従業員の離職率はだんだん高くなってきて、アメリカでは従業員がコロコロ変わるところも珍しくはありません。そのような流動的な人材に対する注意点は多々ありますが、その中でも知財は見逃しやすいですが、重要な問題です。そこで、ここでは、知財を守るために、退社する従業員にするべき6つのポイントを紹介していきたいと思います。
- 明確な雇用契約(employment agreement)と会社の方針(corporate policies)を作る
知財を守る上で一番簡単で効果的な対策は、雇用契約にその従業員が関わるであろう知財に関する規約を盛り込むことです。すべての従業員に対して、知財の会社への帰属は項目に入っているべきですが、その項目の文言も「保護できうる資産が生まれたときに、自動的に会社に帰属(移行)される」など、帰属するタイミング(知財が生まれてすぐ)と、帰属の方法(自動的に)を明確にするとさらにいいです。さらに、雇用契約には、守秘義務(confidentiality )や機密保持に関する規約(non-disclosure provisions)が含まれるべきです。
更に、(特に技術系の)雇用契約では、従業員が雇われる前にすでに本人が持っている知財を明確に示すことをおすすめします。これは、雇用契約が行われる前、会社のリソースを使って開発が行われなかったもの、雇用契約の範囲から外れるものがこのような知財に含まれます。このように、雇用の前と後の知的財産を明確にし、雇用前にすでに本人が持っている知財を明確にすることで、例えば従業員の前雇用主による企業秘密の窃盗(theft of trade secrets)が問題になったときなどに役に立ちます。
従業員の手引書(Employee handbooks)や書面化された会社の方針は、場合によっては、雇用主と従業員の間の契約上の約束として解釈される場合があります。このような書類がある場合、従業員がやめた際にどのような権利が従業員にあり(もしあれば)、どのような権利が会社に帰属するのかを明確にすることをおすすめします。さらに、従業員の手引書と会社の方針が適用される州法を満たす必要があります。州によっては、会社と関係ない知財は、会社の資産が使われてないで開発された場合、発明者本人にその知財の権利があると明確に示している州もあるので、そのような州の法律が適用される場合、上記のような内容の発明は、会社へ帰属する知財の例外として明記することをおすすめします。
最後に、場合によっては、従業員が会社を去った場合でも、継続して知財の開発や権利行使に協力してもらう“cooperation” clausesがあるといいです。具体的には、特許出願時の宣言文(declaration)や、技術コンサル、権利行使の際に発明者として宣誓証言(deposition )をすることなどがあると思われます。
- 退社面接を行う(exit interview)
退社のタイミングや去る従業員によっては難しい場合もありますが、退社面接は、退社する従業員に退社後の守秘義務の継続などを再認識させる場としてとても有効です。特に、会社の重要な知財にアクセスできていた従業員の場合、この退社面接を行うことは重要です。
そのほかにも、退社面接では、以下のことを確認するといいでしょう:
会社が支給したコンピュータ、記録媒体、その他、電子機器を返却すること。
会社の機密文章や慎重に取り扱われるべき情報すべてが会社に戻された、または、破棄されたというという文章に同意してもらい、署名をもらう。
退社後の会社と元従業員の権利と責任を明確に文章化し、両者がその文章を確認し、合意する。
特に、退社する従業員が会社の書類を探す場合、個人のEメールアカウント、個人のパソコン、個人の記憶媒体、個人のデータ保存場所(Dropboxなどのクラウドサービスも含め)を含めることをおすすめします。
- 知財教育を行い、記録を取る(再教育も)
会社それぞれ社員に対する必須教育があると思いますが、そこにどのように機密社内情報を扱うかについての教育を追加することをおすすめします。
書類を機密( “confidential”)にする場合、他の機密書類と同様に機密( “confidential”)マークが記載されて、同じように扱われていると効果的です。更に、情報が公開になったときに、機密のマークを取り除くことも重要です。さらに、継続的に、機密保護に関するトレーニングを行い、再教育もして、その記録をとっておくことで、企業秘密の窃盗が問題になったときに、自社の機密管理の徹底さをアピールする証拠の1つにもなります。
- 会社の企業機密登録帳の維持
企業秘密の窃盗が問題になる際、多くの場合で、何が企業機密に当たるのかが問題になります。この問題を解決する1つの手段が、会社の企業機密登録帳(corporate trade secret registry)を作り、維持することです。登録帳は、企業機密(ソースコード、ハードウェアデザイン、プロトタイプ、顧客リストなど)を特定し、その機密に関連する情報を含みます。
登録帳に乗っている情報が企業機密か否かの最終的な判断は、裁判所、または、陪審員によって行われますが、登録帳に乗っている情報は、従業員にどのような情報が会社として機密に値するかを認識させるツールとしても使うことができます。また、このような台帳は、誰が各機密情報にアクセスでき、いつどこで誰がアクセスしたか、などのアクセス管理やアクセスログなどの機能を持つこともできます。
- 機密情報に対する電子的、物理的アクセスを制限する
多くの会社において、機密情報に対するアクセスは制限されていて、“need to know” basisでアクセスできる人が特定されています。情報のアクセス制限が意図的ではない公開を未然に防ぎます。
例えば、ソースコードなどの重要なデータに関しては、物理的に独立したサーバーにのみ保管しておくことや、ネットワークや外部記憶装置に接続されていない単体のコンピュータに保存しておくなどの措置も考えられます。また、情報が重要であればあるほど、セキュリティレベルを上げていき、例えば、特定の重要機密情報には、暗号化を義務付けたり、アクセスするには複数の認証が求められるという措置も有効です。しかし、その他の機密情報には、セキュリティレベルを下げ、メインのサーバーで保管したり、パスワード等における比較的簡単なセキュリティを行うなどの個別対応をするといいでしょう。
- 実行する
会社の知財の強さは、それを守る会社の方針がどれだけ徹底されているかによって決まります。契約や方針が明記されていても、実際に実行されていない場合、機密情報が公開されてしまう場合が多いです。企業は知財部や法務部に知的財産に関する契約や方針の実行と管理を徹底するように指示すべきです。それには、上記のような、契約、退社面接、企業機密登録帳も含みます。
さらに、知財・法務部は、問題視するべき従業員がいる場合、人事部と連携し、対策を取るべきです。問題が解決されない場合は、特に詳しい記録を取りましょう。訴訟になったときに、有効な証拠の1つになりえます。
今回紹介した6つのポイントは、すべてではありませんが、情報の機密を守っていくには有効な方法です。しかし、どれぐらいの保護やセキュリティレベルが必要かは、業種、場所、情報のタイプ等によって異なります。実際に会社で今回紹介したポイントを実施する場合は、適用される州法や連邦法に詳しい知的財産に関わっている弁護士等に相談することをおすすめします。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者: Association of Corporate Counsel (ACC)
http://www.acc.com/docket/articles/secure-company-most-valuable-assets-from-employees.cfm