接続された自動運転車(connected and autonomous vehicles:“CAVs”)の技術を確立するには、様々な業界のプレヤーが必要になってくる。事実、自動車メーカーやその下請け業者は、自分たちの専門では担いきれないセンサー、バッテリー、通信、セキュリティ、AIなどの新技術の開発をテクノロジー企業とコラボレーションして行っている。また、投資もさまざまなところからあり、ビジネスの構造も複雑化している。
このようにビジネスが複雑になるにつれて、いままで一般的だった1つの会社で、研究開発を行い、その費用を賄って、自社製品を自動車メーカーに売り、研究開発や自社製品に関わる知財はすべてその会社が保有するというシンプルな構図が崩れつつある。また同様に、自動車メーカーが第三者に研究開発を委託し、その費用を全て賄うかわりに、すべての知財を保有するという形も壊れつつある。どちらの旧来のモデルも、自動運転技術の確立に必要な投資額と現状を見ると十分ではない。
自動運転技術開発において、共同開発、戦略的パートナーシップ、ジョイント・ベンチャー、買収などが増えている中、契約を結ぶ際に知財保護の観点でも以下の点を考える必要がある:
- コラボレーションにおけるデザインや開発の責任、リスクの分担が明確になっているか?この点については、どちらがシステム統合の責任を担うのか、設計ミスがあった時の責任、リコールや製造物責任のコストも含まれる。
- 継続したコラボレーションの必要性と共同開発製品に含まれる部品の将来的なアクセスと改良、将来のサイバーセキュリティ対策などの今後の技術や規制を踏まえた規約があるか?
コラボレーションを行う場合、コストの配分と開発された技術に対する権利の配分を十分議論する必要があり、理想的には、自社のビジネスの必要を満たすもの、リスクに見合ったもの、将来の環境に適用できるよう十分な技術の共有ができるものであることが望ましい。このような配慮をするためには、コラボレーションを始める前から十分な準備と戦略が必要になってくる。
しかし、接続された自動運転車の業界が大きくなっていく中、知財における変化が自動運転技術の知財保護戦略を難しくしている。例えば、アメリカでは、ソフトウェア系の発明は特許になりづらいが、新しくできた連邦営業秘密法は、新たな保護・救済オプションを与えたが、実際にどのように運用されていくのかまだ不透明だ。
自動運転技術に関する一番効果的な知財保護の方法は、技術の種類と第三者の協力の度合いによって違ってくる。また、各当事者の貢献度や保護されるものによっては、共有戦略も変わってくる。共有の度合いによっては、第三者への技術の使用権利、ベースになっている技術へのアクセス、コラボレーションが終わった後に開発された技術等の共有の可能性と度合いなども変わってくる。
特許:
ソフトウェア系の発明に関しては不安は残るものの、特にリバースエンジニアリングが簡単なもの、規制などで機密情報にできないものについては、特許はとても有効的。
企業秘密(Trade secret):
ソフトウェア系の技術を単独で開発しれいる会社にとって、企業秘密は有効な知財保護の方法だ。保護できる情報は、化学式・公式、編集、プログラム、方法、技術、プロセス、デザイン、コードなど幅広い。特許と違い、出願や登録はいらない。企業秘密の所有者が特定の情報を秘密にしておくことで競争で有利に立て、その情報の機密を守るのに合理的な手段が取られている場合、企業秘密は自動的に生じる。
近年の連邦法Defend Trade Secrets Act (DTSA) は企業秘密をより魅力的なものにした。DTSAにおいて、原告側は、損害賠償、不当利益(unjust enrichment )などを請求できる。更に、必要に応じて、差し止め、懲罰的損害賠償 、弁護士費用の負担なども認められる可能性がある。
企業秘密に関するアドバイス:
公式な手続きはないので、各企業でプロトコルを作り、プロトコルに従って企業秘密を管理・運営していく必要がある。プロトコルは、企業秘密を特定する手順を明確に示したり、その特定された企業秘密を守る手段、保護の証拠を集め、分類するシステムなどを含むべき。
企業ごとにどのように企業秘密を守っていくかを考えながら、プロトコルを作る必要がある。例えば、企業秘密にアクセスできる従業員や第三者と守秘義務契約を結ぶなどの対策が必要になってくるかもしれない。また、そもそも企業秘密へのアクセスを制限したり、アクセスをトラッキングできるようなシステムを作るのも効果的。
企業秘密に関する注意点:
リバースエンジニアリングが簡単にできるものは企業秘密に向いてない。このような特徴から、ハードウェア系の企業では、企業秘密ではなく、特許における知財保護をまず考えるべき。
また、コラボレーションの際に、多くの情報を共有しなければいけない場合(または、規制などで政府に多くの情報を公開しなければいけない場合)、企業秘密はあまり好ましくない。このような場合も、まず特許における保護を考えるべき。
保護の性格上、同じ発明コンセプトを特許と企業秘密の両方で守ることは難しい。ほとんどの場合、どちらかを選ぶ必要がある。
また、企業秘密として保護するには情報の機密を維持していかなければいけないので、共有を難しくする。コラボレーションをする場合、どのような時に、だれが企業秘密へのアクセスができるのかなどの詳しい取り決めが必要になり、実際に契約に書かれている規約に従って共有される必要がある。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者: Bryan C. Nese and Marjorie H. Loeb. The Mayer Brown Practices