前回のブログアイデアでも簡単に紹介したEmailニュースレターの知財プロフェッショナルとしての活用方法に注目します。ニュースレターもブログと同様、文字ベースの専門的な情報を発信するのに適しているので、弁理士のような専門性が必要な業種と相性がいいメディア媒体です。しかし、なぜか知財系のブログではEmailニュースレターを発行しているところをあまり見かけません。
今回は、Emailニュースレターの利点だけでなく、よくある問題点も考慮して今からでも始められるEmailニュースレター活動を紹介していきます。
Emailニュースレターの特徴:
Who(誰がやる?): 事務所を経営している弁理士さん、そこで働いている弁理士さん、情報配信したい知財関係者だれでも。
What(何をする?): 自分の業務に特化した専門情報の定期的な配信。ここでのキーワードは「特化した専門情報」と「定期的」です。詳しくは後ほど。
Where(どこで?): Emailです。Email marketing softwareを使うと簡単にニュースレターが送れるようになります。
When(いつはじめるか?): 今でしょう。ブログのようにサイトを構築する手間もないので、簡単に始められます。しかし、続けていくにはコツがあると思います。
How(どうやって?): Email marketing softwareを使えばニュースレターを送るのは簡単ですが、このような専門ニュースレターは、コンテンツが命です。どうやって日頃話題にするネタを集めるのかが重要なポイントになってきます。
Why(そもそもなんでやるの?): SNSとスマホが普及して個人が簡単に情報発信できるようになった今、自分で情報配信していない人は淘汰されていく世の中になったからです。
ニュースレターの定義とブログとの違い
話を進める前に、Emailニュースレターの定義をしたいと思います。ここで言うEmailニュースレターは、知財系のコンテンツを定期的に購読してもらっている読者に配信することです。自分の業務に特化した専門情報の定期的な配信という点では、前回紹介した知財専門ブログと似ています。そもそも、コンテンツに対するアプローチは、ブログとほぼ同じです。なので、ニュースレターとブログには重複する点がたくさんあります。そのため、ブログとニュースレターは非常に相性がいいし、片方をやるなら、両方やった方がいいです。実際にOLCでもアメリカ知財に特化したブログもやっているし、ニュースレターも毎週送っています。
しかし、ブログとニュースレターには異なる点もあります。大きな点としては、ブログはOpenですが、ニュースレターはClosedです。ブログのコンテンツは、ネットにアクセスできれば誰でも見ることができます。不特定の人に見てもらえるので、検索に引っかかりやすくするようなキーワードを積極的に盛り込んだり、SNS経由で記事の宣伝や紹介なんかも簡単にできます。しかし、ニュースレターは特定の登録してあるメールアドレスにコンテンツを送るものなので、第三者は内容がわかりません。なので、ブログでは言えないとっておきの情報をニュースレターで特定の人に配信するということもできます。
もう1つは、内容と頻度です。ブログでは、1000文字から1500文字ぐらいの記事を頻繁にアップすることが大事ですが、ニュースレターでは月一で専門的なレポートのようなものを書いてもいいし、逆に日刊で時事的なニュースを紹介することもできるので、コンテンツの内容や頻度も自由度が高いです。
さて、簡単にブログとニュースレターの違いを説明したところで、ニュースレターの目標を話します。
ニュースレターの目標:
ニュースレターをやる理由はただ1つ。ニュースレターを受け取ってくれる相手に自分のことを覚えていてもらうことです。
どんなビジネスでもそうだと思いますが、助けが必要な時に思いつく人が仕事の依頼を受けるます。どんなに頭がよくても、どんなに仕事ができる人でも、何か問題があったときにその人のことを思い出せなければ仕事を依頼することはできません。
私も社内弁護士として働いている中、様々な案件を外注する立場にいますが、そんなときに思いつく弁護士はほんの数人です。思いつく人のほとんどは前からよく仕事を依頼している人ですが、たまに特殊な案件で新しい人を探さないといけないことがあります。しかし、1回名刺交換した人ぐらいだとどんな人かも覚えていないので、面識があって、その人にぴったりの仕事でも、結局は他の人に依頼してしまうということが多々あります。
しかし、もしその人がニュースレターで情報発信していてくれたら、面識もあるので、その人の少なくとも依頼相談はしていたかもしれません。
これは、既存のクライアントでも同じです。一回仕事をしたからと言って、同じような仕事が常に自分のところに来るわけではありません。既存のクライアントにも、見込み客にも、問題があったときに「この問題はこの人に相談しよう」と思い出してもらわないといけないのです。そのために、ニュースレターは役に立ちます。
ニュースレターの利点:
ビジネスマンが必ず毎日チェックするものと言えばメールですよね。そう、メールは毎日チェックされるもっとも頻繁に使われているメディアなのです。そこに自分のニュースレターがあれば、少なくともタイトルは見てもらえますよね。
ブログはネットで検索したり、リンクをクリックしたりしないと見れないので、意識している人でないと読んで盛られませんが、メールは自動的に相手のメールボックスに届けられるので、メールをチェックする際に勝手に見てくれます。この受動的な情報の摂取がニュースレターの最大の魅力だと思います。
また、定期的にニュースレターを送ることで、継続的なタッチポイントを作ることができます。ニュースレターが四半期に1回だと忘れた頃にやってくるのであまり効果はありませんが、週1や隔週、月1など定期的に送ることができれば、厚かましくない形で自分をアピールできるので、必然的に自分のことを覚えていてもらえることができるのです。
特に、読んでもらっている人に役に立つコンテンツを提供しているのであれば、ニュースレターの内容もチェックしてもらえ、そうしてもらうことで、自分という存在を間接的にアピールできます。ニュースレターを実際にクリックしてコンテンツを読んでもらっているかは、Email marketing softwareを使っていればすぐにわかります。Open Rateというところを見ると送ったメールの何パーセントが既読されたかがわかります。あるデータによると法律系のニュースレターのOpen rateは20%台ですが、OLCのニュースレターのOpen rateは40%弱です。やはりターゲットを絞って特化した話題を提供しているので、その分より多くの人に役立つコンテンツを提供できているのだと思います。
次に、読者の話をします。皆さんは名刺交換をした後のフォローアップはどうしてますか?会議やカンファレンスで会って名刺交換しても、その後のメールでの挨拶で終わりということはないでしょうか?私もこれまでたくさんの弁理士さんや弁護士さんに会ってきましたが、継続して何らかのつながりを持っている人はわずかです。
しかし、もしこの名刺交換のときにニュースレターの話題を話したらどうでしょう?相手が知財に携わっている人だったらそのような話題も自然だし、違和感なく自分の存在感を示すことができます。そこでの会話でニュースレターの購読に了解を得られれば、メールボックスを通じてその人に継続して自分をアピールすることができます。特にカンファレンスなどではたくさんの人に会って、結局誰に会ったか覚えていないという事態にもなりかねないので、そんな中でも自分のことを覚えてもらうためには、ニュースレターがとても貴重なツールになります。
このような活動を通じて、ブログを紹介した時も話した自分ブランドを確立していくのです。
課題:
ニュースレターを始めるためのツールはEmail marketing softwareぐらいなので、簡単に始められますが、継続していくには課題もあります。一番大きな課題はコンテンツです。
これは、ブログを紹介した時に話した話題と同じなので、細かいことは話しませんが、簡単に言うと、自分の業務に特化した専門情報を定期的に配信する必要があります。ニュースレターはブログに比べて内容や頻度に自由度がありますが、それでもある程度テーマとフォーマット、配信頻度を決めて地道におこなうことが必要です。
自分のスタイルを見つけるには試行錯誤が必要ですので、ニュースレターを始めるときは信頼できる「身内」への配信から初めて、なれてきたら他のクライアントや見込み客にも送るようにするといいと思います。
ただ注意点として、ニュースレターを送る前に、事前に送る相手に許可を取るようにしてください。急に送られてくると迷惑メール扱いされてしまう可能性があるので、気をつけてください。
コストやリソースについて:
ニュースレターは普段使っているメールサービス(GmailやOutlookなど)で始めてもいいのですが、送り先が大量になると管理が大変になるので、Email marketing toolを導入することをおすすめします。私は、アメリカのConvertKitやActiveCampaignなどを使っていますが、日本国内のサービスでも同様のものが簡単に見つかると思います。費用も最初は月3000円程度だと思います。
さて、ニュースレターにおける一番のコストは、ブログ同様、「時間」です。コンテンツが重要なので、ネタ集め、読み込み、書き出し、編集などを継続しておこなうには時間がかかります。なれるまでにも時間がかかるので、最初は小規模のメーリングリストから始めて試行錯誤するのがいいと思います。
ビジネスの展開方法やpivoting (事業変更)の可能性:
最後にニュースレターをどうしていくかについて話します。ニュースレターが軌道に乗ってきたら、ニュースレター以外にも展開しましょう。
これは前回紹介したブログと同様で、ウェビナーやオフ会の勉強会を開いてもいいし、ニュースレターの記事をベースにブログを開設してもいいですね。
また、現状のニュースレターが負担になる場合、ニュースレター作成を外注したり、頻度を落としたりすることもありだと思います。時間がないときは、ニュースレターでOLCの記事を紹介してもらってもかまわないし、アメリカ知財のニュースレターでしたら、一緒に協力することもできます。コンテンツを作るのは時間がかかる作業なので、時間がとれないときは諦めないで、いちど私に相談してください。
まとめ:
助けが必要な時に自分の名前を思い出してくれる人は何人いますか?どんなに自分が優秀でも、相手が自分のことを覚えてなければ仕事の依頼はきません。でも、やたらセールスコールをしたり、広告を打っても知財系のビジネスには逆効果です。そこで、ニュースレターの出番です。ニュースレターを使えば、厚かましくない形で自分をアピールできます。ニュースレターは定期的に相手のメールボックスに届くので、必然的に自分のことを覚えていてもらえることができるのです。
たとえあなたがどんなに頭がよくても、どんなに仕事ができる人でも、何か問題があったときにあなたのことをクライアントや見込み客が思い出さないと、仕事を依頼されることはありません。人は忘れやすい生き物です。忘れられないためにEmailニュースレターを送りましょう。