特許で、温度、圧力、粘度などある程度幅のある範囲をクレームした場合の補正は、先行例を回避すると同時に、限定された範囲が明細書でサポートされている必要があります。判例によると、明細書のサポートは、範囲に関する開示はもちろん、特定の例を起点にした範囲でも満たされるので、明細書を書く場合、1)特定の範囲を広い範囲から狭めてより好ましい範囲を限定していくことと、2)範囲内の特定の数字における実施例を加えることは大切です。
審査期間中のクレーム補正:
特許案件を出願するとほとんどの場合、先行例が見つかり、拒絶通知が送られてくるので、最初に出願したクレームで権利化できることはめったにありません。特に、特許案件で温度、圧力、粘度などある程度幅のある範囲をクレームし、その範囲に関連する先行例が見つかってしまった場合(このような先行例には2種類あります。詳しくは元記事の第一段落とMPEP § 2144.05 (I)を参照)、クレームしている範囲を狭めなければいけません。
クレーム補正でのゴールは、言うまでもなく、最小の補正で、先行例を回避し、権利化できる範囲を最大化することですが、補正は同時に、明細書でサポートされている必要があります。補正が明細書で開示・サポートされていない場合、New matterとして扱われて、補正が認められない可能性があります。
元記事での例を挙げると、温度の範囲500℃から800℃がクレームされていて、明細書に「温度の範囲500℃から800℃、好ましくは、600℃から700℃。」という開示があったとします。
この発明に対して、審査官が温度520℃における事例を開示している文献を見つけたとします。この場合、先行事例を回避する範囲で、更に、明細書でサポートされている範囲を考えた場合、「600℃から700℃」と補正するかもしれません。しかし、そのような補正をしてしまうと、必要以上にクレームの範囲を限定してしまう可能性があります。
このような問題を回避するために、元記事の調査は、クレーム範囲内の定の数字における実施例を加えることを進めています。
例えば、今回の例で取り上げた明細書に、550℃における実施例が開示されているとします。
In re Wertheimという判例では、クレームに書かれている範囲制限の一端を特定の実施例にし、もう一端を開示している範囲の一端にしても、明細書でサポートされているという判決があります。この判例を適用すると、上記の例では、「550℃から800℃」の範囲でクレーム補正ができることになります。550℃は実施例の温度、800℃は開示されている範囲で一番高い値になります。このように特定の実施例を明細書に事前に含めておくことで、先行事例である520℃を回避し、なおかつ、800℃までという広い範囲におけるクレーム補正ができます。
このように、範囲制限のあるクレームがある明細書には、複数の範囲を開示し、なおかつ、範囲内の特定の条件下における実施例を複数開示しておくことをおすすめします。
ここでの考察は、新規性(anticipation)に限るもので、対象技術、先行例、クレーム範囲等によっては、先行例による自明性(obviousness)を考えないといけません。しかし、明細書内で複数の範囲を開示し、特定の条件下における実施例を複数開示しておくと、補正の際のオプションが増えることは間違えありません。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Logan Christenson. Workman Nydegger