2019年Legal Trends Reportのレビュー

アメリカの司法業界全体のトレンドを示したレポートを読んだので、そのハイライトをレポートします。このレポートの面白いところが、ビジネス面に注目しているところで、事務所の成長やクライアントが求めているものなどをデータをベースに分析しています。

なぜこのレポートのレビューをしたか

日本でも(知財を含む)司法業界同じようなトレンドだと思ったので、レポートで強調されている点を取り入れたり、改善したりすることで、今の事務所経営をよくすることができるのではないかと思いました。

実感がわかないトレンドであっても、アメリカのトレンドは数年遅れで日本に来ることがよくあるので、今のうちに先行投資をすることで、業界のトレンドを先取りできる可能性もあると思います。

レビュー方法

今回紹介するレポートは、Clioが発行しているLegal Trends Reportです。レポート自体は、このページにいって、必要事項を記入すると読めるようになります。

ちなみに、Clioは司法業界でクラウドベースの技術を取り扱っている企業です。具体的には、事務所の運営を支えるバックエンドのツールや顧客管理、業務管理のツールやサービスを提供しています。

今回は、このレポートのハイライトに個人的なコメントを加えてレビューしていきます。レポートは図やポイントが明確に示されているので、とても読みやすいです。英語が苦手でも理解できるようになっているので、是非レポートを見てみてください。

Legal Trends Reportのレビュー

多くの法律事務所は収入を増やしたいと考えている。その一方で、クライアントサイドは抱えている法律問題を助けてくれる弁護士を探すのに苦労している。

これはどの国でも同じだと思います。弁護士(弁理士も含めて)はマーケティングや経営に優れている分けではないので、効果的な方法で新規クライアントを見つけることができていません。そのため、収入を増やしたいが、新規の仕事がなくて増やせないという問題があります。

その一方で、法律問題を抱えている個人や企業はどの弁護士に相談したらいいのかがわからない。判断材料にしたい情報も不足しているので、効率的に信頼できる弁護士が見つからないで困っている。

このように需要と供給が一見マッチしているように見えますが、その間には大きなギャップが存在しているのが現在のアメリカの司法業界の現状といったところでしょう。

成長している事務所は毎年20%から30%成長している

このレポートでは毎年の収入の変化に応じてGrowing firms, Stable firms, Shrinking firmsというように3つに分けています。収入を毎年伸ばしている事務所は年20%から30%という驚異的な数字で収入を伸ばしています。しかし、Stable firmsはほぼ横ばい。悲惨なことに、Shrinking firmsの収入の落ち込みは54%にも及びます。

レポートを見る限り、どれくらいの数の事務所がそれぞれのカテゴリーに入っているのかわからないので、それぞれのカテゴリーのサンプルサイズが十分なのかわかりませんが、それでも成長している事務所の収入の伸びが毎年20%から30%というのは驚異的です。

成長している事務所は弁護士も多いがその割合は低い

成長している事務所は当然仕事量やクライアントも増えているので、仕事をこなす弁護士の数も増えるのですが、その増加率は抑えられています。

データでは、成長している事務所では122%の収入の増加、57%のクライアントの増加、57%の仕事量の増加があるにもかかわらず、弁護士の増加率はたったの32%です。つまり、仕事が増えても、それを効率よくこなすので、弁護士を雇いすぎなくていいという傾向があるのだと思います。

これは予測ですが、成長している事務所は効率よく仕事をこなしていく仕組みやツールが導入できているところなのだと思います。

弁護士は1日の2.5時間しか働かない?

レポートのメトリックの1つにUtilizationという項目があります。Utilizationは以下のように定義されています。

Utilization is a measure of how many hours a lawyer puts toward billable work on a given day.

このレポートによると、Utilizationの平均は31%。つまり、1日8時間労働だと仮定するならば、弁護士は1日の2.5時間しかクライアントに請求できる仕事をしていないということになります。

これは一見少ないように見えますが、Clioのツールから得られたデータをベースに分析したらしく、客観的な数字なのかもしれません。でも、私の知り合いの弁護士は長時間働いているので、このデータが実際のプラクティスとマッチするかはちょっと疑問です。

その一方、1日2.5時間というのはクライアントに請求できる仕事をした時間(billable hours)で、様々なランクや業種の弁護士の平均値だということを考慮しないといけないと思います。例えば、アソシエイトレベルの弁護士は実際の案件に関わる実務を任されるので、彼らのbillable hoursは多いです。逆に、パートナーレベルの弁護士は事務所経営やクライアントデベロップメントなど請求できない仕事に多く時間を取られてしまいます。そのようなことを考えると、billable hours の平均が1日2.5時間というのも理解できない範囲ではないのかもしれません。

実際に請求し、支払ってもらうことも大切

当然ですが、仕事をしても、実際にクライアントに請求し、支払ってもらわないと事務所の収入につながりません。Growing firmsや Stable firmsの請求率(Realization)や回収率(Collection)は90%以上ですが Shrinking firmsの数字は悪く請求率が77%や回収率が81%と大きく下回っています。

経営を改善するには、収入を改善しないといけないので、縮小しているにもかかわらずすでにおこなった仕事をクライアントに請求できなかったり、請求しても支払いが滞ってしまったりするとさらに経営が悪化します。このようなデータから、そのようなネガティブなサイクルを断ち切らない限り、弁護士事務所の経営難は改善しないと考えられます。

ちなみに、オンライン決算を導入するだけで、回収率は確実に改善します。導入費用や手数料を心配する人も多いですが、支払いをなるべく簡単に(できれば、自動化)することは収入を安定させるという面でもとても大切なことです。

弁護士の時間費用は関係ない

単純に考えて弁護士の時間あたりの料金(hourly rates)をあげれば収入が改善しそうですが、実際のデータを見る限り、そうではないとのことです。

実際、時間費用を上げても雇ってくれる人が少なくなったり、業務にかかる時間を減らさないといけなくなったりすることで収入に影響を与えないのだと思います。

弁護士紹介とリサーチは半々

次にクライアントがどう弁護士を探すかについてですが、これは紹介してもらうというのが59%で、自分で探すというのが57%でした(両方するという人が16%)。

弁護士のような仕事は、昔から口コミや評判が大事な仕事なので、紹介が多くの割合を占めるのは納得です。しかし、クライアントが自分で探すという割合も年々増えてきています。

自分で探す場合、弁護士のウェブサイトの情報を見たり、オンラインサーチエンジンで検索したりするのが一般的な方法なので、オンライン上の存在感が今後ますます重要になってきます。

有能な弁護士でも、Googleなどで検索したときに何も情報が得られなかったり、事務所のサイトの情報が古かったり、ネガティブな情報が散乱していると、新規クライアントも敬遠してしまうので、まさにオンライン上の存在感は事務所の経営に直接関わる大きな問題の1つです。

クライアントは情報が欲しい

クライアントとしては、信頼できる弁護士を見つけるために「情報」を探します。特に、弁護士の経験や資格情報(やランキング)を重視します。また、取り扱うケースやどのように問題を解決するのか、コストの見積もりなども重要なファクターになります。

複数の弁護士にコンタクトする

クライアントが弁護士を選ぶ際は、複数の弁護士に連絡をとることが一般的なようです。しかし、最初にあった弁護士がクライアントのニーズに対応できれば、そこで案件をお願いすることも多いようです。

また、ニーズで大切な点は、返答が早いことと、クライアントにわかりやすく説明すること。正直、これが徹底できていればクライアントの満足度がかなり上がると思います。それでも、レポートを見るとそんな基本的なことができていない事務所が多すぎます。

難しいことをしなくても基本に忠実にしていれば、経営も安定するのに。。。と思う今日この頃です。

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