Visual representation of a complex chart showing Copyright Claims Board (CCB) statistics, with graphs and key data points about claims, opt-outs, and resolution rates

著作権クレーム委員会(CCB)の実績と課題分析:知財プロフェッショナルが知っておくべき重要ポイント

はじめに

著作権クレーム委員会(Copyright Claims Board、以下「CCB」)は2022年6月に運用を開始して以来、著作権紛争解決の新たな選択肢として注目を集めています。米国著作権局(U.S. Copyright Office、以下「USCO」)は現在、CCBの効果と運用に関する調査を実施しており、その結果は今後の著作権紛争解決の枠組みに大きな影響を与えることが予想されます。

知財プロフェッショナルとして、クライアントに包括的な知的財産戦略を提供するためには、特許だけでなく著作権を含む知的財産権全般に精通していることが求められます。特に、グローバルに事業を展開する日本企業にとって、米国における著作権紛争解決の新たな選択肢を理解することは、リスク管理の観点からも重要です。

本稿では、CCBの現状、直面している課題、そして今後の展望について解説します。知財実務家としての視点から、クライアントへのアドバイスに活かせる実務的なポイントも交えながら、この新しい制度の全体像を把握していただければ幸いです。

CCBの基本構造と目的

CCBは著作権代替小額請求執行法(Copyright Alternative in Small-Claims Enforcement Act、以下「CASE Act」)に基づいて設立された、著作権紛争を解決するための任意の場です。連邦裁判所での訴訟に比べて費用対効果が高く、簡易な手続きが特徴とされています。しかし、実際の運用においては様々な課題も浮き彫りになっています。

CCBとは何か

CCBは、USCOの一部として機能する行政審判機関です。その主な目的は、「特に代理人なしの当事者(pro se parties)や著作権法に関する予備知識が少なく、連邦裁判所で自らの主張や防御を行う余裕のない当事者にとってアクセスしやすい場を提供すること」とされています。

従来、著作権侵害訴訟は連邦裁判所でしか扱えず、訴訟コストの高さから、特に個人クリエイターや小規模事業者にとっては権利行使のハードルが高いという問題がありました。CCBは、この問題を解決するための「小額請求裁判所」的な役割を果たすことが期待されています。

2022年6月の運用開始以来、CCBには1,000件以上の申立があり、30件以上の最終決定が出されています。この数字からも、著作権紛争解決の新たな選択肢として一定の役割を果たしつつあることがわかります。

対象となる請求と損害賠償の上限

CCBが取り扱う紛争は総額30,000ドル以下の著作権関連事案に限定されています。また、法定損害賠償は1作品あたり15,000ドルが上限となっており、悪意ある行為に対する弁護士費用と経費の上限は5,000ドルです。ただし、特別な状況では弁護士費用の上限を超えることも可能とされています。

これらの上限は、小規模な著作権紛争を迅速かつ効率的に解決するという目的に沿ったものですが、一方で複雑または高額な事案にはCCBが適さないという限界も示しています。知財プロフェッショナルとしては、クライアントの事案がCCBに適しているかどうかを見極める際に、これらの上限を考慮することが重要です。

CCBの運用実績と効果

CCBの運用開始から約3年が経過し、その実績と効果についてのデータが蓄積されつつあります。ここでは、申立件数や解決状況、和解促進効果について見ていきましょう。

申立件数と解決状況

2022年6月の運用開始以来、CCBには1,000件を超える申立がありました。しかし、注目すべき点は、申立の約38.5%が審査段階で却下されているという事実です。この高い却下率は、CCBの手続きや要件が、特に代理人なしの申立人にとって複雑であることを示唆しています。

また、CCBが発行した最終決定は30件以上にとどまっており、申立件数と比較すると非常に少ない状況です。この背景には、被申立人のオプトアウト(手続きからの離脱)率が約43%と高いことや、手続きの途中で和解に至るケースが多いことなどが考えられます。

知財プロフェッショナルとしては、CCBの申立が実際に最終決定まで至る確率が比較的低いという現実を理解し、クライアントの期待値を適切に管理することが重要です。

和解促進効果

CCBの存在は、申立前または申立後の和解や私的紛争解決を促進していると考えられています。Copyright Alliance(著作権同盟)の報告によれば、CCBの手続きにおける和解率は約7.6%とされていますが、これは氷山の一角に過ぎない可能性があります。

特に注目すべきは、申立後に当事者が請求を取り下げるケースの多くが、実際には和解に至ったことを示唆しているという点です。例えば、申立人が被申立人への送達通知を受け取った後、または送達証明を提出した後に取下げ請求を行うケースが多く見られます。これは、被申立人がCCBの申立について通知を受けた後、当事者間で紛争解決に至った可能性を示唆しています。

このように、CCBは直接的な紛争解決の場としてだけでなく、当事者間の交渉や和解を促進するレバレッジとしても機能していると言えるでしょう。知財プロフェッショナルとしては、クライアントの著作権紛争において、CCBへの申立を交渉カードとして戦略的に活用することも検討に値します。

CCBが直面する主要な課題

CCBは著作権紛争解決の新たな選択肢として期待されていますが、運用開始から約3年が経過し、いくつかの課題も明らかになっています。ここでは、申立審査プロセスの複雑さ、送達の困難さ、デフォルト(不参加)の多さという3つの主要な課題について詳しく見ていきましょう。

申立審査プロセスの複雑さ

CCBへの申立の約38.5%が審査段階で却下されているという事実は、申立審査プロセスの複雑さを物語っています。特に代理人なしの個人(Pro se)申立人は、著作権法の専門知識がなく、CCBの要件を満たす申立書を作成することに苦労しています。

具体的な問題点として、侵害の説明方法が挙げられます。現在のCCB申立フォームでは、「侵害を説明してください」という単純なテキストボックスが用意されていますが、多くの申立人は何をどのように説明すべきか理解できていません。例えば、被申立人がどのように著作物にアクセスしたのか、侵害作品と申立人の作品の類似点は何かといった、著作権侵害の重要な要素について具体的に説明することが求められますが、これらの点を適切に記載できていないケースが多いのです。

また、申立フォームには技術的な問題もあります。例えば、オンラインサービスプロバイダに対する申立の場合、テイクダウン通知を送ったことがない申立人でも、単なる警告表示だけで申立プロセスを進めることができてしまいます。さらに、著作権登録情報の検証システムとの連携がないため、無効な登録番号でも申立を進めることができるという問題もあります。

これらの問題を解決するためには、申立フォームの改善や、申立前の情報セッションの義務化などの対策が考えられます。知財プロフェッショナルとしては、クライアントがCCBに申立を行う際には、これらの複雑さを理解し、適切なサポートを提供することが重要です。

送達の困難さ

CASE Actの送達要件は、特に法的経験の少ない申立人にとって大きな障壁となっています。CCBの手続きでは、連邦法に準拠した送達が要求されており、送達証明をCCBに提出する必要があります。

多くの代理人なしの申立人は、このような正式な送達プロセスを経験したことがなく、どのように進めればよいのか理解できていません。CCBのハンドブックでは送達に関する情報が提供されていますが、その内容は限定的であり、実際の送達プロセスをナビゲートするには不十分です。

送達の問題により申立が却下されるケースも多く、これがCCBの効率性と有効性を低下させる一因となっています。この課題に対処するためには、送達プロセスに関する教育リソースの拡充や、プロフェッショナルな送達業者との連携などが考えられます。

知財プロフェッショナルとしては、クライアントがCCBに申立を行う際には、送達プロセスの複雑さを理解し、必要に応じて専門の送達業者を推薦するなどのサポートを提供することが重要です。

デフォルト(不参加)の多さ

CCBの最終決定のうち、約60%がデフォルト(被申立人の不参加)によるものだという事実は、CCBの有効性に関する重要な課題を示しています。被申立人がCCB手続きに参加せずデフォルトとなるケースが多く、これが効果的な紛争解決を妨げています。

この問題の根本的な原因は、被申立人にはCCB手続きに参加するインセンティブが少ないという点にあります。被申立人は、オプトアウトすれば連邦裁判所での訴訟リスクがありますが、デフォルト(不参加)を選択すれば、CCBは被申立人のあらゆる防御を考慮し、損害賠償額も通常は実際の損害の3倍程度に制限されます。さらに、CCBの決定の執行が困難であることを考えると、デフォルトは被申立人にとって戦略的に有利な選択肢となっている現状があります。

この課題に対処するためには、デフォルト当事者に対する損害賠償額の増額や、デフォルトケースを連邦裁判所に移行させる仕組みの導入などが考えられます。そのため、CCBに申立を行う際には、被申立人がデフォルトを選択する可能性を考慮し、その場合の戦略を事前に検討しておくことが重要です。

知財プロフェッショナルが知っておくべき実務的ポイント

CCBは著作権紛争解決の新たな選択肢として注目されていますが、知財プロフェッショナルとしてクライアントにアドバイスする際には、いくつかの実務的なポイントを押さえておくことが重要です。ここでは、CCBと連邦裁判所の選択、CCBにおける効果的な代理、決定の執行と回収について解説します。

CCBと連邦裁判所の選択

クライアントの著作権紛争において、CCBと連邦裁判所のどちらが適切かを判断する際には、以下の要素を考慮することが重要です。

  1. 請求額: 30,000ドルを超える損害賠償を求める場合や、差止命令を求める場合は、連邦裁判所が唯一の選択肢となります。

  2. 時間的制約: CCBの手続きは連邦裁判所よりも迅速とされていますが、実際には申立から最終決定まで平均で1年4ヶ月かかっているという報告もあります。緊急の対応が必要な場合は、連邦裁判所での仮差止命令の申立を検討すべきでしょう。

  3. 証拠の複雑さ: CCBは簡易な手続きを前提としており、複雑な証拠調べや専門家証言を必要とする事案には適していません。技術的に複雑な著作権侵害事案は、連邦裁判所での訴訟が適している場合があります。

  4. 被申立人のプロファイル: 被申立人がCCBの手続きにオプトアウトする可能性が高い場合(例:大企業や法務部門を持つ組織)、最初から連邦裁判所での訴訟を検討した方が効率的かもしれません。

  5. 和解の可能性: CCBへの申立が和解交渉のレバレッジとして機能する可能性がある場合、戦略的にCCBを選択することも考えられます。

これらの要素を総合的に考慮し、クライアントの具体的な状況に応じた最適な選択をアドバイスすることが求められます。

CCBにおける効果的な代理

CCBでクライアントを代理する際には、以下のポイントに注意することが効果的です。

  1. 申立書の作成: 申立審査プロセスの複雑さを考慮し、著作権侵害の要素(アクセス、実質的類似性など)を明確に記載した申立書を作成することが重要です。特に、被申立人がどのように著作物にアクセスしたのか、侵害作品と申立人の作品の類似点は何かを具体的に説明することが求められます。

  2. 送達の確実な実施: 送達プロセスの複雑さを理解し、確実に送達を完了させるための計画を立てることが重要です。必要に応じて、専門の送達業者を活用することも検討すべきでしょう。

  3. 証拠の効果的な提示: CCBの手続きでは、書面による証言が中心となります。限られたフォーマットの中で、著作権侵害の証拠を効果的に提示するための工夫が求められます。

  4. 和解交渉の活用: CCBの手続きは和解を促進する効果があるため、適切なタイミングで和解提案を行うことも戦略として考えられます。

これらのポイントを押さえつつ、CCBの特性を活かした効果的な代理を行うことが求められます。

決定の執行と回収

CCBの決定は連邦裁判所で執行可能ですが、実際の執行プロセスは複雑であり、多くの申立人が困難を感じています。特に、デフォルト(被申立人の不参加)による決定の場合、損害賠償の回収が課題となっています。

CASE Actでは、CCBの決定を執行するための弁護士費用や経費を回収できる規定がありますが、執行プロセス自体が弁護士の助けを必要とするため、小額の損害賠償の場合は費用対効果が見合わないという問題があります。

そのため、クライアントがCCBでの勝訴を得た場合、決定の執行と損害賠償の回収に関する現実的な見通しを提供し、必要に応じて執行専門の弁護士を紹介するなどのサポートを行うことが重要です。

今後のCCBの展望

CCBは運用開始から約3年が経過し、その課題と可能性が徐々に明らかになってきました。ここでは、考えられる制度改善と著作権管理情報(CMI)関連の請求の可能性について見ていきましょう。

考えられる制度改善

CCBの使いやすさを向上させるための潜在的な改善点としては、以下が考えられます。

  1. 申立フォームの改善: 現在の単純なテキストボックスではなく、著作権侵害の要素に沿った具体的な質問(例:「被申立人はどのようにあなたの作品にアクセスしましたか?」「あなたの作品と侵害作品の類似点は何ですか?」)を設けることで、申立人がより適切な情報を提供できるようにすることが考えられます。

  2. 技術的な改善: 著作権登録データベースとの連携や、無効な情報での申立を防止する仕組みの導入など、技術的な改善によって申立プロセスの効率化が図れる可能性があります。

  3. 教育リソースの拡充: CCBハンドブックの充実化や、特定のトピック(例:送達プロセス)に関する詳細なガイドの作成、ウェビナーの開催などを通じて、申立人と被申立人の両方に対する教育リソースを拡充することが考えられます。

  4. 手続きの簡素化: 標準的なCCB手続きでは3人のCCB審査官が審理を担当していますが、当事者から特別な要請がない限り1人の審査官が担当するように変更することで、手続きの迅速化が図れる可能性があります。

これらの改善が実現すれば、CCBの使いやすさと効率性が向上し、より多くの著作権紛争が効果的に解決される可能性があります。知財プロフェッショナルとしては、これらの制度改善の動向を注視し、クライアントに最新の情報を提供することが重要です。

著作権管理情報(CMI)関連の請求

現在、CCBが扱える請求は著作権侵害に限定されていますが、著作権管理情報(Copyright Management Information、CMI)の除去に関する請求(著作権法第1202条に基づく請求)をCCBの管轄に含めることが検討されています。

CCBの統計によれば、申立の38%が絵画、グラフィック、彫刻作品に関するものであり、これらの作品はオンライン上でCMIが除去されるケースが多いとされています。CMI関連の請求がCCBで扱えるようになれば、実際の損害が少ない場合でも、追加的な法定損害賠償を求めることができるようになる可能性があります。

また、CMI関連の請求が加わることで、被申立人がCCB手続きに参加するインセンティブが高まる可能性もあります。CMI除去の主張は、参加する被申立人が効果的に反論できる余地があるため、デフォルト(不参加)の問題の一部を解決できるかもしれません。

そのため、このような管轄拡大の可能性を視野に入れつつ、クライアントの著作権保護戦略を検討することが重要です。

まとめ

CCBは著作権紛争解決の新たな選択肢として重要な役割を果たしつつありますが、申立審査プロセスの複雑さ、送達の困難さ、デフォルト(不参加)の多さなど、いくつかの課題も抱えています。これらの課題に対処するための制度改善が検討されており、今後のCCBの発展が期待されています。

知財プロフェッショナルとしては、CCBの仕組みと限界を理解し、クライアントに最適な紛争解決戦略を提案することが求められます。具体的には、CCBと連邦裁判所の選択、CCBにおける効果的な代理、決定の執行と回収に関する現実的なアドバイスを提供することが重要です。

著作権局による現在の調査結果と今後の規制変更に注目しながら、この新しい制度の発展に適応していくことが、グローバルに事業を展開する日本企業をサポートする知財実務家にとって不可欠です。CCBは完璧な制度ではありませんが、適切に活用すれば、著作権紛争解決の効果的なツールとなる可能性を秘めています。

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