アメリカ初の著作権小額訴訟法廷誕生間近

米国著作権局は、米国初の著作権小額訴訟法廷である「Copyright Claims Board (CCB)」を作り、そのウェブサイトを開設しました。CCBが実際に稼働するのは今年夏の予定ですが、それに先駆けて関連する情報を公式サイトで提供しはじめました。

Copyright Claims Boardの公式ページ

今まで難しかった小さな侵害に対する有効手段として期待

CCBは、Copyright Alternative in Small-Claims Enforcement Act(略してCASE法)によって設立された損害賠償3万米ドルを上限にした少額の著作権侵害に関する紛争を取り扱うことができる場です。CCBは、あらゆるカテゴリーの著作物に関する著作権請求について当事者が自発的に解決を図ることができる裁判所に変わる代替フォーラムで、手続きが煩雑でコストもかかる一般的な著作権訴訟が難しかった比較的規模の小さい著作権侵害に対する効果的な対策手段として期待されています。

また、連邦裁判所における著作権侵害訴訟では、著作物の事前登録が必須となりますが、CCBで権利を主張する場合、事前登録は必要ありません。少なくとも登録の申請書を提出するだけでよく、CCBに申し立てを行う前か同時に作品の登録申請書を提出している必要があります。このように待ち時間が発生しないのはうれしいことですが、作品の登録申請書が拒絶された場合、CCBにおける主張は棄却されるので、気をつけてください。

費用もとても安く設定されていて、$40で手続きがはじめられます。(その後手続きが進んだり、手続きを優先してもらうと追加で費用が発生しますが、そのような費用も安価です。)

また、CCBでは一般的な著作権の侵害に関すること以外に、以下のような問題を取り扱うことができます:

  1. 著作権法上の排他的権利の侵害に対する請求(これが一般的な著作権侵害のクレーム)
  2. 排他的権利の非侵害宣言の請求(当事者が、その活動によって侵害責任を問われないことを法的に確認することを望む場合)
  3. デジタルミレニアム著作権法(DMCA)に基づくインターネット上のコンテンツの削除または復帰のための通知および反対通知のプロセスにおける不実表示に対する請求
  4. 元の請求の対象である同じ取引または事象に関連する反訴
  5. 契約が元の請求における請求者の権利に影響を与える場合、契約に関する反訴
  6. 著作権法に基づくすべての法的または衡平法上の抗弁、またはその他利用可能な抗弁

このように、非常に幅広い著作権問題について取り扱うことができるので権利者にとって(そして抗弁する被告側にとっても)、連邦裁判所ではない紛争解決の場をとしてとても重宝されることが期待されています。

当事者の同意が必須

このように一見良さそうに見えるCCBですが、利用に関しては問題もあります。

特に、気をつけないといけないのが、CCBによる手続きを行うためには、両当事者の参加の同意が必要となる点です。つまり、CCBで訴える相手がCCBでの手続きを行いたくない場合、Opt outという選択を取ることができます。

なぜこのような自主性が必要とされるかなのですが、それは憲法に由来しています。アメリカの憲法は連邦裁判所の役割を概説し、陪審裁判を受ける権利と適正手続を保証しています。CCBは連邦裁判所に代わる紛争解決の場を提供していますが、憲法で保証された権利を奪うものではないので、CCBにおける手続きを進めるには、両当事者が参加に同意しなければならないという条件がついてきます。

相手がCCBにおける手続きを拒否しても、著作権者は連邦裁判所での手続きを行えますが少額訴訟の場合、弁護士費用や手続きの煩雑性と時間を考えると、割りに合わないようなケースも出てくると思われます。

また、金額に関しても、連邦裁判所では、著作権訴訟における実際の損害と利益には上限がなく、法定損害賠償は侵害された著作物1つにつき15万ドルという高額になる場合があります。しかし、CCBに提起できる小規模の著作権請求は、損害賠償総額で3万ドル以上を求めることはできず、法定損害賠償は侵害された著作物1つにつき1万5千ドルに制限されています。この金額面での制限も注意する必要があります。

CCBの乱用の心配

CCBへの申し立てや対応に、弁護士は必要ありません。公式サイトによると、CCBの手続きは、法律的な訓練を受けていない当事者も含めて、明確で利用しやすいように設計されているとのことです。しかし、限定的ではあるもののDiscoveryも認められていたり、抗弁も可能なので、著作権や訴訟に関する知識があると有利であることは間違いなく、実際は弁護士を代理人に付けたり、そうでなくとも弁護士と相談して進めていくケースが大半だと思います。

このように意図的に著作権侵害に関する権利主張のハードルを低くしているため、安易に本来は権利侵害の実態がはっきりしていないものであっても大量に著作権侵害の主張をしてくる権利者がいるかもしれません。

しかし、訴えられた当事者はOpt outでき、また、事前にすべてのCCBにおける手続きにOpt outすることもできます。このような仕組みがあるので、乱用でCCBがパンクするようなことにはならないかもしれませんが、まだ実際に運用が始まってみないとどうなるかわからないのが現状だと思います。

サービス開始後の運営に期待

今年の夏から運営が始まるCCBですが、実際に意図されたような形で運営されていくのかとても楽しみです。うまく機能すれば実際の著作権侵害の大半を占める「小さな著作権侵害」に関する有効な解決手段の1つを提供するので、個人がコンテンツを作り出す今の時代のニーズにあったサービスになると期待しています。

参考記事:U.S. Copyright Office Launches New Copyright Claims Board Website

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