RESTORE特許権法案: 米国の特許訴訟で差止命令の発令を容易にする可能性のある重要な法案

RESTORE特許権法案:アメリカの特許訴訟で差止命令が復活するかもしれない法案とその影響を徹底解説

1. はじめに:RESTORE特許権法案の概要

2024年7月30日、米国の知的財産法制に大きな影響を与える可能性のある新たな法案が上院に提出されました。この法案は、Realizing Engineering, Science, and Technology Opportunities by Restoring Exclusive (RESTORE) Patent Rights Act of 2024(以下、RESTORE特許権法案)と呼ばれています。

RESTORE特許権法案は、クリス・クーンズ上院議員(民主党-デラウェア州)とトム・コットン上院議員(共和党-アーカンサス州)が超党派で提案したもので、下院でも同様の法案が提出されています。この法案の主な目的は、特許権者の権利を強化し、米国のイノベーションを保護することにあります。

法案の核心は、特許侵害が認められた場合に裁判所が差止命令(permanent injunction)を発令するという推定を回復させることです。これは、2006年の最高裁判決eBay v. MercExchange事件(以下eBay事件)以降、特許侵害訴訟での差止命令の取得が困難になっていた状況を変えようとする試みです。

RESTORE特許権法案は、特許権者、特に大学や研究機関、スタートアップ企業にとって重要な意味を持つ可能性があります。しかし同時に、大手テクノロジー企業や特許非実施主体(Non-Practicing Entities、NPEs)からの訴訟リスクを懸念する声もあります。

この法案が成立すれば、米国の特許訴訟の風景が大きく変わる可能性があります。日本企業にとっても、米国での特許戦略の見直しが必要になるかもしれません。以下、本法案の背景、主要条項、潜在的影響、そして日本企業への示唆について詳しく見ていきましょう。

2. 背景:eBay v. MercExchange事件とその影響

RESTORE特許権法案の重要性を理解するためには、2006年のeBay事件とその影響について知る必要があります。そこで、以下では、eBay事件以前の状況、判決の具体的内容、そしてその後の特許権者への影響を詳しく見ていきます。この歴史的な流れを理解することで、RESTORE特許権法案が目指す「特許権の回復」の意義がより明確になるでしょう。

2.1. eBay事件以前の状況

eBay事件以前、米国の裁判所は特許侵害が認められた場合、ほぼ自動的に永久的差止命令(permanent injunction)を発令していました。この慣行は200年以上にわたって続いており、特許権者の排他的権利を強力に保護するものでした。

ジョージ・メイソン大学ロースクールのアダム・モソフ教授の研究によると、1790年から1880年の間、米国の裁判所は特許侵害が証明された事件の91%以上で永久的差止命令を発令していました。この時代、裁判所は衡平法上の四要素テスト(four-factor equities test)を適用せず、侵害があれば差止めが適切な救済手段であるという哲学に基づいて運用されていたのです。

この確立された実務は、特許権者に強力な交渉力を与え、ライセンス契約の締結を促進する効果がありました。侵害者は、差止命令により事業の継続が困難になる可能性を考慮せざるを得なかったからです。

2.2. eBay事件の内容と四要素テスト

しかし、2006年のeBay事件で、米国最高裁判所はこの長年の慣行を覆しました。最高裁は、特許侵害訴訟における永久的差止命令の発令に関して、他の衡平法(equity in law)上の救済と同様の基準を適用すべきだと判断したのです。

具体的には、裁判所は以下の四要素を考慮して差止命令の発令を決定すべきとされました:

  1. 原告が回復不能の損害を被っていること (The plaintiff has suffered irreparable injury.)
  2. 金銭的損害賠償など、法律上の救済手段では不十分であること (Remedies available at law, such as monetary damages, are inadequate to compensate for that injury.)
  3. 原告と被告の困難の比較衡量の結果、衡平法上の救済が正当化されること (Considering the balance of hardships between the plaintiff and defendant, a remedy in equity is warranted.)
  4. 永久的差止命令により公益が害されないこと (The public interest would not be disserved by a permanent injunction.)

この四要素テストの導入により、特許侵害が認められても自動的に差止命令が発令されるわけではなくなりました。裁判所は各事案の具体的状況を考慮し、差止命令の発令が適切かどうかを判断することが求められるようになったのです。

2.3. eBay事件後の特許権者への影響

eBay事件以降、特許侵害訴訟における永久的差止命令の発令は著しく減少しました。Marcumの最近の特許訴訟に関する報告書によると、eBay事件直後の2008年から2012年の間に80件の差止命令が認められたのに対し、2018年から2022年の間ではわずか36件に留まっています。

さらに深刻な影響を受けたのが、大学や研究機関などの特許ライセンサーです。これらの特許非実施主体(NPEs)に対する救済措置の割合は、2013年から2022年の間でわずか23%に留まり、差止命令はたった12件しか認められていません。

この変化は、特許権者の交渉力を大幅に弱め、「効率的侵害(efficient infringement)」と呼ばれる現象を引き起こしました。大企業にとっては、特許技術を正当にライセンスするよりも、侵害し続けて訴訟で争う方が経済的に有利になる場合が増えたのです。

このような状況を受け、RESTORE特許権法案は、eBay事件以前の状況に近い形で特許権者の権利を回復させることを目指しています。次のセクションでは、この法案の具体的な内容と、それが米国の特許制度にもたらす可能性のある変化について詳しく見ていきましょう。

3. RESTORE特許権法案の主要条項

eBay事件がもたらした変化を受け、RESTORE特許権法案は特許権者の地位を強化することを目指しています。この法案の核心は、特許侵害訴訟における差止命令の取り扱いを根本的に変えようとするものです。以下、法案の主要な条項について詳しく見ていきましょう。

3.1. 差止命令の推定規定

RESTORE特許権法案の中心的な規定は、特許法第283条を改正し、特許侵害が認められた場合の永久的差止命令(permanent injunction)に関する新たな推定規定を導入することです。具体的には、以下のような内容となっています:

“If, in a case under this title, the court enters a final judgment finding infringement of a right secured by patent, the patent owner shall be entitled to a rebuttable presumption that the court should grant a permanent injunction with respect to that infringing conduct.” (本法に基づく事件において、裁判所が特許によって保護された権利の侵害を認める最終判決を下した場合、特許権者は、裁判所がその侵害行為に関して永久的差止命令を認めるべきであるという反証可能な推定を受ける権利を有する。)

この規定の重要性は以下の点にあります:

  1. 反証可能な推定の導入: この規定により、特許侵害が認められた場合、原則として差止命令が発令されることになります。これはeBay事件以前の状況に近い形での運用を目指すものです。
  2. 立証責任の転換: 従来は特許権者が差止命令の必要性を立証する必要がありましたが、本法案では被告(侵害者)側が差止命令を認めるべきでない理由を示す必要があります。
  3. 特許権の排他性の強化: この規定は、特許権の本質的な性質である排他性をより強く保護することを意図しています。

3.2. 適用範囲と例外

RESTORE特許権法案は、すべての特許侵害事件に一律に適用されるわけではありません。法案には以下のような適用範囲と例外が含まれています:

  1. 最終判決後の適用: 推定規定は、裁判所が特許侵害を認める最終判決を下した後に適用されます。つまり、暫定的な判断や中間判決の段階では適用されません。
  2. 反証の余地: 「反証可能な」推定(rebuttable presumption)であるため、被告には差止命令を避ける機会が残されています。ただし、その立証のハードルは高くなると予想されます。
  3. 公益への配慮: 法案は公益を完全に無視するものではありません。裁判所には依然として、差止命令が公益に反する場合にはこれを拒否する裁量が残されています。
  4. 非実施主体への影響: 大学や研究機関などの非実施主体(NPEs)にも同様に適用されるため、これらの組織の権利行使能力が大幅に強化される可能性があります。

RESTORE特許権法案は、特許権者の権利を強化する一方で、特許制度のバランスを保つための配慮も含んでいます。しかし、この法案が成立した場合、米国の特許訴訟実務は大きく変わる可能性があります。次のセクションでは、この法案が与える可能性のある影響について詳しく見ていきましょう。

4. 法案が与える潜在的影響

RESTORE特許権法案が成立した場合、米国の特許制度と関連するビジネス慣行に広範な影響を与える可能性があります。以下、様々な側面からその潜在的影響を詳しく見ていきましょう。

4.1. 特許権者への影響

本法案は、特許権者の地位を大幅に強化することが予想されます。特に以下のような影響が考えられます:

  1. 権利行使の容易化: 差止命令の推定規定により、特許権者は侵害者に対してより強力な法的手段を得ることになります。これにより、特許権の本質である排他的権利がより確実に保護されることになるでしょう。
  2. NPEsの地位向上: 大学や研究機関などの特許非実施主体(NPEs)にとっては、特に大きな意味を持ちます。eBay事件以降、NPEsが差止命令を獲得することは極めて困難でしたが、この状況が一変する可能性があります。
  3. 特許の価値上昇: 差止命令の可能性が高まることで、特許そのものの市場価値が上昇する可能性があります。これは、特許取引市場やライセンス市場に大きな影響を与えるでしょう。

4.2. 特許侵害訴訟への影響

特許侵害訴訟の様相も大きく変わる可能性があります:

  1. 訴訟戦略の変化: 被告側は、差止命令を避けるための新たな戦略を練る必要が出てきます。単に損害賠償で済むという前提が崩れるため、より慎重な対応が求められるでしょう。
  2. 和解の増加: 差止命令のリスクが高まることで、訴訟の早い段階での和解が増える可能性があります。企業にとっては、事業継続のリスクを避けるため、より積極的に和解を検討することになるかもしれません。
  3. 訴訟件数の変化: 特許権者にとって有利な状況が生まれるため、短期的には特許侵害訴訟の件数が増加する可能性があります。しかし長期的には、企業がより慎重に他社の特許を扱うようになるため、逆に減少する可能性もあります。

4.3. ライセンス交渉への影響

ライセンス交渉の力学も大きく変わることが予想されます:

  1. 交渉力の変化: 特許権者の交渉力が大幅に強化されることになります。差止命令の脅威が現実味を帯びることで、ライセンシーはより真剣にライセンス条件を検討せざるを得なくなるでしょう。
  2. ライセンス料の上昇: 特許権者の交渉力強化に伴い、ライセンス料が全体的に上昇する可能性があります。特に、重要な技術分野や標準必須特許(Standard Essential Patents、SEPs)については、その傾向が顕著になるかもしれません。
  3. クロスライセンスの再評価: 大企業間のクロスライセンス戦略にも影響を与える可能性があります。自社の特許ポートフォリオの価値が変化することで、既存のクロスライセンス契約の見直しが必要になるかもしれません。

4.4. イノベーションと研究開発への影響

最後に、この法案がイノベーションと研究開発に与える影響について考えてみましょう:

  1. R&D投資の増加: 特許の価値上昇に伴い、企業や投資家がR&D活動により多くの資金を投じる可能性があります。特に、人工知能(AI)、量子コンピューティング、6G技術などの先端分野での投資が活発化するかもしれません。
  2. オープンイノベーションへの影響: 一方で、特許権の強化は、オープンイノベーションの流れに逆行する可能性もあります。企業間の技術共有や協力が難しくなる場面も出てくるかもしれません。
  3. スタートアップへの影響: スタートアップ企業にとっては、自社の特許がより強力な武器となる一方で、既存の特許に抵触するリスクも高まります。これは、新規参入の障壁となる可能性があります。
  4. 特許の質への注目: 差止命令の影響力が増すことで、特許の質がより重視されるようになるでしょう。無効化のリスクが高い弱い特許よりも、強力で信頼性の高い特許の取得に企業はより注力するようになるかもしれません。

RESTORE特許権法案は、特許制度の根幹に関わる変更を提案しています。その影響は、特許権者や企業だけでなく、イノベーションのエコシステム全体に及ぶ可能性があります。次のセクションでは、この法案に対する賛否両論を詳しく見ていきましょう。

5. 法案に対する賛否両論

RESTORE特許権法案は、米国の特許制度に大きな変革をもたらす可能性があるため、さまざまな立場から賛否両論が展開されています。ここでは、法案支持者の主張と批判的な意見を詳しく見ていきましょう。

5.1. 支持者の主張

法案支持者は、主に以下のような論点を展開しています:

  1. 特許権の本質の回復: 本法案を提出したクーンズ上院議員は、「特許発明の製造と使用を他者から排除する権利は、我々の特許制度の基本的な基盤です」と述べています。支持者たちは、この法案が特許権の本来あるべき姿を取り戻すものだと主張しています。
  2. イノベーションの促進: 同様に共同提案者のコットン上院議員も、「この超党派の法案は、アメリカの技術革新における優位性を強化するのに役立つでしょう」と述べています。特許権の強化が、より多くの研究開発投資を促し、結果としてイノベーションを加速させるという見方です。
  3. 特許侵害の抑制: Innovation Allianceのブライアン・ポンパー事務局長は、「大手テクノロジー企業などの大企業による捕食的侵害(predatory infringement)を阻止する」と述べています。これは、技術を合法的にライセンスするよりも安価に特許発明を無断で使用する慣行を指しています。
  4. NPEsの権利保護: 大学技術管理者協会(Association of University Technology Managers)のスティーブン・J・サザルカCEOは、「本法案は、特許権者が自身の発明を適切に保護する十分な機会を与えるものです」と評価しています。これは特に、大学や研究機関などのNPEsにとって重要な点です。
  5. 国際競争力の強化: 米国イノベーション推進評議会(Council for Innovation Promotion)の共同議長であるデビッド・カポスは、「本法案は、発明者が自らの画期的なアイデアを実世界の製品に変える基本的権利を保護するものです」と述すています。これは、米国の技術的優位性を国際的に維持する上で重要だと考えられています。

5.2. 批判的な意見

一方で、法案に対する懸念や批判も存在します:

  1. 特許権者の過度な優位: ミネソタ大学ロースクールのトム・コッター教授は、この法案が特許権者に過度のレバレッジを与え、潜在的な侵害者からライセンスを引き出す力を与えすぎる可能性があると指摘しています。
  2. 技術革新の阻害: 批判者たちは、強力な差止命令の脅威が、特に複数の特許が関係する複雑な製品の開発を萎縮させる可能性を懸念しています。これは、スマートフォンやコンピュータなどの複雑な技術製品に特に当てはまります。
  3. パテントトロールの活性化: NPEsの中には、実際に製品を製造せず、特許訴訟やライセンス料の徴収のみを目的とする「パテントトロール」と呼ばれる存在があります。法案によってこうした実体のない特許権行使が活発化する懸念があります。
  4. 中小企業への影響: 大企業に比べてリソースの少ない中小企業にとっては、差止命令のリスクが事業継続の大きな脅威となる可能性があります。これが、新規参入や技術革新を阻害する要因になるという指摘もあります。
  5. 司法の裁量権の制限: eBay事件の判決は、個々の事案の事情に応じて裁判所が柔軟に判断できるようにしたものです。この法案により、そうした司法の裁量権が制限されることへの懸念も表明されています。
  6. 特許の質への影響: 差止命令の取得が容易になることで、質の低い特許の価値が不当に高まる可能性があります。これが特許制度全体の信頼性を損なう可能性を指摘する声もあります。

RESTORE特許権法案をめぐる議論は、特許制度の本質的な役割と、現代の複雑な技術環境におけるその適用のバランスをどう取るかという難しい問題を提起しています。法案の行方は、こうした賛否両論の綱引きの中で決まっていくことになるでしょう。次のセクションでは、この法案が日本企業に与える潜在的な影響について考察します。

6. 日本企業への影響と対策

RESTORE特許権法案は、米国の特許制度に大きな変革をもたらす可能性がありますが、その影響は米国内にとどまりません。グローバルに事業を展開する日本企業にとっても、この法案は無視できない重要性を持っています。ここでは、日本企業への具体的な影響と、それに対する対策について考察します。

6.1. 米国でのビジネス展開への影響

  1. 特許侵害リスクの増大: 日本企業が米国市場で事業を展開する際、他社の特許を侵害するリスクがこれまで以上に高まる可能性があります。差止命令が容易に発令されるようになれば、製品の販売停止や事業の中断といった深刻な事態に直面する可能性が高くなります。
  2. ライセンス交渉の力学の変化: 米国企業との特許ライセンス交渉において、日本企業の立場が弱くなる可能性があります。差止命令の脅威が現実味を帯びることで、より高額なライセンス料を要求されるケースが増えるかもしれません。
  3. NPEsからの訴訟リスク: 大学や研究機関、いわゆる「パテントトロール」などのNPEsからの特許訴訟リスクが高まる可能性があります。これらの組織は、差止命令を武器に、より積極的な権利行使を行う可能性があります。
  4. 研究開発拠点の戦略的配置: 米国での特許取得や権利行使が重要性を増すことで、研究開発拠点の一部を米国に移転または新設する必要性が高まる可能性があります。これは、先願主義(first-inventor-to-file)制度下での迅速な特許出願を可能にするためです。
  5. M&A戦略への影響: 米国企業の買収や合併を検討する際、対象企業の特許ポートフォリオの価値がより重要な判断基準となる可能性があります。強力な特許を持つ企業の価値が上昇する可能性があるためです。

6.2. 特許戦略の見直しの必要性

  1. 防御的特許取得の強化: 自社製品や技術を守るための「防御的特許」の取得をより積極的に行う必要があるでしょう。これは、他社からの特許攻勢に対する交渉材料としても重要です。
  2. 米国特許の質の向上: 差止命令の影響力が増すことで、無効化されにくい質の高い特許の取得がより重要になります。特許明細書の作成や、クレーム戦略において、より慎重かつ戦略的なアプローチが求められるでしょう。
  3. 特許ポートフォリオの戦略的構築: 単に特許の数を増やすのではなく、事業にとって本当に重要な特許を見極め、それらを中心とした戦略的な特許ポートフォリオの構築が必要になります。これには、不要な特許の整理も含まれます。
  4. クロスライセンス戦略の再評価: 大手企業間のクロスライセンス契約について、その条件や範囲を再評価する必要が出てくるかもしれません。特許の価値が変化することで、既存の契約が自社にとって不利になる可能性があるためです。
  5. 特許監視体制の強化: 他社の特許動向をより注意深く監視し、潜在的な侵害リスクを早期に特定する体制を強化する必要があります。これには、AIや機械学習を活用した特許分析ツールの導入も検討に値するでしょう。
  6. 米国特許弁護士との連携強化: 米国の特許法や判例の動向をより深く理解し、適切な対応を取るために、信頼できる米国特許弁護士との連携を強化することが重要です。
  7. オープンイノベーション戦略の再考: 特許権の強化により、オープンイノベーションの取り組みに影響が出る可能性があります。共同研究開発や技術提携の際の知的財産権の取り扱いについて、より慎重な検討が必要になるでしょう。

RESTORE特許権法案の成立如何にかかわらず、米国の特許制度は常に変化しています。日本企業は、これらの変化に柔軟に対応できる体制を整えることが重要です。特許戦略は、単なる法務部門の問題ではなく、経営戦略の重要な一部として位置づけ、継続的に見直しと改善を行っていく必要があるでしょう。

7. 今後の展望と課題

RESTORE特許権法案は、米国の特許制度に大きな変革をもたらす可能性を秘めていますが、その行方はまだ不透明です。ここでは、本法案を取り巻く今後の展望と、それに伴う課題について考察します。

法案成立の可能性

RESTORE特許権法案は超党派で提案されており、これは法案成立の可能性を高める要因の一つです。しかし、2024年が大統領選挙の年であることを考えると、法案の審議や可決のタイミングが難しくなる可能性もあります。政治的な駆け引きや、他の優先度の高い法案との兼ね合いで、本法案の扱いが左右される可能性があります。

司法の対応

仮に法案が可決された場合、その解釈と適用は最終的に裁判所に委ねられることになります。特に、連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)や最高裁判所が、どのようにこの新法を解釈し、適用していくかが注目されます。eBay事件の判決を覆す形になるため、裁判所がどのようにバランスを取るかが重要なポイントになるでしょう。

産業界の反応

大手テクノロジー企業を中心に、この法案に対する反対の声が強まる可能性があります。特に、複数の特許が絡む複雑な製品を扱う企業にとっては、事業リスクが高まることへの懸念が大きいでしょう。一方で、製薬業界や大学など、研究開発型の組織からは支持を得られる可能性が高いです。

国際的な影響

米国の特許制度の変更は、グローバルな知的財産戦略にも影響を与えます。他国、特に欧州や日本、中国などの主要国が、同様の法改正を検討する可能性もあります。これにより、国際的な特許訴訟の様相が変わる可能性があります。

技術革新への影響

差止命令の発令が容易になることで、企業の研究開発戦略にも変化が生じる可能性があります。特許回避のための研究開発が増える一方で、重要な技術分野でのイノベーションが阻害されるリスクもあります。このバランスをどう取るかが、今後の大きな課題となるでしょう。

パテントトロール問題

NPEsの活動が活発化する可能性があり、いわゆる「パテントトロール」問題が再燃する恐れがあります。これに対して、どのような対策を講じるかが課題となります。例えば、悪意のある特許訴訟に対する制裁措置の強化などが検討される可能性があります。

特許の質の問題

差止命令の影響力が増すことで、特許の質がより重要になります。米国特許庁(USPTO)は、特許審査の質を高めるための取り組みを強化する必要があるでしょう。同時に、無効審判制度の在り方も再検討される可能性があります。

AI・機械学習技術への適用

急速に進歩するAIや機械学習技術に、この新しい法律をどのように適用するかも大きな課題です。これらの技術は多数の特許を含む複雑なシステムであることが多く、差止命令の影響が予測困難な場合があります。

中小企業・スタートアップへの配慮

差止命令のリスクが高まることで、中小企業やスタートアップの事業展開が阻害される可能性があります。イノベーションを促進するためには、これらの企業にも配慮した制度設計や運用が必要になるでしょう。

RESTORE特許権法案は、米国の特許制度に大きな変革をもたらす可能性を秘めています。しかし、その影響は複雑で多岐にわたるため、法案の成立後も、様々な課題に直面することが予想されます。特許権者の権利保護と、イノベーションの促進のバランスをどう取るか。この難しい課題に対する解答を見出すプロセスは、今後も続いていくことでしょう。

8. まとめ

RESTORE特許権法案は、米国の特許制度に根本的な変革をもたらす可能性を秘めた重要な法案です。eBay事件以降、特許権者の権利行使が困難になっていた状況を改善し、特許の排他的権利を強化することを目指しています。しかし、この法案は特許権者と潜在的侵害者、大企業とスタートアップ、イノベーションの促進と既存権利の保護など、様々な利害関係のバランスに大きな影響を与える可能性があります。日本企業を含む国際的な企業にとっても、米国での特許戦略の見直しが必要になるかもしれません。法案の行方とその影響は不透明な部分も多いですが、特許制度の根幹に関わる重要な議論を引き起こしていることは間違いありません。今後の展開を注視し、適切な対応を準備することが、知的財産に関わるすべての関係者にとって重要となるでしょう。

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