知財の基本を発明者や経営者にプレゼンする際のお手本になるセミナー

知財でもウェビナーで情報発信をするところが増えてきました。しかし、そのほとんどが英語ベースで時間も1時間程度と参加するにもハードルが高いと思う知財関係者も多いのではないでしょうか?そこで、私が実際にウェビナーを受け、そこからなんだことを皆さんとシェアーすることを考えました。

試験的な試みなのでまだどうなるかわかりませんが、みなさんの理解とご協力をお願いします。フィードバックがありましたら、ウェブサイトの問い合わせかコメント欄から連絡をいただけると助かります。たとえば、気になるウェビナーがあれば教えてください。

今回は、今年の2月に行われた「Championing Your Ideas with Coordinated IP Strategies」という発明者、スタートアップ経営者向けに行われたウェビナーをレビューしてみました。

今回取り上げたウェビナーは、この掲載サイトからアクセスできます。(一覧になっているので、ウェビナーのタイトル“Championing Your Ideas with Coordinated IP Strategies”をページ内で見つけてください。PDF版のスライドリンク録画版ウェビナーリンク(YouTube)

ウェビナーから学んだこと

知財の基本を発明者や経営者にプレゼンする際のお手本になるセミナーでした。特に気に入った点が、各ポイントを説明する際に実際の判例を用いたところです。説明するポイントが実際に訴訟になったときにどうなったかを示すことで、データを元にした説明ができるので、説得力が増すプレゼンになっていました。

また、対象グループが化学系なので、判例も化学や医薬品に関わるものが主に使われていました。対象となるオーディエンスの関心がある分野から例を取り上げることによって、知財というドライなテーマですが、興味がわくように仕上がっていたと思います。

別の使い方としては、リサーチの出発点として紹介されている判例を使うことです。プレゼンでは、アメリカの知財の基本的なポイントのほぼすべての点において判例や例を示していたので、自分が例題を集める際の起点として活用するリファレンスマニュアルのような使い方もできると思います。

あと学べる点は、スライドのデザインやレイアウトです。対象が知財をあまり知らない人を対象としているので、イメージ重視で、文字は最小限にしていたスライドが多かったです。日本のスライドは文字が羅列されていてイメージや画像が少ないものが多いので、特許テーマを話すときに使えるイメージやスライドのレイアウトを考えるときにいいリファレンスになると思います。余談ですが、今回のようにスライド一面に画像を表示する場合、高画質のイメージでないと見栄えが格段に下がるので、このようなスタイルのスライドを作成する場合は、ちゃんと有料の画像販売サイトで(商業用にも使える)画像を購入することをお勧めします。

しかし、必ずしもテーマである戦略について詳しくは語られていなかったので、そこが少し残念でした。時間の制約もあったと思いますが、実際に似たようなセミナーをするなら、特許に絞り説明するとか、時間に余裕を持たして、もう少し判例を深く見ていったり、教訓を説明したりしながら、そこから戦略につなげるならこうした方がいいという流れに持って行った方がいいのかなと思いました。

ウェビナーの概要

GC3というグリーン製品をプロモートしている団体向けに行った知財セミナーです。GC3は大手企業からスタートアップまで参加している幅広いメンバーを抱えている団体のようです。

講師はFinnegan, Henderson, Farabow, Garrett & Dunner, LLP(略してFinnegan)の弁護士でした。Finneganは、アメリカの知的財産業界では有名な特許法律事務所の1つで、アメリカの拠点はもちろん、ロンドンやソウル、上海、台北、東京にもオフィスを持っているグローバルな特許法律事務所です。

ウェビナーは発明者向けで、知的財産をよく知らない人向けのウェビナーです。トピックとしては、特許、トレードシークレット、商標、コピーライトというメジャーな知財権4つをカバーしています。しかし、ウェビナーでは半分以上の時間を特許の説明に費やしていました。

ウェビナーの流れ

ここからは実際のウェビナーを時系列で追って、気になったところにコメントを付け加えて話していきます。

スタートアップがIPポートフォリオを持つ重要性:自社の為、他社けん制、投資家を集める、バリュエーション、ライセンス収入

知財プロフェッショナルには当たり前のことですが、スライドのデザインがシンプルですね。知財をあまり知らない人を対象にするプレゼンではこのようなシンプルなスライドの方がインパクトがあるのかもしれません。

クレームスコープ:例:クロリンを含んだ物質のバリエーション

物質を対象にした(Apparatus claims)でも様々なバリエーションが可能だということをシンプルに示しています。化学系のオーディエンス向けなので、例が化学物質なのもいいですね。次のページでは、物質だけでなく、使用、作成などもクレームで保護できることを説明しています。

クレームの文言は大切

実際の判例を使ってクレーム文言(alkaline salt)の大切さを強調していました。ここではクレームの文言が限定的だったので、侵害を証明できなかった例を紹介。実際にクレームに使用する用語がいかに大切かを説明するにはやはり判例を使うのが一番効果的ですね。

数百億かかる特許訴訟を起こしても、結局クレームの用語や文言の解釈で侵害が証明できないとなった時のリスクや責任を考えてもらえるだけでも、発明者の特許に対する意識は変わると思います。

また、次のスライドで、侵害を証明しやすいように用語をもっと一般的で範囲が広い意味の用語にすればいいのでは?という自然に出てくる疑問に答える形で特許の条件となる特許適格性、enablementなどの35 U.S.C. 112条件、新規性・進歩性の話題に話しを進めています。とても自然な流れです。

特許適格性の問題

この問題もクレーム文言と同じように素人に説明するのは難しいですね。でも、講師はわかりやすく最高裁のMyriad判決を簡潔に説明していました。女優のAngelina Jolieがこの診断を受け、乳がんになるリスクが高かったので手術を受けた経緯を紹介したのも、この無機質に思える問題を身近に思える要素だったと思います。

Described, Enabled, Definite条件

特許を理解する上で重要なコンセプトを1つ1つ説明する際の判例がとてもわかりやすい。112条件は事実によって大きく変わるトピックで説明が難しいと思っていましたが、紹介されていた判例とその説明がとてもよかったので、素人でもコンセプトを理解できる形になっていたと思います。

In re ’318 Patent Litigation, 583 F.3d 1317 (Fed. Cir. 2009): 空想の可能性を語るだけでは、条件を満たさない。”a therapeutically effective amount of galanthamine” というクレームがあったが、明細書は1ページしかなく、上記の量について詳しい開示がされていなかったので、特許が無効に。

Eli Lilly & Co. v. Teva Parenteral Medicines, Inc., 845 F.3d 1357 (Fed. Cir. 2017) : 複数の意味がある文言の使用に注意。“vitamin B12”の意味。特定の物質に限定される意味と、デリバティブも含むグループを指す意味の2つがある。訴訟ではエキスパートの証言などで、特定の物質に限定される意味で解釈されるべきとして、クレームの有効性は保たれたが、チャレンジされることはあるので、クレームを作成する際、複数の意味がある文言が使われていないか慎重に確認する必要がある。

新規性(Novel

新規性に関しては、盲点になりやすいInherent Anticipation、On-sale bar、Previous disclosureについても判例を用いて説明。

Inherent Anticipation: 先行例文献に明確に開示されてはいないが、本質的に開示されていること。

例:Claritinという有名なアレルギー用の薬に関する判例。特許になった薬を体内で消費すると知られている物質になるので、その物質はClaritin という薬をInherent Anticipationするものだとして、特許が無効に、

On-sale bar: 実際のセールだけでなく、Offer for saleも対象に。判例:Offer for saleが特許出願の1年以上前に行われた。そのため、特許が無効に。

Previous disclosure: プレゼンテーションや会議、第三者との会話で出願前のアイデアを開示しないこと。

判例:第三者にNDAなどの守秘義務を課さずに出願の1年以上前に特許になるアイデアを開示。後に訴訟になり、特許が無効に。

Not Obvious(進歩性)

化学関連の特許に携わることがほとんど無い私でも理解できるレベルで進歩性の話題に触れていました。

化学の世界では、Lead compound analysisという手段で進歩性を判断されることが多いとのこと。判例:物質が似ているだけではObviousnessを証明することは難しい。似ている物質を選ぶ理由も強う。また、物質を変える理由も必要。あと、Reasonable expectation of successも必要。

Objective Indicia: Obviousnessを覆すObjective indicia。Objective indiciaはクレームの範囲や文言に直接関連するもの(Nexusが示せるもの)でなければいけないので、範囲が広いクレームより、狭い定義の文言が使われているクレームにより有効。

特許戦略

以下の様々な点を考慮して自社に適切な特許戦略を作り、実行していく必要がある。

  • 発明者から発明のアイデアを得る
  • 発明者は発明の大きさや用途をすべて把握していない場合がほとんど
  • 出願のタイミングも重要
  • 知財は会社の価値にリンク
  • 出願前の開示は気をつける
  • 特許マーキング
  • ライセンス、訴訟を見越した他社のモニタリング

マーキングや特許の資産価値、ライセンスやモニタリングには特に触れていなかったので、ここでいきなり登場して少し違和感を持ちました。時間の制約上説明できなかったのかもしれませんが、このような点が「戦略」をテーマにしたプレゼンなのにそこ点があまり語られてないと感じた点です。

Trade secrets

トレードシークレットの例を紹介。思っているよりも幅広いことがらがトレードシークレットになり得る。

特許との違いを説明。トレードシークレットとして扱うための条件も説明。

トレードシークレットの搾取は、従業員の転職の際に起こる場合が多い。転職の際のトレードシークレットとされるデータの持ち出しが問題になるケースが多い。

例:刑事案件。懲役あり。賠償金も支払う。

Reverse Engineering

Chicago Lock Co. v. Fanberg, 676 F.2d 400 (9th Cir. 1982)。市販されているカギを分析することはReverse Engineeringであり、合法的にTrade secretを解析したので、搾取ではないという判例が紹介された。

特許保護かトレードシークレット保護か

適切な保護を選ぶのに考慮するべきポイントを紹介

トレードシークレット戦略

どのように「秘密」を守るか

Copyrights (コピーライト)

American Geophysical Union v. Texaco Inc., 60 F.3d 913 (2d Cir. 1994)。論文や雑誌、本の一部をコピーして配布するのはコピーライト違反の可能性がある。Fair useはディフェンスとして使えるが問題となるケースの事実に依存するので判断が難しい。

Authors Guild v. Google, Inc., 804 F.3d 202 (2d Cir. 2015) 。Google booksもコピーライト違反に問われたが、Fair useが認められた。

登録の必要は無いが、訴訟を起こす場合や一般にコピーライトで保護されていること示すには登録する必要がある。更に、コピーライトは持っているだけではダメで、侵害をモニターし、権利行使の必要があれば、迅速に権利行使をする必要がある。

商標(トレードマーク)

判例を用いて、似た名前の仕様を禁止することもできることを説明。

BlurringやTarnishingを防ぐ為に訴訟も起こせる。

強い商標も正しい使用や啓蒙活動、他社や世間の監視を怠ると一般化していまい、商標による保護を失ってしまう。(例:アスピリン、エレベーター、ヨーヨー、ジッパーなどは商標だったが、その保護を失ってしまった。)

商標に合わせて、デザインパテントを活用するのもあり。

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野口 剛史

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