少額著作権問題を解決するCCBの1年目の成果はどうだったのか?

小規模の著作権紛争の解決オプションとして著作権請求委員会(CCB)ができて1年経ちました。申し立てのほとんどが審理に至らないケースだったため、CCBの貢献度や成果を総合的に評価するのは現時点では難しいですが、会社や組織の規模に限らず、少額の著作権問題の効果的な解決方法として今後もCCBが活用されていくことが期待されています。

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著作権関連の問題を連邦裁判所で解決するのは、費用と時間のかかるプロセスです。しかし、いままでは著作権訴訟の規模に関わらず、連邦裁判所が唯一の法廷でした。これが変わったのが1年前で、著作権請求委員会(Copyright Claims Board、以下「CCB」)が誕生し、小規模な著作権紛争において、合理的で費用対効果の高い代替手段を提供しています。今回は、CCBに関する過去のニュースを発展させ、設立1年目以降のCCBの有用性を探り、CCBが著作権訴訟当事者にとって適切なフォーラムとなり得る理由を説明します。

小規模の著作権問題を解決する役割を担うCCB

CCBは、議会が2020年12月にCopyright Alternative in Small-Claims Enforcement (CASE) Actを可決した後に創設されました。数年にわたるルール作りを経て、CCBは2022年6月に運用を開始しました。3人のメンバーで構成されるこの法廷の設立は、損害賠償額が30,000ドル以下の小規模な著作権侵害請求を解決するための、簡素化された利用しやすい法廷を提供することを目的としています。CASE法とCCBは、CCBがより低費用で、連邦裁判所の訴訟に代わる自発的な場であることから、原告・被告双方にとって、少額訴訟手続をより手頃で、効率的で、利用しやすいものにしようとするものです。

CCBが審査できるのは、著作権に関する3つの請求に限定されています

  • 侵害の申し立て
  • 特定の活動が他者の著作権を侵害していないことの宣言を求める請求
  • DMCA(デジタル・ミレニアム著作権法)通知における虚偽表示を主張する請求

その他の著作権に関する請求はすべて連邦裁判所に提起されなければなりません。さらに、被告は請求が提出されてから60日以内であれば、CCBでの訴訟手続きから脱退する機会があり、その場合、請求者は代わりに連邦裁判所で訴訟を行う必要があります。

Bloomberg LawとCopyright Allianceによると、2023年1月現在、CCBでは20件のオプトアウトしか報告されていないとのことです。オプトアウトは、著作権やその他の主張を含む反訴を起こしたい被告や、より強固な証拠開示を望む被告にとっては有利です。しかし、オプトアウトにはリスクも伴います。連邦裁判所では、損害賠償の上限が3万ドルに制限されなくなり、請求者が著作権以外の請求を行うことができる他、証拠開示がより複雑になり、より多くの手続き書類を提出しなければなりません。そのため、関係者全員にとって裁判がより長期化し、より高額になる可能性が高いです。

CCB元年: 審理に至らないケースがほとんどだった

2023年6月、CCBは設立1周年を迎えた。CCB発足初年度の請求件数は485件でした。CCBの原告は、国内だけでなく、国外のケースもあり、CCBが提供するオンライン・ビデオ会議による紛争実務をうまく利用されたとのことです。著作権局は、紛争に関する具体的なコスト削減データを公表していませんが、「CCB手続きに参加する請求者および被請求者は、自己を代理できること、申立手数料が安いこと、連邦裁判所よりもはるかに限定された証拠開示のおかげで、コストが低い」と考えられています。

CCBでは485件の訴訟が提起されましたが、ドケットシステムによれば、305件が請求が適切ではない(failure to state a claim)との理由で却下または終了しています。この報告書の時点で、本案に関する最終決定が下されたのは1件のみでした。: Oppenheimer v. Prutton事件で、1000ドルの法定損害賠償が認められました。CCBは、審理を進めるに足る十分な主張がない事件を却下することで効率性を担保していますが、実施に審理をおこなった場合に、どこまで効率的にケースをさばけるかはまだ案件が少ないため十分な検証はできていません。

事件の処理に加え、CCBはその手続きに付随する他の業績も宣伝しています。例えば、CCBは、著作権侵害と知的財産権について一般に啓蒙するための資料を数多く作成しています。これらの資料は、当事者が、どこで訴訟を起こすべきか、損害賠償の選択肢は何か、弁護士を雇うべきかどうかを判断するのに役立ちます。CCBはまた、特定の当事者への無料支援を合理化するため、プロボノ支援リストも管理しています。

CCBの利用を検討する3つの理由

手頃な料金

米国議会がCCBを創設した主な理由は、損害賠償に比して長引く訴訟費用を支払えない可能性のある、より広範な個人や企業に解決支援を提供することでした。著作権局によれば、著作権訴訟を全面的に解決するための平均費用は300,300ドルを超えるとの報告がなされています。CCBは主に、連邦訴訟を起こすのが難しい個人のクリエイター、中小企業、インディペンデント・アーティストを対象としていますが、少額訴訟を追求するあらゆる規模の原告にとってスマートな選択肢の1つになるでしょう。具体的な費用のデータはまだありませんが、CCBの訴訟手続が連邦裁判所の訴訟よりも大幅に低コストで行えるのは間違いありません。

効率性

CCBは請求を1年以内に解決することを目指しています。この目標は、CCBが最初の1年間でほぼ達成しました。この迅速なプロセスは、最終判決に至るまで何年もかかることが多い連邦裁判所での長引く訴訟とは異なる大きな魅力の1つです。また、CCBが下した決定は、連邦裁判所と同様、当事者を拘束します。ただし、CCBによる解決を選択した後、CCBの決定に従って連邦裁判所に同じ請求を提出することはできません。これまでのところ、CCBは棄却において効率性を示していますが、メリット・ベースの事件解決の効率性についてはまだ未知数です。

アクセシビリティ

CCBの手続きは完全にオンラインで行わます。CCBに参加する訴訟代理人は、ビデオ会議ソフトさえあれば、自分の意見を主張することができます。さらに、CCBは連邦裁判所の訴訟で標準的な、費用のかかる複雑な証拠や証拠開示の収集を避けることができます。そのため、CCBは、海外にいる訴訟当事者や、特定の裁判地まで足を運べない訴訟当事者にとって、素晴らしい選択肢です。

結論

Copyright Claims Board(CCB)は、少額の著作権侵害訴訟を解決するための、より利用しやすく効率的な手段を提供しています。手頃な価格、効率性、アクセシビリティ、および全体的な合理化されたプロセスという利点は、あらゆる規模の著作権所有者に有用な選択肢を提供します。発足から1年ではまだ検証できる点は少ないですが、今後もCCBの動きには注目していきたいところです。

参考記事:Reflections on the First Year of Operation of the Copyright Claims Board

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