業者はアマゾンの特許中立評価手続(UPNE)に気をつけよう

米国のAmazonは、第三者がマーケットプレイスで販売している商品の知財侵害対策として、権利者に様々なツールを提供しています。その中には特許権者が、侵害品を販売していると思われる業者に対して行える手続きもあり、もし仮に業者がその手続きを無視するようなことがあれば、商品がアマゾンで売れなくなり、対策は連邦裁判所における宣言的判決しかないという状況に陥ってしまいます。

特許中立評価手続(UPNE)とは?

アマゾンの特徴は、スピードと効率であり、特許侵害のクレームに対する紛争解決システムも例外ではありません。アマゾンの特許中立評価(UPNE: Utility Patent Neutral Evaluation)手続きは、特に、販売者が売上の大部分をアマゾンに依存している消費財業界において、効率的で強力な紛争解決ツールです。

UPNEを無視したり、真面目に取り組まなかったりした販売者は、自社製品が突然Amazonのウェブサイトから禁止され、連邦裁判所に宣言的判決(declaratory judgment action)を申し立て、通常、迅速かつ確実とは言い難い救済を求める以外に手段がなくなってしまうほど、効率的な手段となっています。

UPNEを無視すると後でめんどくさいことになる

今月、Tineco Intelligent Technology Co., Ltd.とその関連会社がBissell, Inc.に対して非侵害と無効を理由に起こした宣言的判決訴訟(W.D. Wash. 22-cv-297-TL)は、特許権者がUPNEを利用して得られる迅速かつ強力な救済手段にスポットライトを当てました。

Amazonは、Amazonで携帯掃除機の製造販売を行う中国企業Tinecoに、BissellがUPNEを開始したと通告していました。Tinecoは、3週間以内にBissellの請求に異議を唱えるかどうかを示さなければならなかったのですが、Tinecoはアマゾンからのメールを無視したようで、アマゾンは自動的にTinecoに対して「不履行判決」(default judgment)を下し、被告製品を撤去するという事態に発展しました。裁判とは異なり、UPNEでは、どちらかの当事者がAmazonの課す期限を守らない場合、相手方に有利な形で手続きが終了します。Tinecoにとってさらに悪いことに、アマゾンには公式な内部の上訴プロセス(internal appeal process)がないため、アマゾンによるTinecoの製品の撤去に関する判断のレビューはありません。

事業のほぼ全面的な損失に直面したTinecoは、連邦裁判所でBissellを相手に非侵害および無効の宣言的判決を求める訴訟を起こし、TRO(temporary restraining order)を申請するしか手段がありませんでした。幸いなことに、アマゾンは通常の手続きを取らず、訴訟の結果が出るまでTinecoの出品を再販できるようにし、TinecoはTROの申し立てを取り下げました。

UPNEを真剣に受け止めない売り手は多い

UPNE手続きで同様の運命をたどり、はるかに遅い救済のために裁判所に頼る以外に選択肢がなくなった企業は、Tinecoが初めてではありません。

2021年11月、アマゾンから収益の80%を得ている電動ジャンプスターターと発電所の販売業者であるShenzfiett Gooloo E-Commerce Co.は、Pilot, Inc.が起こしたUPNEによって、いくつかの製品がアマゾンから削除されました。その後、Shenzfiett社はPilot社を提訴し、非侵害および無効の宣言的判決を求めるとともに、Pilot社に対してAmazonによる自社製品の削除を取り消すよう求めるTROの申立を行いました。Shenzfiett Gooloo E-Commerce Co. et al. v. Pilot, Inc. 2021 U.S. Dist. LEXIS 225300, C.D. Cal. 2021. 

事実上全事業の喪失に直面したShenzfiett社は、Amazonによる自社製品の撤去により回復不能な損害を受けると主張しました。裁判所は、事業の損失が回復不能な損害と見なされる可能性があることを認めたものの、Shenzfiett社はまだAmazonで売れ筋の製品をいくつか持っているらしいこと、そして、TROの申し立てを行うのに1ヶ月半以上待ったという2つの理由から、TROを拒否しました。

UPNEを差し止めた裁判所はこれまで1つしかありませんが、それはUPNEが決定される前であり、その裁判所では同じ特許クレームに関する特許侵害訴訟がすでに係属中であったという、特殊な事例です。Thermolife Int’l v. Human Power of N Co.,2021 U.S. Dist. LEXIS 249770, W.D. Tex. Dec. 21, 2021.

UPNEを非常に真剣に受け止めるべき

特にAmazonの販売にビジネスを依存している企業にとって、学ぶべきことは、UPNEは、その進行の速さと潜在的な救済措置の重大性の両方から、Amazon販売者が非常に真剣に受け止めるべきであるということです。

UPNEを開始した特許権者は、60~90日の間に、Amazonの全販売から被告製品を永久に排除するという形で、Amazonから私的な差止救済(private injunctive relief )を得ることができます。また、アマゾンがその手続きに従って行った被告製品の撤去が、最終的に裁判所によって取り消されたとしても、販売者が反対判決を得たときには、事業を再開するには遅すぎるかもしれません。

特許権者にとっては、UPNEは、Amazonで販売されている製品による侵害について、連邦裁判所の訴訟に代わる効率的かつ迅速な方法として利用することが可能なので、積極的に検討してみるといいでしょう。

参考記事:Amazon’s Utility Patent Neutral Evaluation Proceeding: Let the Seller Beware

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