高齢化社会になってくる日本において、定年を過ぎた人材の活用は重要課題の1つです。しかし、「働く」ということが先行しすぎて、定年までは「部長」クラスで活躍していた人が、作業員クラスの重要度の仕事をしていることも珍しくはありません。そこで、そんな人材に「遊んで役に立ってもらえる」方法を考えてみました。
定年を迎えた「副部長」が行くところ
大企業の知財部部長で定年を迎えたなら、会社の「役員」になれたり、引き抜かれてどこかの組織の知財センター長になったり、それなりにセカンドキャリアを形成することができると思いますが、問題は「副部長」以下のいわゆる定年までに「トップ」になれなかった人たちです。
現役時代はそれなりに仕事ができ、大きな案件も担当してきたのに、年齢を重ねるごとに昇進の速度が鈍化して部長になる機会がなく定年を迎える人って結構多いのではないかと思っています。トップではないけど、それ相応の経験や難しい判断を会社のためにしてきた人は、定年後どこに行くのでしょうか?
私の知っている限り、大企業の知財部で定年を迎えた人は、勤め先が自前の特許調査・翻訳会社を持っていたり、専属のサポート会社と提携していたりするので、そのような知財関連業務を提供している子会社(や提携企業)で、今までとは比べ物にならないくらい少ない給与で働くということがあるそうです。また、そのような人材の受け皿的な機関もあって、例えば、工業所有権協力センターは定年付近の出向者を受け入れています。
しかし、せっかく「定年前」までは責任を取って大きな仕事をしていて、今まで様々な経験をしてきたのに、「定年後」は時間がかかるけどあまり付加価値のつけられない仕事をやっている姿を見てもどかしい思いを感じます。このような定年後の人材マーケットは、通常の雇用労働の枠ではどうしても無理があるようになりません。
「定年」後にバリバリにキャリアを進めたいという人は稀だし、雇う側にとっても「定年」後の人材が「5年後」、「10年後」の会社に貢献するとは考えていないでしょう。なので、長期の雇用関係を想定したマーケットでできることには限りがあります。
定年後に必要なのは「尊敬」では?
このように、多くの人にとって「定年後」の仕事の質は大きく違っていて、それに戸惑ったり、仕事をドライに受け止めて「作業するだけマン」になっていったりするのではないでしょうか?
定年後も労働による収入が必要なら、それは割り切って必要な生活費を稼ぐために働く人もいると思います。しかし、定年後に働く大部分の人は「働ける」から働くのだと考えています。この「働ける」ということには、「お金」という対価を得るということも含まれますが、それ以上に、「定年前」に「役職」や「企業名」によって得られていた名声や尊敬なんかを「定年後」の「労働」で求めているのではないでしょうか?
「尊敬」が得られるゲームを遊んでもらえばいい
そこでその「尊敬」の欲求を満たすために、「知財部経営」ゲームみたいなスマホゲームを作って、定年後の知財関係者に遊んでもらうのはどうでしょうか?特に社内の知財部の「役職」の場合、戦略が重要になってくるので、実務よりも戦略部分に特化したゲームがいいかなーと思っています。
ベースは戦略ゲームですが、やり方は色々あって、AIと戦わせる1人で完結するピュアーな戦略ゲームでもいいし、育成ゲームでもいいし、モノポリーみたいに対戦で資産を争う形にしてもいいと思います。ユーザーのニーズにあった形のゲームを提供できればいいわけで、戦略ゲームという柔軟なジャンルなだけにいろんなゲームの形にはめることができます。
知財戦略というニッチなゲームでも、スマホで無料でダウンロードできるゲームなら、「仕事」から開放された定年後の知財プロフェッショナルさんたちにも、現役時代を思い出してもらいながら遊んでもらえるのではないでしょうか?
マネタイズ
最後に「遊んで役に立ってもらえる」人材活用の話をしているので、このスマホゲームをどう「役に立てるか」について話します。それは、簡単に言うと「データ」です。
このスマホゲームはどんな形であれ、擬似的に知財経営戦略を行ってもらいます。いままでは、知財経営の情報や知財戦略の情報は企業が持っているので、なかなか外には出てきませんでした。外に出ているものも、企業が情報を制限し、管理されたものしか出ていません。
しかし、ゲームのユーザーデータとしてだったら、簡単に情報がとれます。もちろん、個人を特定するような形でデータは収集・分析できないし、ゲームなので、実際の知財経営とは異なるようなプレーもするでしょう。でも、いままで、外に出なかった情報に似たデータが得られるようになると、そのデータを使って面白いことができるのではないでしょうか?
あとは、ユーザーさんに「実験体」になってもらうことによるマネタイズもできます。例えば、最近のコロナ禍で起業したオンラインで知財教育コンテンツを提供する会社があるとしましょう。そのような会社が売上を上げるには、当然、知財部の「部長」クラスの人を説得できないといけません。でも、スタートアップで1人企業のような会社にとって、ぶつけ本番でいきなり企業の部長クラスの人と商談をするのは大変です。
そこで、ゲーム内の1イベントとして、コロナ禍での知財教育の問題を提示して、オンラインで知財教育コンテンツを導入するか・見送るかの決断をしてもらうのはどうでしょうか?そのときに、実際にそのサービスを提供している会社の営業をゲーム内で見せて、実際のユーザーの反応を見てみます。そこで得られたゲーム内の情報を参考に、実際に会社が行っている営業の改善点を見つけるという仕組みです。
このように、実際のサービスを一般向けに売り出す前にゲーム内のユーザーからフィードバックを得ることで、よりよいクオリティーのサービスをリリースできるような仕組みを構築できれば、知財向けのサービスを展開している企業からの収入が見込めます。
3つ目に考えられるのは、ユーザーによる「課金」です。課金にもいろいろな方法がありますが、ゲーム内の「知財部経営」をする上で必要な知識に関する情報を有償提供するのがどうでしょうか?例えば、ゲーム内で「業務効率」を上げるためにAIを導入することになったとします。でも、ユーザーが「AI」について知識がなかったら適切な判断ができません。ユーザー自身がウェブや本などで調べてもらうのは構わないのですが、時間がかかったり、「めんどくさい」と感じるユーザーもいると思うので、ボタン1つでAIについて理解できるようなコンテンツをゲーム内で有償で提供したら、ある一定のニーズがあるのではと思っています。
部長クラスの人はわからないことがあったら、こっそり本屋さんに行って、本を買って勉強していると私は勝手に想像しているので、1つのテーマに1000円ぐらいまでだったらゲーム内で課金しても売れるのでは?と思っています。
TLCの紹介
ちなみに、このアイデアのベースになっている話題は、OLCを更に進化させた全く新しいコミュニティ型のプラットフォームTakumi Legal Communityで最初に取り上げました。
TLCはアメリカの知財最新情報やトレンドはもちろん、現地で日々実務に携わる弁護士やパテントエージェントの生の声が聞け、気軽にコミュニケーションが取れる今までにない新しい会員制コミュニティです。
現在第二期メンバー募集中です。詳細は以下の特設サイトに書かれているので、よかったら一度見てみて下さい。