モノに対するクレームに製法と解釈できる文言を加えない

原則、モノに対してクレームを書く時、製法に関する制約を加えるのはよくありません。製法に関する制約が加えられることによってクレームのスコープが狭くなるにもかかわらず、先行文献は、製法にかかわらず、クレーム対象のモノを開示していればいいので、モノに対するクレームに製法の制限が加えられていたとしても、特許権者にメリットはありません。この点について知っている人は多いと思いますが、今回は、もう1歩進んで、製法と解釈できる文言をモノに対するクレームに加えないというポイントについて考えてみたいと思います。

In re: Nordt Dev. Co., LLC, Case No. 17-1445 (Fed. Cir., Feb. 8, 2018)において、CAFCは、PTABにおけるクレーム解釈を棄却し、CAFCにおける解釈の元、再度審査をすることを命じました。

経緯:

Nordt社は、elastic knee braceに関する特許出願を申請。その出願はモノに対するクレーム(apparatus claims)を含んでいて、OA対応時に、Nordt社は、製造に関わると解釈できる“injection molded” componentsという文言を追加しました。審査官は先行文献には“injection molded” によるものを開示していないが、先行文献は完成品を開示していればよく、どのようにその完成品が作られるかという方法に関しての開示は必要ないとして、拒絶を維持。その結果、PTABに上訴されました。

PTABにおいて、Nordt社は、“injection molded”という制限は、他の部品との構造的な関係を示すので構造的な制限(structural limitation)だと主張。しかし、PTABはNordt社はその製造手段によってどのような構造的な制限が与えられるのか十分な説明をしていないとして、Nordt社の主張を却下。Nordt社はCAFCに上訴しました。

CAFCによる再審判で、CAFCは “injection molded”という制限が構造的な制限であることを認め、適切にものに対するクレームを限定するとしました。

CAFCは“injection molded” が構造的な制限であるとした理由は、特許権者が異なることを言わない限り、曖昧な言葉の解釈は構造に対する制限として理解するべきであるという点と、明細書が“injection molded”が単体の部品を作る手段として説明されている点でした。ここで、CAFCは、“injection molded”という文言は構造的なものだとしましたが、それが意味することは何かは示していません。この案件はPTABに差し戻され、このCAFCの判決を元に、PTABにおいて再審査が行われます。その際に、“injection molded”が意味するものの定義を決め、“injection molded”が構造的な制限であるとした場合、クレームと先行文献の間に特許として成立するだけの差があるかが審議されます。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者: James Kritsas. McDermott Will & Emery

https://www.lexology.com/library/detail.aspx?g=ba5b2a59-8e4e-4aa7-bf27-8f5fafc620f5

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