新規性vs自明性:1つの先行例文献が複数の異なる技術内容を開示している場合の対処

1つの先行例文献が複数の異なる技術内容を開示している時、その先行文献を新規性(Anticipation)に対して用いるのか、それとも、自明性(Obviousness)に対して用いるのかで明暗が分かれたケースがあります。

Microsoft Corp. v. Biscotti, Inc., 878 F.3d 1052 (Fed. Cir. 2017)において、CAFCは、1つの先行例文献が複数の異なる技術内容を開示している場合、その先行例は対象クレームの新規性判断に使えるのかという問題を審議した結果、そのような文献は、新規性の判断には使えないと判決しました。今回は、この判例から、1つの先行例文献が複数の異なる技術内容を開示している場合の低季節な対処方法を考えていきたいと思います。

新規性に関する問題:

まず最初に、CAFCは、複数の異なる教えが1つの先行文献で開示されていた場合、当業者(person skilled in the art)がその異なる教えを合わせることを促すような開示や教えがない限り、たとえクレームされている全ての項目に対しての開示が先行文献の複数の異なる教えに含まれていたとしても、新規性の判断には使えないとしました。(anticipation cannot be proven merely by multiple, distinct teachings in a single prior art document that a skilled artisan might somehow combine to achieve the claimed invention.)そうではなく、新規性の判断に使うためには、当業者が、明細書を読んだ後に、クレームで明記されている項目の配置を予想できるような開示が先行文献にないといけないとした。(Instead, a reference may anticipate only if a skilled artisan, reading the reference, would at once envisage the claimed arrangement. )

また、CAFCは、新規性は事実問題(question of fact)なので、CAFCでの再審理では、事実的証拠(substantial evidence)の基準で審理するとしました。つまり、法律の問題を再審理する際に用いられる、地裁での判決に影響されない de novo reviewではなく、地裁での判決や判断に優位性を持たせて、審議することになります。このように新規性を法律の問題ではなく、事実問題として扱うということは、CAFCに上訴しても、覆る可能性が低くなります。

次に、文献が複数の異なる技術内容を開示しているだけなのか、それとも、当業者がその異なる教えを合わせることを促すような開示や教えがあったのかという点について、見ていきます。具体的には、訴訟内で、問題になった先行文献Kenoyerの明細書における開示がその文が書かれているすぐ前の図に対してのものなのか、それとも、その文以前の全ての図に対してのものなのかが問題になりました。特許権者であるBiscottiとしては、限定的に解釈されすぐ前の図にしか適用されていないと判断されれば、先行文献Kenoyerによる新規性の問題を回避できます。逆に、IPRで特許の無効を試みたMicrosoftとしては、その文以前の全ての図に対してのもと解釈されれば、当業者(person skilled in the art)が異なる教えを合わせることを促すような開示や教えがあると主張しやすくなります。

しかし、CAFCに上訴される前に争われていたIPRで、PTABはその鍵になる文は、すぐ前の図に対してのみの開示だと判断。よって、先行文献Kenoyerには、当業者が異なる教えを合わせることを促すような開示や教えがないと判断されてしまった。

このPTABの判断は、新規性に関連することのため、CAFCでは事実問題(question of fact)として扱われ、再審理では、事実的証拠(substantial evidence)の基準で審理されます。そうすると、IPRにおけるPTABでの決定に優位性があり、CAFCでは、PTABでそのような結論に至るだけの事実的な証拠(substantial evidence)があったとして、PTABの判決を支持。

自明性に関する問題:

PTABは、先行文献Kenoyeは新規性を判断する文献としてはふさわしくなく、先行文献Kenoyeを用いて特許の無効を主張していたMicrosoftは、先行文献Kenoyeの教えによって対象クレームの限定が自明である(Obvious)ことを個別に主張しなかったため、Microsoft はIPRにおける自明性の証明を怠ったと判断。上訴されたCAFCもPTABの判断を支持し、、PTABでそのような結論に至るだけの事実的な証拠(substantial evidence)があったとしました。

教訓:

このMicrosoft v. Biscottiにおける学びは、先行文献が例えクレームの制限を全て開示していて新規性(Anticipation)に対して用いられるものであっても、必ず自明性(Obviousness)に対する別の主張を行うということです。新規性に関する問題は自明性に関する問題よりも、直感的でわかりやすいですが、先行文献Kenoyeのように、新規性に対して用いられないと判断されてしまうと、上訴しても覆りづらいです。その点、自明性(Obviousness)に対する主張を加えることで、自明性という観点から同じ文献を見て、クレームを無効にするチャンスが巡ってきます。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者:Dr. Puneet Kohli. Baker Botts LLP

http://www.bakerbotts.com/ideas/publications/2018/march/anticipation-or-obviousness

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