2019年7月10日、STRONGER Patents Act of 2019が再提出されました。STRONGER Patents Actは特許侵害製品の差止の強化など特許の保護をより強める法案になっています。この法案は2015年、2017年と過去にも提案されていて、今回で3回目になります。
注目すべき点は差止
今回提出されたSTRONGER Patents Act of 2019には数多くの特許保護を強める法案が明記されていますが、中でも注目すべき点は差止(Injunction)です。
本提案では、特許が有効で、かつ、侵害が認められれば、侵害品の差止が仮定されることが明記されています。つまり、特許権者が訴訟で勝てば、デフォルトで差止が認められる可能性が非常に高くなります。
ebay判決後は差止が困難に
既存の特許法でも差止による救済措置はありますが、2006年の最高裁によるebay判決により、その適用ケースは大きく減少しました。
法案はebay判決を凌駕する
ebay判決では4つのファクターによるバランスを総合して差止をするべきか否かを判断します。しかし、今回の法案では、その内の(もっとも重要な)2つのファクター((1) further infringement of the patent would cause irreparable injury; and (2) remedies available at law are inadequate to compensate for that injury)に関して、有効な特許の侵害が認められれば、その条件を満たしていると仮定することを明記しています。
(b) INJUNCTION — Upon a finding by a court of infringement of a patent not proven invalid or unenforceable, the court shall presume that— (1) further infringement of the patent would cause irreparable injury; and (2) remedies available at law are inadequate to compensate for that injury.
the STRONGER Patents Act of 2019 で提案された35 U.S.C. 283(b)
つまり、ebay判決でもっとも重要と思われている2つの点が特許侵害の確定と同時に示されるので、提案された35 U.S.C. 283(b)が採用されれば、ebay判決は判例としての効果がなくなり、ほぼデフォルトで差止が認められるようになることが予想されます。
個人的な感想
特許法の改正には様々な利権が絡むので法案がそのまま法律になることはありませんし、時間がかかる問題です。今回のSTRONGER Patents Actも3回目の提出でどこまで議会で議論されるかは未知数です。ざっくり言うとアメリカで大きな業界である製薬会社はプロパテントで、ソフトウェア会社はアンチパテントです。アメリカでは企業が議会に影響を与えるロビー活動が活発なので、このような簡略化した業界の立場から見ても、特許法の改正には多くの時間がかかり、変えるのは大変な構造になっています。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Gene Quinn. IPWatchdog.com(元記事を見る)