最新のCAFC判決に関する徹底解説。Packet Intelligence LLC v. NetScout Systems, Inc.事件。PTABによる特許無効審決が地裁訴訟に与える影響や、特許訴訟の最終確定に至るまでの重要な判断基準について詳述。特許権者と被疑侵害者にとって必見の戦略的考察。特許訴訟が進展するかを理解、特許戦略を最適化。

特許訴訟はいつ確定するのか:並行する特許無効審決のタイミングとその影響

米連邦巡回控訴裁判所(以下「CAFC」)は、Packet Intelligence LLC v. NetScout Systems, Inc.事件において、全ての特許クレームが無効であると判断される並行審理を考慮し、特許侵害がすでに認められていた連邦地裁が出した修正判決を破棄し、差し戻しました。本判決は、特許訴訟の確定性(finality)に関する判断基準を明確に示し、特許無効審決が地裁で係属中の特許訴訟にどのように影響を与えるかを再確認するものです。以下では、本件の経緯と争点、そしてCAFCの判断について詳細に検討していきます。

CAFCから地裁に差し戻された裁判の審議中にPTABですべてのクレームが無効に

2020年の地裁による当初判決

2020年、東部テキサス地区連邦地方裁判所は、ベンチトライアルと陪審審理を経て、NetScout社が、Packet社の’725特許のクレーム10と17、’751特許のクレーム1と5、’789特許のクレーム19と20を故意に侵害したこと、これらのクレームが35 U.S.C. §§ 101, 102(a), 102(f)に基づく特許無効・不特許事由に該当しないこと、を認定しました。

また地裁は、Packet社に対し、(a) 350万ドルの訴訟前損害賠償、(b) 225万ドルの訴訟後損害賠償、(c) 280万ドルの増額損害賠償、(d) 将来の侵害に対する1.55%の継続的ロイヤリティの支払いを認める判決を下しました。

第1回CAFC控訴審(Packet I, 2020年)

この地裁の判決を不服としてNetScoutはCAFCに控訴しました。その結果、2020年、CAFCは、「地裁の訴訟前損害賠償の認定を覆し、それに伴う増額分を破棄する」と判示する一方、「その他の点については地裁の判断を維持する」との判決を下しました(Packet I判決)。

具体的には、CAFCは、訴訟前損害賠償350万ドルの認定を取り消し、それに関連する増額損害賠償も破棄しました。そして、2020年10月23日、CAFCは事件を地裁に差し戻しました。

差戻し中のIPR(inter partes review)手続でのPTAB(特許審判部)の判断(2021年)

この差戻し中の2021年、USPTOのPTABは、第三者であるJuniper Networks, Inc.とPalo Alto Networks, Inc.が申し立てたIPRにおいて、本件の全ての係争クレームが自明性を理由に無効であるとの最終決定を下しました。

このPTABの決定を不服としたPacket社はCAFCに控訴した。これらの控訴審は、本件の控訴審と同じ裁判官パネルに割り当てられました。

地裁による差戻し後の修正判決(2022年5月)

PTABの最終決定後、NetScout社は地裁に対し、Packet社の特許侵害訴訟を却下するか、少なくともPacket社のPTAB決定に対する控訴が決着するまで地裁訴訟を停止するよう求める申立てを行いました。しかし、Packet社はこれに反対。当時、両当事者は、Packet I判決で差し戻された増額損害賠償と継続的ロイヤリティの争点について審理を進めていました。

2022年5月4日、地裁は、NetScout社の却下・停止申立てを退け、修正判決を下しました。修正判決では、訴訟前損害賠償をすべて除外しましたが、訴訟後損害賠償225万ドルを維持しました。

また、増額損害賠償を280万ドルから約110万ドルに減額。これは、従前の損害賠償総額(訴訟前350万ドル+訴訟後225万ドル=575万ドル)から新たな損害賠償総額(訴訟後225万ドルのみ)への減少率と同程度の減額でした。

さらに、継続的ロイヤリティ率を1.55%から1.355%に引き下げ、修正判決日(2022年5月4日)より適用するとしました。これにより、NetScout社は、修正判決後の侵害に対し、1.16%への減額を求めていたが退けられ、他方でPacket社の1.55%維持の主張も退けられました。

特許訴訟は「判決の執行以外に裁判所に何もすべきことを残さない」場合、終了する

このような複雑な訴訟経緯を経て、NetScout社は、CAFCに対し、PTABの特許無効審決が確定した場合、本件訴訟の係争クレームは特許無効となるため、Packet社は特許侵害に基づく損害賠償請求権を喪失すると主張しました。NetScout社は、CAFCが過去に下した同様の判断を複数引用し、地裁の特許侵害判決を破棄するよう求めました。

CAFCの判断理由

CAFCは、Fresenius USA v. Baxter Int’l事件(Fresenius II)の判断枠組みが本件に最も参考になると指摘しました。Fresenius II判決では、特許侵害訴訟の判決が「訴訟を完全に終了させ、判決の執行以外に裁判所に何もすべきことを残さない」場合にのみ、後の特許無効審決の影響を受けないとされました。

CAFCは、Packet I判決がこの基準を満たさず、単なる判決の執行以外の追加的な手続を地裁に求めていたと判断しました。具体的には、訴訟前損害賠償の除外と、それに伴う増額損害賠償の修正を地裁に指示していました。

差戻し審では、増額損害賠償の可否について当事者間で活発な議論が行われ、地裁も慎重に検討を行った上で、最終的に増額損害賠償を約61%減額しました。このような実質的な判断の修正は、単なる判決の執行以上のものであるとCAFCは指摘しました。

以上から、CAFCは、Packet I判決後のPacket社の特許侵害訴訟は、PTABの特許無効審決の影響を受ける非確定な状態にあったと結論づけました。

Packet社は、本件がFresenius II事件等とは手続的に異なり、Packet I判決で侵害の成立と損害賠償が確定しているため、PTABの特許無効審決の影響は受けないと主張しました。しかし、CAFCは、先例に照らせば、たとえ侵害の成立が確定していても、損害賠償の算定等について追加的な手続が必要な場合には、特許無効審決の影響を受け得ると判断しました。

以上の理由から、CAFCは地裁の修正判決を破棄し、事件をテキサス東部地区連邦地方裁判所に差し戻すとともに、CAFCでの特許無効審決の確定を受けて、本件を却下するよう指示しました。

本判決の示唆と実務への影響

地裁係属中の特許訴訟に対するIPR特許無効審決の影響

本判決は、地方裁判所で係属中の特許訴訟に対する、IPR(当事者系レビュー)による特許無効審決の影響力を明確に示した点で重要です。たとえ地裁の特許侵害判決がCAFCで一部維持されたとしても、IPRによる特許無効審決が確定すれば、特許権者はもはや侵害訴訟を追行することができなくなります。

本件のように、特許無効審決の確定時期が、地裁への差戻し中であっても、特許侵害訴訟の確定性はIPRの結果に左右され得ます。このことは、特許権者と被疑侵害者の双方にとって、特許訴訟の戦略を立てる上で重要な考慮要素となりえます。

全ての争点が控訴審で確定するまで特許侵害判決は確定していない

本判決は、特許侵害訴訟の判決が真に確定するのは、全ての争点が控訴審で最終的に解決されるまでであることを改めて浮き彫りにしました。本件では、CAFCがPacket I判決で侵害の成立を維持しつつも、訴訟前損害賠償等の論点を差し戻したことにより、判決全体としては未だ確定していないとの評価を下しました。

このことは、特許権者が侵害訴訟の勝訴判決を得たとしても、そのような判決に安住することなく、全ての争点が控訴審で確定するまで、継続的に特許の有効性について注意を払う必要があることを示唆しています。他方、被疑侵害者にとっては、たとえ侵害が認定されても、損害論等で差戻しが命じられた場合には、特許無効の主張の余地が残されていることを意味します。

地裁特許訴訟と並行するIPR手続の重要性の再認識

本判決は、特許訴訟の当事者に対し、IPR手続の重要性を再認識させるものといえます。特に被疑侵害者にとっては、たとえ地裁の特許侵害訴訟で敗訴しても、並行して進めたIPRで特許無効審決を得ることができれば、侵害訴訟の判決を覆すことができる可能性があります。

他方、特許権者としても、たとえ特許侵害訴訟の一審判決で勝訴しても、IPRによる特許無効のリスクを軽視することはできません。IPR手続では、地裁訴訟とは異なる証拠や主張が提出される可能性があるため、特許権者は、IPRの動向にも十分な注意を払う必要があるでしょう。

このように、本判決は、特許訴訟の当事者に対し、地裁訴訟とIPRの双方の手続を連携させながら、統一的な訴訟戦略を立てることの重要性を示唆するものといえます。

まとめ

本稿では、Packet Intelligence LLC v. NetScout Systems, Inc.事件におけるCAFCの判決を詳細に検討しました。本判決は、特許訴訟の確定性(finality)の判断基準を明確にし、特許審判部(PTAB)による特許無効審決が地裁係属中の特許訴訟に与える影響を再確認した点で重要です。

CAFCは、地裁判決が「訴訟を完全に終了させ、判決の執行以外に裁判所に何もすべきことを残さない」場合にのみ特許無効審決の影響を受けないと判示しました。これにより、特許権者は侵害訴訟の勝訴判決を得ても、全ての争点が控訴審で確定するまで特許の有効性に注意を払う必要があり、被疑侵害者は敗訴後もIPR等で特許無効の主張の余地が残されていることが明らかになりました。また本判決は、特許訴訟当事者が地裁訴訟とIPRを連携させた統一的な訴訟戦略を立てることの重要性を浮き彫りにしたといえます。

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