴裁判所の判断を中心に解説します。この事例は、商品デザインの商標登録における重要な論点を含んでおり、実務上の示唆に富んでいます。
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訴訟の経緯

Timberland社は、同社のアイコニックなブーツのデザインを保護するため、2015年5月にUSPTOに商標出願を行いました。出願において、Timberland社は、ブーツのデザインを構成する5つの主要な特徴を詳細に記述しました。これには、「チューブ状の足首の襟」や「六角形の鋲」などが含まれていました。ただし、出願には、同社の登録済みのツリーロゴや「TIMBERLAND」のワードマークが含まれている、ブーツの独特のアウトソールは含まれていませんでした。
USPTOの審査官は、Timberland社のブーツデザインが全体として機能的であり、識別力が不足していると判断し、商標出願を拒絶しました。Timberland社は、この決定を不服として、TTABに不服申立てを行いました。
しかし、TTABもUSPTOの決定を支持し、Timberland社のブーツデザインは識別力が不足しており、商標登録できないと判断しました。TTABは、機能性の問題については判断を下さずに、識別力の欠如のみを理由に登録を拒絶しました。
Timberland社は、TTABの決定を不服として、バージニア州東部地区連邦地方裁判所に提訴しました。連邦地方裁判所は、Timberland社のブーツデザインが機能的であり、識別力も獲得していないとして、USPTO側の主張を認め、Timberland社の請求を棄却しました。
Timberland社は、連邦地方裁判所の判決を不服として、米国第4巡回区控訴裁判所に控訴しました。次のパートでは、控訴裁判所の分析と判断について詳しく見ていきます。
米国第4巡回区控訴裁判所の分析と判断
米国第4巡回区控訴裁判所は、Timberland社のブーツデザインの商標登録が認められるかどうかについて、「機能性 (Functionality)」と「識別力 (Distinctiveness)」の2つの観点から分析を行いました。
機能性 (Functionality)の分析
控訴裁判所は、Timberland社のブーツデザインの機能性について、以下のような議論を行いました。
商標法では、製品の機能的な特徴は保護対象であり、商標登録の対象外とされています。これは、機能的な特徴を特定の企業が独占することを防ぎ、自由な競争を促進するためです。
控訴裁判所は、まず、地方裁判所がブーツのデザインを8つの要素(襟、二色の靴底、ラグソール、砂時計型のヒールカウンター、四つ縫い、バンプ縫いの形状、六角形の鋲、膨らんだつま先)に分けて分析したことを指摘しました。そして、地裁が各要素の機能的利点を示す特許や広告に言及したことを確認しました。
Timberland社は、地裁がデザイン全体を十分に考慮せずに、個々の要素の機能性のみを検討したと主張しました。これに対し、控訴裁判所は、たとえ地裁がデザイン全体の分析を怠ったり、出願時の記述から逸脱した可能性があったとしても、最終的には識別力の欠如を理由に登録が認められないと判断されたため、機能性についての判断は示さないとしました。
ただし、控訴裁判所は、「ブーツのデザインの特徴は全体として、快適さ、耐久性、防水性、多様な環境でのハイキングや作業に適した機能を提供している」とした地裁の見解を引用しています。これは、デザイン全体としての機能性を示唆するものと言えます。
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識別力 (Distinctiveness)の分析
続いて、控訴裁判所は、Timberland社のブーツデザインの識別力について、より詳細な分析を行いました。
識別力とは、消費者がそのデザインを見たときに、特定のブランドやメーカーを連想できるかどうかを意味します。識別力がない場合、商標は消費者に対して、その商品やサービスが特定の出所(から来ていることを示す機能を満たしていないため、商標の登録が却下される原因になります。
この識別力の分析において、控訴裁判所は、Timberland社のブーツデザイン全体ではなく、商標出願で主張された特定のデザイン要素に焦点を当てました。Timberland社は、出願において、ブーツのデザインを構成する5つの主要な特徴(チューブ状の足首の襟、六角形の鋲など)を詳細に記述していました。しかし、出願には、同社の登録済みのツリーロゴや「TIMBERLAND」のワードマークが含まれている、ブーツの独特のアウトソールは含まれていませんでした。
デザイン要素に二次的意味があるのか?
控訴裁判所は、これらの特定のデザイン要素が「Secondary Meaning(二次的意味)」を獲得しているかどうかを評価しました。Secondary Meaningとは、消費者がそのデザイン要素を見たとき、それをTimberland社のブランドと結びつけて認識することを意味します。
Secondary Meaningの有無を判断するために、控訴裁判所は以下の証拠を検討しました:
- 広告宣伝費:Timberland社の広告宣伝が、出願された特定のデザイン要素ではなく、ブーツ全体の特徴を強調していた。
- 消費者調査(Consumer Survey Evidence):Timberland社が提出した調査には方法論的な欠陥があり、回答者に特定の結果を示唆していた可能性があった。
- 販売実績:販売実績だけでは、消費者がデザイン要素をTimberland社と結びつけているかどうかを示すことはできていなかった。
- メディア報道:メディア報道も、出願されたデザイン要素ではなく、ブーツ全体の特徴を取り上げていた。
- 模倣の試み:競合他社が、消費者を混同させる目的でデザインを模倣したという証拠はなかった。
- 長期的かつ独占的な使用:市場に類似のデザインのブーツが多数存在することから、Timberland社のデザインの独自性が損なわれていると判断。
これらの証拠を総合的に評価した結果、控訴裁判所は、Timberland社が提出した特定のデザイン要素がSecondary Meaningを獲得していないと結論づけました。つまり、消費者は、これらのデザイン要素を見ても、それをTimberland社のブランドと結びつけて認識していないとされたのです。
この識別力の欠如が、米国第4巡回区控訴裁判所がTimberland社のブーツデザインのトレードドレスを認めなかった主な理由となりました。
トレードドレスを取得するための2つの実務的なアドバイス
Timberland社のブーツデザインの商標登録をめぐる一連の訴訟から、トレードドレスの商標登録を目指す企業にとって、いくつかの重要な示唆が得られます。
トレードドレスの対象となる商品の特徴における留意点:
- 商標出願では、保護対象とするデザイン要素を明確かつ詳細に記述する
- 機能的な要素は、商標登録の対象外となる可能性が高いため、出願時には非機能的な要素に焦点を当てることが重要
- 出願するデザイン要素が、消費者の間で自社のブランドと強く結びついていることを示す証拠を収集し、提出する
- 長年使用してきたデザインでも、市場に類似の製品が多数存在する場合、識別力が認められない可能性がある
消費者調査の重要性と適切な実施方法:
- 消費者調査は、デザイン要素がSecondary Meaningを獲得しているかどうかを示す重要な証拠となる
- 調査では、出願時に提出したデザイン要素の図面や説明と一致する製品画像を使用すべき
- 調査対象者に特定の回答を誘導するような質問は避け、中立的な質問を用いる
- 調査結果の解釈には注意が必要であり、専門家の意見を求めることが望ましい
トレードドレスの商標登録は、製品の外観が重要な役割を果たす業界では特に重要です。しかし、機能性や識別力の問題から、登録が認められない可能性もあります。企業は、商標出願前に、十分な調査と準備を行い、出願するデザイン要素を慎重に選択する必要があります。
また、消費者調査は、Secondary Meaningの存在を示す上で非常に有力な証拠となります。ただし、調査の方法論に欠陥がある場合、証拠としての価値が損なわれる可能性があります。企業は、経験豊富な調査会社や専門家と協力し、適切な調査設計と実施に努めるべきでしょう。
まとめ
Timberland社の事例は、商品の外見を対象とするトレードドレスの商標登録の難しさを浮き彫りにすると同時に、出願プロセスにおける戦略的な考慮事項の重要性を示しています。企業は、この教訓を生かし、自社のプロダクトデザインを効果的に保護するための方策を講じる必要があるでしょう。
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