Amazon特許評価プログラム(APEX)での申立てによる特許権者の裁判管轄リスク 〜SnapRays v. Lighting Defense Group事件のCAFC判決から学ぶ〜 - CAFCによるSnapRays v. Lighting Defense Group判決の概要と実務上の留意点をまとめました。Amazon特許評価プログラム(APEX)を通じた特許侵害の申立てが、被疑侵害者の所在地での人的裁判管轄権を生じさせる可能性があることが明らかになりました。特許権者はAPEX利用のリスクを理解し、被疑侵害者は自州での非侵害確認訴訟の機会を検討する必要があります。本判決は、グローバルな特許紛争の解決戦略に大きな影響を与える画期的なものです。特許権者と被疑侵害者の双方にとって、必読の内容となっています.

Amazon特許評価プログラム(APEX)での申立てによる特許権者の裁判管轄リスク

2024年5月2日、連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、SnapRays, LLC v. Lighting Defense Group, LLC事件において、Amazon特許評価プログラム(Amazon Patent Evaluation Express、以下「APEX」)を通じて特許権者が被疑侵害者のリスティングを申し立てた場合、特許権者が被疑侵害者の所在地での裁判管轄権に服する可能性があるとの判決を下しました。

本事件では、ユタ州を拠点とするSnapRays社が、デラウェア州に設立され、アリゾナ州を主たる事業所とするLighting Defense Group社(以下「LDG社」)を相手取り、ユタ州連邦地方裁判所に特許非侵害確認訴訟を提起しました。これは、LDG社がAPEXを通じてSnapPower社のリスティングが特許を侵害している旨をAmazonに申し立てたことに端を発しています。

地裁は、LDG社がユタ州において人的裁判管轄権(personal jurisdiction)に服さないとして、SnapPower社の訴えを却下しましたが、CAFCはこれを覆しました。CAFCは、LDG社がAPEXを通じてSnapPower社のリスティングの削除を求めたことは、ユタ州に向けられた法域外での特許権行使活動に該当し、LDG社はユタ州の人的裁判管轄権に服すると判示したのです。

本判決は、特許権者がAPEXを利用することによって、予期せぬ法廷地で訴えられるリスクがあることを示唆しています。また、APEXを通じた申立ては、特許権者の法的主張を被疑侵害者に伝えるだけの警告書とは異なり、被疑侵害者の所在地での人的裁判管轄権を生じさせる可能性があることを明らかにしました。

本判決は、特許権者によるAPEXの利用が、被疑侵害者の所在地における人的裁判管轄権の有無という新たな法的論点を提起するものであり、特許権者と被疑侵害者の双方にとって重要な示唆を与えるものといえます。以下、APEXの概要、本事件の経緯、CAFCの判決の理由、そして本判決が特許権者と被疑侵害者に与える影響について詳しく見ていきます。

Amazon特許評価プログラム(APEX)の概要

Amazon特許評価プログラム(Amazon Patent Evaluation Express、以下「APEX」)は、特許権者が、Amazonで販売されている商品が自社の特許を侵害していると考える場合に、低コストで簡易に紛争を解決するための制度です。

APEXの目的と機能

APEXは、特許権者が特許侵害の疑いのある商品リスティングを特定し、Amazonに申し立てを行うことができる制度です。特許権者は、特許の1つのクレームと、それが侵害されていると主張する最大20個のリスティングを特定した「APEX合意書」をAmazonに提出します。Amazonは、この合意書を特定されたリスティングの販売者に送付し、対応を求めます。

APEXを通じて特許侵害の申立てを受けたセラーの選択肢

APEXを通じて特許侵害の申立てを受けたセラー(販売者)には、以下の3つの選択肢があります。

  1. APEXプログラムにオプトインし、第三者による評価を受ける。
  2. 特許権者と直接交渉し、紛争を解決する。
  3. 非侵害確認訴訟(declaratory judgment of noninfringement)を提起する。

APEX合意書(APEX Agreement)に対応しないデフォルトの場合

セラーがAPEX合意書を受け取った後、何も対応を取らない場合、Amazonは3週間後に自動的にそのセラーのリスティングを削除します。これは、セラーにとって重大な不利益となります。

以上のように、APEXは特許権者に対して、Amazonで販売されている商品について特許権を行使する強力な手段を提供する一方で、セラーに対しては、特許権者の主張に速やかに対応することを求めるものといえます。APEXは、Amazonにおける特許紛争の解決を促進することを目的としていますが、後述するように、セラーの所在地での人的裁判管轄権の有無という新たな法的問題を提起することとなりました。

ちなみに、APEXプログラムは元々、実用特許中立評価プログラム(UPNEプログラム)と呼ばれていました。

SnapRays v. Lighting Defense Group事件の概要

本事件は、SnapPower社とLDG社の間で発生した特許紛争に関するものです。以下、事件の経緯とCAFCの判決について詳しく見ていきます。

判例:SnapRays v. Lighting Defense Group

事件の経緯

1. LDGによるSnapPowerのリスティングを対象としたAPEX合意書の提出

2022年、LDG社はSnapPower社のAmazonリスティングがLDG社の特許を侵害しているとして、APEXを通じてAmazonに申立てを行いました。LDG社は、APEX合意書において、SnapPower社の特定のリスティングが特許侵害に該当すると主張しました。

2. SnapPowerによるユタ州での非侵害確認訴訟の提起

SnapPower社は、LDG社のAPEX申立てを受けて、ユタ州連邦地方裁判所に特許非侵害確認訴訟を提起しました。SnapPower社は、ユタ州を拠点とする企業であり、同社の営業活動はユタ州で行われていました。

3. 地裁による人的裁判管轄権の欠如を理由とする訴え却下

ユタ州連邦地裁は、LDG社がユタ州において人的裁判管轄権に服さないとして、SnapPower社の訴えを却下しました。地裁は、LDG社のAPEX申立ては、ワシントン州に所在するAmazonに対して行われたものであり、ユタ州に向けられたものではないと判断したのです。

CAFCによる地裁判決の覆しとその理由

SnapPower社は、地裁の判断を不服としてCAFCに控訴しました。CAFCは、以下の理由により、地裁の判断を覆し、LDG社がユタ州の人的裁判管轄権に服すると判示しました。

1. 特定の人的裁判管轄権に関する三要件テストの適用

CAFCは、特定の人的裁判管轄権の有無を判断するための三要件テストを適用しました。すなわち、(1)被告が法廷地に向けて意図的に活動を仕向けたか、(2)訴えの原因が被告の法廷地での活動に関連しているか、(3)裁判管轄権の行使が合理的で公正か、という3つの要件です。

2. APEXを通じたLDGのユタ州でのSnapPowerに対する活動の意図的な仕向け

CAFCは、LDG社がAPEXを通じてSnapPower社のリスティングの削除を求めたことは、ユタ州に向けられた活動であると判断しました。LDG社は、SnapPower社がユタ州に所在することを知りながら、APEX合意書を提出したのであり、その効果がユタ州で生じることを予期していたというのです。

3. 自動的な結果によるAPEXと警告書の違い

CAFCは、APEX合意書の提出が単なる警告書とは異なることを指摘しました。警告書の場合、受信者が何も行動を取らなくても、法的効果は生じません。しかし、APEXの場合、セラーが何も対応を取らなければ、リスティングが自動的に削除されてしまうのです。この自動的な結果が、APEXと警告書の決定的な違いであるとCAFCは述べました。

4. 本判決が裁判管轄権に「洪水の門を開く」という主張の退け

LDG社は、本判決がAPEX利用者に対して全米どの地でも訴えられるリスクをもたらすと主張しましたが、CAFCはこれを退けました。CAFCは、APEX合意書の提出が特定の法廷地に向けられた活動であり、そこでの営業活動等に影響を及ぼす場合に限って、人的裁判管轄権が認められるとしたのです。

注釈:裁判における「open the flood gates」(洪水の門を開く)という表現は、ある判例が他の類似の多数の訴訟を誘発する可能性があることを示す際に使われます。具体的には、ある特定の判断が先例となり、同様の多くの訴訟が起こされることを恐れる文脈で使用されることが多いです。この表現は、しばしば法的な制限や抑制が解かれ、その結果として予想外の多くの問題や訴訟が引き起こされることを警告する際に用いられます。

以上のように、CAFCは、LDG社がAPEXを通じてユタ州に向けて意図的に活動を仕向けたこと、その活動が訴えの原因となっていること、ユタ州での裁判管轄権の行使が合理的で公正であることを理由に、ユタ州の人的裁判管轄権を認めました。本判決は、APEX利用者に対する人的裁判管轄権の新たな基準を示したものといえます。

特許権者と被疑侵害者に与える影響と実務上の留意点

SnapRays v. Lighting Defense Group事件のCAFC判決は、特許権者と被疑侵害者の双方に重要な影響を与えるものです。以下、特許権者と被疑侵害者それぞれの立場から、実務上の留意点を見ていきます。

APEXを利用する特許権者への注意喚起と不利な法廷地で訴えられるリスク

本判決は、特許権者がAPEXを利用する際の注意点を明らかにしました。特許権者は、APEX合意書の提出が、被疑侵害者の所在地での人的裁判管轄権を生じさせる可能性があることを認識する必要があります。つまり、特許権者は、被疑侵害者の所在地で訴えられるリスクを負うことになるのです。

特許権者としては、APEX利用のメリットとデメリットを慎重に比較考量する必要があります。特に、被疑侵害者の所在地が特許権者にとって不利な法廷地である場合、そのリスクは大きなものとなります。特許権者は、APEX以外の権利行使手段も検討し、状況に応じて最適な方法を選択することが求められます。

被疑侵害者が自州で非侵害確認訴訟を提起する機会

本判決は、被疑侵害者にとっては、自州で非侵害確認訴訟を提起する機会を与えるものといえます。被疑侵害者は、特許権者からAPEX申立てを受けた場合、特許権者を自社の所在地の裁判所に訴えることができます。これは、被疑侵害者にとって有利な法廷地で裁判を受けられる可能性を意味します。

ただし、被疑侵害者が非侵害確認訴訟を提起する際は、特許権者との交渉の可能性も考慮する必要があります。訴訟は、時間とコストがかかるプロセスであり、早期の解決が望ましい場合もあります。被疑侵害者は、特許権者との交渉と訴訟提起のメリットとデメリットを比較考量し、最善の選択を行うことが求められます。

APEXと他のオンラインマーケットプレイスでの権利行使プログラムとの比較

APEXは、特許権侵害の申立てを対象とするものですが、他のオンラインマーケットプレイスにも、別の知財である商標権や著作権の侵害に対する権利行使プログラムが存在します。これらのプログラムでは、権利者が侵害の証拠を提出することで、オンラインマーケットプレイスが侵害品のリスティングを削除するという仕組みが一般的です。

商標権や著作権の侵害の場合、侵害の有無を判断するために、クレームの解釈や技術的な評価が必要となる特許権侵害とは異なり、比較的容易に判断できる場合が多いです。そのため、商標権や著作権の権利行使プログラムでは、特許権のような人的裁判管轄権の問題は生じにくいといえます。

特許権者がAPEXやその他の権利行使手段を選択する際の考慮事項

特許権者は、APEX以外にも様々な権利行使手段を検討する必要があります。例えば、被疑侵害者に直接警告書を送付する方法や、国際貿易委員会(ITC)に輸入差止めを申し立てる方法などです。それぞれの方法には長所と短所があり、特許権者は自社の状況に応じて最適な方法を選択することが求められます。

また、特許権者は、権利行使に際して、訴訟戦略や和解交渉の可能性も考慮する必要があります。訴訟は、時間とコストがかかるプロセスであり、早期の解決が望ましい場合もあります。特許権者は、訴訟と和解のメリットとデメリットを比較考量し、最善の選択を行うことが求められます。

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以上のように、本判決は、特許権者と被疑侵害者の双方に実務上の留意点を示すものといえます。特許権者は、APEXの利用によるリスクを認識し、状況に応じて最適な権利行使手段を選択する必要があります。被疑侵害者は、自州での非侵害確認訴訟の可能性を考慮しつつ、特許権者との交渉の可能性も検討する必要があります。双方にとって、本判決を契機として、グローバルな特許紛争の解決戦略を再検討することが求められます。

おわりに

SnapRays v. Lighting Defense Group事件のCAFC判決は、Amazon APEXプログラムに関する初の連邦巡回控訴裁判所判決として、大きな意義を有するものです。本判決は、特許権者と被疑侵害者の双方に重要な示唆を与えるものであり、今後のAPEX利用に大きな影響を与えることが予想されます。

Amazon APEXプログラムにおける人的裁判管轄権に関する初のCAFC判決の意義

本判決は、APEXを通じた特許権者の申立てが、被疑侵害者の所在地での人的裁判管轄権を生じさせる可能性があることを明らかにした点で、重要な意義を有します。これまで、APEXに関する人的裁判管轄権の問題は明確ではありませんでしたが、本判決によって、一定の基準が示されたといえます。

本判決は、特許権者がAPEXを利用する際のリスクを明らかにするとともに、被疑侵害者が自州で非侵害確認訴訟を提起する機会を与えるものでもあります。これは、特許権者と被疑侵害者の双方にとって、訴訟戦略や和解交渉を検討する上で重要な考慮要素となります。

また、本判決は、特許権のみならず、商標権や著作権といった他の知的財産権の権利行使プログラムにも影響を与える可能性があります。オンラインマーケットプレイスにおける知的財産権の保護と、権利者と被疑侵害者の利益のバランスをどのように図るべきかについて、本判決は一つの指針を示したといえます。

特許権者と被疑侵害者がAPEX利用の裁判管轄への影響を理解することの重要性

本判決を受けて、特許権者と被疑侵害者は、APEX利用が裁判管轄権に与える影響を正確に理解することが求められます。特許権者は、APEX申立てによって不利な法廷地で訴えられるリスクを認識し、APEX以外の権利行使手段も検討する必要があります。被疑侵害者は、特許権者からのAPEX申立てを受けた場合の対応策として、自州での非侵害確認訴訟の可能性を考慮する必要があります。

また、特許権者と被疑侵害者は、本判決を契機として、グローバルな特許紛争の解決戦略を再検討することが求められます。APEXは、米国のみならず、世界中の特許権者と被疑侵害者に影響を与える制度です。本判決は、グローバルな特許紛争において、法廷地の選択がますます重要になることを示唆しています。

特許権者と被疑侵害者は、本判決の内容を正確に理解し、自社の状況に応じて最適な対応策を検討することが求められます。そのためには、法律専門家の助言を得ることも重要です。本判決は、特許権者と被疑侵害者の双方にとって、グローバルな特許戦略を再考する契機となるものであり、その影響は今後も注目されるところです。

以上が、SnapRays v. Lighting Defense Group事件のCAFC判決の概要と、その意義及び実務上の留意点です。本判決は、Amazon APEXプログラムに関する初の連邦巡回控訴裁判所判決として、特許権者と被疑侵害者の双方に重要な示唆を与えるものであり、今後のAPEX利用と特許戦略に大きな影響を与えることが予想されます。特許権者と被疑侵害者は、本判決の内容を正確に理解し、グローバルな特許紛争の解決に向けた最適な戦略を検討することが求められます。

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